第61話 厳しい現実を突きつけてしまった日
▼狐白の領域
散々あーちゃんに弄ばれた後、ボクたちは解放された。
しかしその後やってきたスサノオ様がとんでもない爆弾発言を残していったのだ。
曰く、「姉貴、そういえば下の世界の狐白の様子を見るとか言って風呂場覗いてた件はバレなかったのか?」だ。
その後あーちゃんがどうなったのかは言うまでもないだろう。
そんな事件の後、ボクはあんずちゃんを引き連れ自分の領域へ一度やって来ていた。
残りの正月行事もあるので色々とやった後に再び日本に戻ることは確定しているのだけど、田中さんやアイリにお土産も渡したいし伝えなければならないこともある。
「ということで時々お手伝いに来てくれることになった猫又少女のあんずちゃんです」
「あ、あんずです。よ、よろしくお願いします……」
アクアたちやクルスたちに見られながらの挨拶は緊張したようで、あんずちゃんの声が若干震えている。
桃花や瑞葉なんかは無邪気に「よろしくお願いします」といい、アクアたちは「狐白様の世界でのお友達ですか」と静観気味。クルスたちに至っては「お母様とのご関係は」と探りをいれる始末だ。
なお、あんずちゃんからは「お母様ってどういうことですか?」っと聞かれたので「引き取った双子です」と答えておいた。それが全てなので。
「猫、猫ちゃん……」
そう口に出したのはなぜかミリアである。ミリアはあんずちゃんの揺れる二股の尻尾をチラチラと目で伺っている。どうやら猫好きなようだ。
「ミリアって猫好きよね〜」
そういったのはアルカだ。どうやら昔から猫好きで猫を追うことを楽しみにしていた様子。
「昔は触れませんでしたけど、今なら!」
ミリアは猫に触れることを目指しているようだ。そういえば下の世界で猫に出会ったことってあったっけ? 街でもあんまり覚えてないような……。
「あんずちゃん、たまにでいいからミリアに触らせてあげてね。耳とかでいいから」
「あたし、猫又であって猫じゃないんですけど……」
あんずちゃんは不服そうだけどとりあえずうちに猫がいないので諦めて!
そんな出来事の後、ボクとあんずちゃんはさらに次の行動に移る。
まずは前にアイリと田中さんがほしいと言っていた物を購入。お米とか醤油とかあと直火で炊ける釜。
それとお酒類というかビールとジュースを購入しておく。あと欲しいものがあったらその時聞くことにしよう。
というわけで早速廃墟まで移動だ。
▼惑星ウル イストーの街 近郊の森 廃墟の館前
「あ、アイリと田中さんがいますね。ちょうどよかったです」
早速廃墟にやってきたところ、畑の方にアイリたちがいるのが見えたのであんずちゃんを伴ってそちらに移動することに。
ちょうど2人は畑を拡張している最中のようで、土に塗れた作業服を着用していた。前に買ってきたやつだ。
「アイリ、田中さん。お土産持ってきました」
「お、ありがとうございます。ところでどちらに行ってたんですか?」
「こはくちゃんありがとうー。あれ?そっちの猫耳の可愛い子は誰?」
田中さんはボクがどこに行ってたのかを問い、アイリは一緒にいるあんずちゃんに視線を向ける。
ちなみにあんずちゃんはボクのお手伝いということなので下位世界に来ても異変が起こらないように対処している。
「は、初めまして。あんずといいます」
緊張した面持ちでそう挨拶するあんずちゃんとにこにこ顔のアイリ。
「そっかそっか。あんずちゃんっていうのかぁ。ところであんずちゃんはどこから来たの?」
「あ、えっと。日本からです」
「えっ」
「日本……?」
あんずちゃんがそう説明すると同時に時が止まったかのように動きを止める2人。
さて、説明タイムです。
「細かいことは少し省きますが、結論としては2人は日本に帰ることができます」
「本当ですか!?」
「ほ、本当!?」
帰還したいと願っていた人たちにとっては朗報だろう。これからはなぜ今すぐは無理なのかを説明しないといけない。
「本当です。でも、今はまだ2人が帰るには条件が整っていません。無理矢理帰ることも可能ですが、その場合日本に辿り着いてから数年以内に必ず亡くなります」
そう説明するボクに、2人は唖然とした表情を向ける。当然だろう。今すぐ帰ったら死ぬと言われているのだから。
「まず2人だけでなく、この世界に何らかの手段で来てしまった日本人は全員同じ条件です。最低でもこの世界で1年は過ごしてください」
「ど、どうしてですか」
「なんで!?」
「具体的に言うと、2人は日本のある上の世界から滑り落ちるようにこの世界に来てしまっています。その際、上から下に落ちる時にその人が内包した魂のエネルギーの差分だけ、なんらかのスキルという形で力を変換しているんです。これは手順を踏まなければ誰にでも起きてしまう現象です」
そもそもこの世界の人間と上の世界の人間では、魂の内包されたエネルギー量に大きな違いがある。
それもあって、この世界に辿り着いてしまった上の世界の人間たちは差分分のエネルギーをスキルという形で補うことになってしまっているのだ。
「ですがここで問題が発生します。じゃあそのスキルや力を返せばいい。そう思うでしょう。ですが得たエネルギーを差分としてスキルに一度変換しています。自動的に。この変換した分を再度変換するとどうなると思いますか?」
「え? どうなるって……」
「そうか! 電気と同じ」
「はい。変換による損失が発生します。なので上からきて下で力を手に入れると、下から上に戻る際には変換損失が発生してもともと持っていたエネルギーでは足りなくなってしまいます。これを補うためには残された魂のエネルギーを消費します。つまり生命力を変換して上の世界で存在できるようにするわけです」
「魂のエネルギー? 生命力? どういうこと?」
「そうですね。魂というものを皆さんは見たことがないはずです。それぞれの魂には相応量の力が内包されているのですが、それが尽きると人は死にます。エネルギーを使い果たした魂は生命を維持することができなくなり、身体から抜け魂の休息という名のエネルギーの補充に入ります。これが死後の世界となるわけです」
つまるところ、変換損失が発生したまま魂の残りのエネルギーを生命力に変換した結果、魂のエネルギー残量が著しく低下して生命を維持できなくなるというわけだ。
魂は基本的に不滅なので空になった魂は再びエネルギーの蓄積に入る。これが死だ。
「じゃあどうすればいいの? このまま戻っても何もできないまま死んじゃうだけなら……」
「はい。そこでまずこの世界で力をつけます。別に戦ってもいいですし農業でもいいです。魂にはレベルのようなものがありますので魂のレベルを上げる必要があるわけです。魂自体は鍛えれば鍛えるほどエネルギーを貯めておけるようになりますのでその分生命力が強くなるわけです」
ただしデメリットとしてエネルギーをたくさん補充できるようになった魂は転生までに時間がかかってしまうようになる。
「それで最低一年は過ごせと」
「そうです。その代わりボクも補助はします。今回はそれもあって日本のお土産を持ってきました。理不尽な目に合って辛いとは思いますが、無事に帰るために少しだけ辛抱してほしいんです」
理不尽で厳しいことを言っている自覚はある。でも長生きするためには必要なことなのだ。
「なるほど。よくわかりました」
「一気に説明されて混乱してる。でもこのままじゃないのはわかるよ。少なくとも帰れる希望は出来たんだから」
「はい。こんな話だけされても不公平だと思いますので、ボクとあんずちゃんが何者なのかも教えますね」
本当なら機を見て戻してあげたいところだったのが本音だ。どの選択が良かったのかはボクにもわからない。
でも知らせずに満を持して帰すか、知らせて向こうの品物を渡しつつ帰還の時を待つか、どれを選ぶかは人それぞれだろう。
「納得できるようなできないような、そんなもどかしい気持ちですけどね。とりあえず向こうの物がもらえるなら私は我慢しますよ。ビールなんかあるといいですね」
「まだ気持ちの整理はできてないけど、わかった。帰れるならもう少しだけ頑張ってみるよ」
「はい」
ひどく残酷な話だけど、少しは希望を持ってもらえるといいな。
ボクはそう思う。




