第48話 ベアトリスと狐白と訪問者
無事にベアトリスさんと契約することができたので早速ボクの領域へと案内しようと思った。けど考えてみれば一回ダラムの外に出ないと転移ポイントには行けないのではないだろうか。
ならば後にするべきだろうか。
「狐白様の心の声が伝わってきました。転移ポイントというのはよくわかりませんが、世界中の色々なところに隠された空間回廊があるようですね。精霊界のこの領域は私の力で作り出していますので私と契約している間ならこちらから狐白様の領域への扉を開くことは可能だと思います」
どうやらボクの心の声はベアトリスさんに筒抜けだったようだ。
となれば話は早い。
「分かりました。それだったら大丈夫そうです。転移用の宝玉は今持っていないでベアトリスさんはここで待っていてください。繋がりを辿って戻ってきますので」
「はい、わかりました」
というわけでベアトリスさんだけを残してボクは元々持っている父譲りの能力で空間に簡単な亀裂を作った。
目の前には人1人分くらいの大きさの扉型の亀裂が発生し、その先は光に包まれた空間になっている。
空間と空間の境目には余分なものが入らないように結界を張り安定させる。
その後お互いの境から色々なものが流出しないように入口同士に結界を張る。
この結界は一種のバリアのようなもので、触れればすごく痛いので注意が必要だ。
「空間は安定、物質の流出はないようですね。しっかりできているようですので大丈夫ですね」
「このように簡単に空間に安定してる穴を開けられるなんて……」
ボクが細部を確認している最中、ベアトリスさんからそんな声が聞こえてきた。
まぁなんかできるという感じなので詳しく説明することが難しいんですけどね。
「なんとなくですが、穴を開けて出入り口を作ってからトンネルのように外部から変なものが入り込まないように防護壁みたいなのを作っているんですよ。空間と空間の間には奇妙な存在がいるって父が言っていましたから」
父曰く、世界の狭間には黒い粘性生物や触手を持った奇妙な存在が巣くっているらしい。最近その1つが父の兄弟の配下になったと聞いたけど。
「さすがは【世界を渡る者】の血筋といったところでしょうか……」
どうやら人間界から直接道を開くよりは精霊界から開くほうが安定しているらしい。
もしかするとあの世界が特殊なのかもしれないけど。ともあれベアトリスさんを連れていくためにも道を安全に確実に繋げてあげないと。
あちこち確認したものの、やはり不備はなさそうだったのでそのままボクの領域へと繋がる空間の穴を開ける。
まぁせっかくだし扉風に加工してみようかな。
そんなわけでベアトリスさんの領域とボクの領域の出入り口を扉風に装飾して、光の道とトンネルをレンガ風に加工しておいた。これで少しは違和感が減るだろう。
ちなみにこの空間に集まる光はそれぞれの宇宙から発せられた星の光たちだ。
ボクや父はこの光を色々なものに加工する能力を備えている。例えば建材であったりインゴットであったり粉であったりだ。今後は少しずつ活用してみるのもいいかもしれない。
そんなこんなで通路を装飾し終えると、ベアトリスさんを迎えに行く。
ベアトリスさんは扉の前でずっと待っていてくれたようなので、軽くベアトリスさんの領域とボクの領域の階層差について説明しておく。
簡単に言えば、1つ上の階層に行くには必ず見えない膜のようなものを突破する必要があるのだ。
この膜は上から落ちてくればその魂の力分のエネルギーを能力やスキルなどに変換して対象に与えたり、下から上に昇る際には足りない分を能力や生命力でカバーしたりするという特性がある。
普通に下の世界の人が上の世界に行こうとすると無事に辿り着けても数年以内には死亡することになるだろう。
「というわけで、安易にあちらの世界の人間を連れて行ったりはしないでくださいね。ベアトリスさんやほかの精霊はボクと契約しているのでボクの加護的な物で能力の減衰や生命力の変換を抑えていますので。契約していない精霊の場合はボクが契約している精霊王の眷属や系譜であれば同じ加護を受けられるので問題なく行き来出来ますよ」
とはいえ、精霊王クラスや神クラスならあまり心配することもないだろうけど、念のためにね?
「わかりました。それにしても最初にそちらに向かったアクアの行動力はすごいですね」
「たしかに。でもおそらくですが瑞葉が水の精霊なのでその関係もあるかもしれませんよ。因果というか縁というか。まぁそんなところです」
あの時契約していない精霊の系譜がやってきてたらどうなっていたかはわからないけどね。
「それじゃあ行きましょうか」
「はい」
そんなこんなでボクはメルディアとベアトリスさんの手を引き、光の道を通る。
今は加工しているし安定もしているので落ちることはないのだけど、もし落ちたらどの世界に落ちるかは正直わからない。
ボクは帰ることができるけど、ほかの人や精霊はだいぶ怪しいだろう。
「なんだか不思議な感じです。足元は硬いような柔らかいような、ふわふわしているようなしっかりしているような」
「その感覚が上下を隔てる膜を越える時の感覚ですね。降りる時はあまり感じませんけど、昇るときは抵抗があるので」
「そ、そうなんですね……」
不安そうなベアトリスさんとお気楽そうなメルディア。
なかなか対照的な2人だ。
そんな2人の手を引きつつ、歩いていくと反対側の扉へとたどり着いた。
ここを開ければボクの領域だ。
「よしっと。ただいまです」
「おかえりなさいませ」
「「おかえりなさい、お母様」」
「おかえりなさい、マスター」
「「「「おかえりなさい」」」」
ちょうど向こうにみんないたらしく、次々に挨拶されてしまった。
今ボクたちが出てきたのは、ボクの領域にある転移用の宝玉の前だ。ここが転移ポイントになっているので大抵ここに出るようになっている。
「ここが、狐白様の領域」
ベアトリスさんは興味深そうにあたりを見回している。
そんなベアトリスさんにアクアが近づいていく。
「ベアトリス。貴女も来たのですね。やはりそろそろ危ないですか?」
何やら深刻そうな顔でそう話すアクア。
「はい。あの国は戦力拡充のために異界への扉を何度も何度も開いているようで精霊界の領域も揺らいで怪しくなっています。隣接する世界を切り替えないとやがて巻き添えになるかと」
「そう、ですか」
ベアトリスさんの報告を聞いたアクアはさらに深刻そうな顔になると、ため息を1つ吐いた。
そういえばあっちの世界には今重大な問題があると聞いてたね。
「ともあれわかりました。私たちの領域についてはそのうち考えましょう。今は眷属たちもこちらに移住していますからね。そういえば狐白様?」
「はい?」
ベアトリスさんと話していたアクアが急にボクに声を掛けてきた。
何事だろうか。
「少し前に背の高い狐耳の男性の神と少し背の低い狐耳の女性が来ていましたよ。どちらも狐白様によく似ておいででした」
「ふむ?」
アクアの言葉を聞いて誰だろうと首を傾げる。
そのまましばらく考えていると、1つの答えに辿り着いた。
「もしかして、男性の方は【詠心】、女性の方は【葛葉】と名乗っていませんでしたか?」
「はい。良くお分かりになりましたね。やはりあの方たちが……?」
「はい。ボクの父と母です」
「やはり。詠心様は【世界を渡る者】の力をお持ちでしたのでなんとなく予想しておりました」
「ま、まぁ……。でもあまりここにはこないのに珍しいですね」
どうやらアクアは父たちのことをなんとなくでも知っている様子だ。
あの忙しい父がここに来る用事は想像できないですけどね。
「はい。手紙と贈り物を置いて行かれましたよ。こちらです」
アクアはそういうと、箱と手紙をボクに手渡してくれた。
「ふむふむ」
『クリスマスなのに帰ってこない我が娘へ。訪ねてもいなかったのでクリスマスプレゼントだけ置いていく。最低でも年末年始には帰ってくるように。詠心・葛葉』
「あっ。あっちはもうそんな時期でしたか」
最近あまり帰っていなかったのですっかり忘れていたけど、12月に入っていたのでした。
「うーん。年末年始くらいは帰るべきでしょうかね……」
実に悩みどころだ。でも言われたからには帰らないと押しかけてくるだろうし……。
「そうですね。でもまずはやり残したことを片付けてしまいましょう」
「わかりました」
アクアの助言に従い、さっそくベアトリスさんの領域をこちらに繋げることに尽力しましょうかね。




