第60話 あーちゃんくーちゃんあんずちゃん
寝殿内に入るとそのまま何故かどっかりと置かれているこたつにみんなで入る。
こたつの上にはみかんが置いてあり、袋の中には食べ終わったみかんの皮が山のように入っていた。
食べ過ぎではないですかね? 太りますよ。
そんなあーちゃんはあんずちゃんをじっと見ている。猫好きだっけ?
「そこな猫ちゃん。お名前は?」
「は、はい! 白山あんずです!」
「ふむふむ。あんずちゃんね。年齢は?」
「じゅ、14歳です」
「わっか」
14歳という年齢を聞いて思わず声に漏らすあーちゃん。
あーちゃんはボクたちと同じような見た目と性格だけど、年齢はとても上だ。
「久しく14歳とは触れ合ったこともなかったわ。いやぁもちもちのぷにぷにね」
「あ、あぅぅ」
14歳の子猫を無遠慮に撫で回すあーちゃん。そんなことしていたら嫌われると思うんだけど。
とはいえ、そこはさすがの権力者というべきかなんというべきか、あんずちゃんは困惑した表情のまま撫でられ続けていたのである。
でも時折ボクに「タスケテ」という視線を送ってきている。助けてもいいんだけど、その場合代わりにボクが撫でられ続ける羽目になるのでしばらくは生贄にさせてください。
あんずちゃんがあーちゃんに撫でられたり抱きしめられたり嗅がれたりすること小1時間。ようやく猫吸いもお終わったようなのであんずちゃんの実地研修に付いて相談することにした。
提案者は母である。
「なるほどねぇ。妖精郷に住所登録のない妖種の子の住所登録の話と、一時的なくーちゃんのお手伝いによる実地研修の話かぁ。いいんじゃない? でも危ないことさせちゃだめよ?」
「それは当然です。基本的には拠点周りのことを主にやってもらおうかと思っています」
「あーそうねぇ。そういえばその件で思い出したけど、早く街作りなさい。そして私の別荘建てなさい」
あーちゃんに実地研修の話をしたのはやぶ蛇だったかもしれない。
現状それほど進んでいない開拓の進捗もさることながら、しれっと自分の要求も押し付けてきたのだから。
とはいえ、現状まだ石器時代からちょっと飛び出して鉄器時代に移ったくらいの文明レベルなのだ。
まだまだ街作りは難しい。
「そ・れ・と、あっちの世界に日本人いるわよね」
「いますね。ボクに関わりのある子は2人だけですけど」
当然あーちゃんもそれは把握しているわけで……。
「そう。ここに連れてくるのはだめだけど、条件次第ではくーちゃんの領域くらいはいいわよ。それと、帰還可能な条件とデメリットは教えていいわ。あとはそうね。くーちゃんが妖種ネットから購入した品も提供していいわよ。でもちゃんと対価は受け取りなさいね」
「ふむ……」
たしかにあーちゃんの言うとおり対価は必要か。といっても何を貰えばいいのだろう。
「対価といえば金銀財宝やお金、宝石でしょうかね」
あんずちゃんから結構まともな対価の提案が来た。
普通はそうなんだけど、ちょっと問題がある。
「あー、金銀財宝や宝石ねぇ。当然そうなるわよね」
「ただちょっとそれは問題がありまして……」
「何が問題なんですか? その世界の資源が減るから?」
ボクとあーちゃんの考えは同じなのだけど、あんずちゃんだけは違う。
「まぁ資源が減るのは確かにそこそこ問題といえば問題なのですが、価値が低いんですよ。金銀財宝も宝石も」
「どこにでもあるのよね。別の惑星に行けば金だらけだし、なんならダイアも山ほどあるのよ」
「ほぇ〜」
ボクたちの話を聞いてあんずちゃんはきょとんとした顔になってしまった。
たしかに地球じゃ高価なものなんだけど、妖精郷は特にあっちこっちから金銀財宝が集まって流通しているのでまだ工芸品とかのほうが価値が高かったりする。
それに地球においても他の惑星から金銀宝石を採掘して持ってきたとしたら価値は大きく下がるはず。
つまりはそういうことだ。
「えっと、じゃあ何が価値があるんですか?」
あんずちゃんの純粋な疑問。
「そうですね。例えば、この宝石。これ何に見えます?」
そう言ってボクはバッグから赤い小さな宝石を取り出してみせた。
「うーん、ルビーとかガーネットとか」
「いい線いってますね。でもこれ、ベースはルビーなんですけど妖力をじっくり込めた【妖石】なんです。何も知らなければただのルビーですね」
「くーちゃん、それ売って! 買うわよ! 代金はネットのポイントでいい?」
「あ、はい。それでいいですよ」
ボクが作った品物にはすぐに食いつくあーちゃんもあーちゃんだけど、あーちゃんにとっても妖石はほしいものだろう。
「それはどんなものなの?」
妖石に興味津々なあんずちゃん。ちょっと可愛いので掻い摘んで説明することに。
「妖石は妖力の供給源にしたり他の力の代用に使用したり、砕いて粉にすることで色々な素材を強化することができるんですよ。薬に使えば薬効を強化したりできますし、もっとすごい薬の材料にもできます。妖種なら作れるこの石ですが、あーちゃんたちでは作ることができないので神族には大変よく売れるんですよね。ただ作るまでにちょっと時間がかかるので量産には向きません」
ざっと1年くらい妖力を注いでおかないと作れないのです。
「へぇ〜。あたしでも作れるようになるかなぁ」
「そのうち作れますよ。なので一緒に頑張りましょう」
「はーい!」
ちなみに妖種1人につき生産量は年1個である。毎度作れればいいけどまぁ割には合わないと思う。
「ふふ。くーちゃんの妖石。何かに使わずに取っておこうかしら」
「何かに使ってください。でないとあーちゃんの場合は貯めるでしょ」
「まぁね!」
とりあえずこれで臨時収入をゲットです。後は何を売ってものを買おうかなぁ。
と、ウキウキしながらそんなことを考えていると、なにやらあーちゃんがジリジリと躙り寄ってきた。
「な、なんです?」
「ふふふ。くーちゃんももふもふさせて!」
「お断り、します!!」
そう叫ぶやいなやボクは一気に逃げ出した。
のだが、あーちゃんのほうが若干早かったので惜しくも捕まってしまった。
「うう〜ん。もふもふ。はぁ〜いい匂い〜」
「や、やめてください、嗅がないでください!」
「うう〜ん。もっと嗅いじゃおっと」
「や、やめ! ヤメロオオオオオ!!」
「くーちゃんは余裕がなくなるとそうなるよね〜」
「はわわ……」
迂闊にも捕まってしまったボクは、小1時間ほどあーちゃんにモフられ匂いを嗅がれ続けるのだった。




