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妖刀を拾った中年探索者、女侍の亡霊に死ぬほど鍛えられる〜悪いヤツらを斬って美少女探索者パーティを助けた俺、配信でバズり始める。  作者: 甲賀流


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修行開始


 事務所を出た瞬間、外の空気がやけに軽く感じられた。


「……ふぅ」


 思わず息を吐く。


 スリースターズの事務所。

 独立したてとはいえ、内部はきちんと整えられていて、居心地は悪くなかった。

 むしろ、丁寧すぎるくらいだった。


 あの三人もそうだ。

 敬意と距離感を保とうとするヒカリ。

 最初から最後まで人懐っこく、場の空気を和ませていたルナ。

 そして一歩引いた場所から、ずっとこちらを観察していたカナデ。


 ――勧誘の話だって、本気だった。


 給与。

 待遇。


 そして向けられる期待。


 どれも俺からすれば、破格も破格だ。


「……人生、何があるか分からんな」


 数日前まで、俺は採取クエストを回して日銭を稼ぎ、なんならこの先もずっとこうやって生活していくものだと思っていた。

 それがまさか超人気パーティ〈スリースターズ〉の事務所に招かれることになるとは。


 普段なら今頃、小銭を稼ぐために低階層のダンジョンで探索をしていた頃だろう。


 だが今はそんなことしなくていい。


 神崎社長。

 あの人から渡された頭金。

 それだけで、半年は何もしなくても余裕で暮らせる金額をもらった。


 生きるために戦う必要は、もうない。


 これからは俺自身――そしてスリースターズのために、この身を尽くす。


 それだけだ。


 だが同時に、頭の片隅に引っ掛かっているものがある。


 それは彼女たちスリースターズを襲った仮面パーティという連中。

 神崎社長が言うには、最近できた新参のチャンネルらしい。


 あの場にいたのは計三人。

 でもさっき社長に見せてもらった動画には、少なくとも五人以上はいた。


 つまり――狙って探索者をいたぶる探索者が、まだ他にもいるってことだ。


 協会が動いている、これ以上踏み込まなくていい。


 社長はそう言っていたが……いや、本当にその通りだ。

 俺が何を考えても仕方ないこと。

 

 今は目の前のことに全力に、だ。


 まずはその第一歩。


 三日後に控えた――


「……ヒカリの修行」


 俺は、B級探索者であるヒカリの師匠役を務めることになっている。


 正直、実感が湧かない。


 探索者ランクで言えば、向こうの方が上だ。


 俺に分があるのは、探索者としての経験年数と、


「……あの時の感覚だけ、だな」


 昨日。

 グランド・トロールを倒したあの技術と、仮面の男たちを圧倒したあの力量。


 俺が師匠として伝えられるとしたら、おそらくあれくらいだろう。


 しかし、あれは俺じゃない。

 彩芽だ。


 せめてその感覚が掴めればと思ったが、先に取り憑かんと言われてしまったからな。


『恒一』


 頭の奥から、聞き慣れた声。


「なんだ?」


『一つ、言っておく……』


 彩芽の声音が、少しだけ真剣になる。


『先は取り憑かんとは言ったが、正確には取り憑けんのだ』


「……は?」


 思わず足が止まった。


「今なんて言った?」


『取り憑けん、と言った』


 あっさりした口調。


「どうして?」


『憑依には、それなりのエネルギーが要る。先日の憑依で、わっちの中のエネルギーはほぼ使い切ったと言っていい』


 淡々とした説明。


『次に同じことができるとすれば……そうだな。早くて来月、といったところか』


「……そう、なのか」


『それとな』


 彩芽が、さらに口を動かす。


『わっちの姿が見えるのは、刀の所有者であるお主だけだ。スリースターズの面々には、わっちは見えん』


 つまり、それは彩芽を存在しないものとして扱わなければならないということだ。

 今後一切、他者の前においては。


 俺にしか感じれない亡霊。

 なんだかそれは不思議な経験であり同時に、どこか寂しい感情が渦巻いていた。


『恒一、お主が感傷に浸る必要はない』


 彩芽の声は、頭の奥で静かに響いた。


「……いや、だってさ」


 俺は思わず、歩きながら呟く。


「一階層じゃ、普通にお前と戦っただろ。なのに今は俺にしか見えないし、聞こえない」


『それが不思議か?』


「当たり前だろ」


 彩芽は、少しだけ笑った気配を滲ませた。


『では、簡単に言ってやろう。わっちは冴斬の魔力の残滓のようなもの。ゆえに、一階層でのみ実体を得られたのだ』


「だから俺とも戦えたと?」


『そうだ』


 彩芽は満足そうに言う。


「だけどあの時、突然俺にしか視えなくなった。どうしてだ?」


『あれは、省エネというやつだ。いくら一階層に冴斬があるとはいえ、実体を保つにはそれなりにエネルギーが要る』


 なるほど。

 それなら配信中、突然俺にしか彩芽が視えなくなったのも納得だ。


『そして恒一、お主が冴斬を手にした瞬間、状況は大きく変わった』


「変わった?」


『所有者が定まった』


 少し、間を置いて。


『つまりわっちをこの世に留めていた魔力が、外界になくなってしもた』


「……つまり」


『わっちは冴斬の傍でのみ顕現できる存在。だからこそお主の内側でのみ成立しておる、いわば亡霊なのだ』


 胸の奥が、すとんと落ちた。


「だから、他の奴らには見えないし、聞こえない」


『そういうことだ』


『今のわっちはお主が見ているから見え、お主が聞いているから聞こえる……それだけの存在じゃ』


 俺は、小さく息を吐いた。


「……じゃあもう二度と、外には出てこないのか?」


 彩芽は含みのある声で答えた。


『さぁな』


 訪れる静寂。

 そののち、彩芽は話題を大きく切り替える。


『それよりもだ、恒一。今から行くのだろ?』


「え、行くって?」


『強くなるための修行だ』


 静かな宣告だった。


『スリースターズの事務所で思考していただろ? この三日で少しでも強くなると』


 そうだ。

 ヒカリの修行が決まった時、心に誓ったのだ。


「あぁ。そうだった」

 

 この三日の間で、少しでも彼女に与えられるものを増やそうと。


『三日あれば十分じゃ。わっちがお主を鍛えてやる』


 なぜか、彩芽は断言した。


「……できるのか?」


『まぁ、細かい話は後だ』


 そして俺は彩芽はが修行場所に指定したある場所へ移動をした。



 * * *

 


 堺城ダンジョンタワー。

 一階層。


 それはかつて、冴斬と出会ったあの場所だった。


「……また、ここか」


『始まりの場所に戻るのは、悪くなかろう?』


 彩芽の声と共に、空気が変わる。


 壁。

 床。

 空間そのものに、濃い魔力が満ちていく。


 そして――


 俺と剣を交えた、和装の女が姿を現した。


「……なんだ、出てこれるじゃないか」


『ここだけ、だ』


 彩芽は、静かに告げる。


『冴斬の魔力が蔓延っている空間。この場でなら、わっちは具現化できる』


 彼女は、細く笑った。


『だが問題ない』


 俺を真っ直ぐに見据え。


『依代はもう見つけた。ここを出ても、お主の体を棲めばいいだけ』


 背筋に、ぞくりとしたものが走る。


「……おい」


 嫌な予感しかしない。


「まさかお前、この先ずっと俺の中に――」


『そのつもりだが?』


 即答だった。


「いやいや、ずっと一緒とか困るんだけど!?」


『何を言う。師匠と弟子が共にあるのは当然であろう。それとも、お主……』


 ニヤリ、と悪い笑み。


『わっちが傍にいれば、ふしだらなことが何もできぬなどと思っておるのではないか?』


「ばっ……!」


 慌てて否定する。


「何言ってんだよ!」


『安心せぇ。人の不埒な部分など、全くもって覗く趣味はない』


 さらっと言い切る。


『その時は目隠しでもしておこうかの』


「耳も塞いでくれよ!」


『冗談じゃ』


 彩芽は楽しそうに笑い、そして一歩、前に出た。


『安心せい』


 空気が、引き締まる。


『都合が悪い時、わっちと意識を切り離す術はちゃんと教えてやる』


「……そんな方法があるのか?」


『あぁ』


 一拍。


『ただし』


 彩芽の瞳が、鋭く光った。


『この三日の間、わっちの修行に耐えられたらの話だがのぉ』


 俺は、冴斬を手に顕現させる。


 胸の奥が、妙に熱い。


「……望むところだ」


 こうして。


 逃げ場のない三日間が始まった。


 

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