第53話 思わぬ出会い
結論から言えばバレなかった。マイクさんも「最近そういう呼び方を私たちの世界の人から教えられていたりしますからね」といって何事もなく終わったからだ。
ちなみに件のイタリアンシェフ前田健人さんは30代のやせ型の男性だった。
こっちに来てから得た技能は【解体術】と【収穫の才能】と【商売の才能】と【料理の鬼才】というものとのこと。
マイクさんと一緒に組んでダラムでこの宿を始めるまでの試行錯誤と苦悩はなかなか興味深いものだった。
そんなわけで食事も終わり部屋でドタバタがあった翌日、ボクは一旦カルラさんたちと別れてアイリたちの様子を見に行くことにした。ついでにダラムのお土産も色々かって持っていってあげよう。
「えっと、調味料にお野菜にお肉、一応鍋とかも必要ですかね。あ、それはボクのところで作ってもらえばいいか」
メルディアと相談しながら買ってはバッグにしまい、買ってはバッグにしまいを繰り返す。
ちなみにお金が足りないのは分かっているのでメルディアに少し貸してもらっている。この分は今週中には返済する予定だ。
「せっかく受け入れたのですし、あの廃墟がまともになるまではこっちで食料は用意しないとですしね」
領域の方でも自給自足が始まっている。移住してきた植物の精霊たちやノームたちが協力して農業を始めているのだ。
ちなみにうちの桃花は専用の畑を持っているのでそろそろ何かできるかもしれない。
「ほかに必要なのありましたっけ?」
なんか忘れてるような気がしたのでメルディアに相談した結果、着替えが必要だということを失念していた。
下着類とかどうにもならない気がしますが、一応調べてみますか。どの道サイズを知らないので再度来ることになるわけですが。
というわけで昨日訪れたお店とは別の商業区域に移動する。
昨日の場所は主に素材や金物などを扱うお店が多かったけど、今回は服飾類、古着などを主に取り扱うお店が多い。
ちなみにこの辺りの情報はなぜか『都市ダラムの歩き方』に記載があったので活用させてもらっている。
新品の服はとても高いそうなので古着をメインにするのがいいそうだ。
「古着古着屋っと。えっと、どのお店がいいんだろう」
いくつか古着屋を見つけたものの、扱ってる商品のタイプが若干違っていた。
1つは作業着のような服。動きやすくまぁまぁ丈夫らしいけどちょっとくたびれている物が多め。
1つは主婦層が着そうな服。家の仕事や掃除、子供の世話などに使える高くはないけど安すぎない複数買うことが推奨されそうな服だ。壊れやすいわけじゃなさそうだけど生地が綿なのでお値段控えめ。継ぎ接ぎ多め。
1つはお値段そこそこ高めで見た目もきれい。だけど丈夫かと言われると若干怪しい。そんな服。客商売用だろうか。
「さて、困りましたね。どれがいいのでしょうか」
立ち並ぶ古着店の群れを前にボクは立ち尽くしていた。
するとメルディアが袖をクイクイと引っ張ってきたので顔を向けてみると、任せとけと言わんばかりに胸を手で叩いていた。
さすがはメルディアさんですよ。
というわけで現状役に立たないボクはメルディアさんの行動を見守ることにした。
「おおっと、さっそくメルディアさんが1軒目のお店に入っていった。ボクもついていくことにしましょう」
ザ・独り言。すごく迷惑だろうけどなんとなくそんな気分だったんですよ。
さっそくメルディアが一軒目のお店に入ると近くの服を物色し始めた。そこは丈夫そうだけどちょっとくたびれている服を売っているお店だった。
するとメルディアが懐から何かメモのようなものを出して服のサイズを見ている。
それだけではなくメジャーのようなものを取り出して寸法を測りだしてしまったのだ。
まさかメルディアさん、アイリたちのサイズを計測済みなのですか!?
「メルディアさん、さすがメルディアさんです」
思わずそう口にすると、メルディアがすごくいい笑顔でボクにサムズアップしてみせて来たのだ。
なんかものすっごく嬉しそう。
メルディアはそのまま何着か手に取ると店員さんにお会計をしてもらいに行ってしまった。
「あらお嬢ちゃん、偉いのね。お使い? あぁ、人見知りなのかしらね。良いのよ、無理に話さなくても。お会計は、少しおまけしておくわね」
なんと店員の女性は近所の子供がお使いに来たと思ったらしく散々褒めまくった挙句古着なのにさらに値引きまでしてくれたのだ。
おそるべしメルディアさん。
「またおいでね~」
メルディアは買い物終えると次のお店に向かった。そのお店はそこそこ高くて見た目がきれいな服のお店だった。
さっそくメルディアは服を手に取り思い耽るように立ち止まる。その顔はとても真剣だ。
そのままいくつかの服を手に取りまた立ち止まる。それを繰り返した結果、男女2着ずつを購入するに至った。
どうやらメルディアさんは服を見ながら頭の中で田中さんとアイリの姿かたちをイメージしていたようだ。
おそらくメルディアの頭の中ではびしっと決まった2人の姿が再現されたことだろう。
「ふふ、お使いかしら。それなりに高いでしょ? 丈夫とは言えないけど見た目ときれいさを重視してるからデートに来て行ってもどうにかなる一品よ。4着も買ってくれるなんてありがたいわ。少しおまけしちゃうわね」
またまたお使いだと思われたメルディアさん。今回もその可愛さ、健気さをフル活用して店員さんから値引き特典を引き出してみせてしまった。
なんと買い物上手なのでしょうか。ボクも見習いたいものです。
そうこうしているうちにメルディアは買い物を終えたようでボクのところへと戻ってきた。
買ったものは丈夫そうだけどくたびれている古着とそこそこお高いけど見た目がきれいな服となった。
お出かけ用と作業用兼普段着用といったところだろうか。
「さすがです、メルディア」
ボクはメルディアを褒め称えることにした。ボクは見てただけですしね。
そんなメルディアは褒められて嬉しそうに照れていた。可愛い。
「それじゃあ次行きますか」
メルディアの手を取り、次の場所へ向かおうとしたその時。
「あ? 狐白?」
「?」
突然ボクの名前を呼ばれたので振り向くと、そこには見知った顔があった。
頭から2本の角を生やした小柄な黒髪の美少女。妖鬼、つまり正真正銘の鬼がそこにいた。
「【鈴音】?」
「おうよ。ってここでは【鬼那】って名乗ってんだ。本名はあっち帰ったら呼んでくれよな」
そこにいたのはボクの幼馴染の鬼の【酒井鈴音】だった。
なぜこんなところに? と思ったものの、鈴音も自分の領域を作ってたことを思い出した。
「うしし。驚いたような顔しやがって。お前のそういう顔を見るのは結構久しぶりかもな。っと、予定がないならそこの小さいのと一緒について来いよ。領域を案内してやるからよ」
鈴音こと鬼那はそう言うと、開いているもう片方のボクの手を取って勝手に歩き始めてしまった。
とりあえずついていくボクとメルディア。
そういえばまだ領域にはいったことがなかったっけ。




