第47話 契約の精霊
謎の神官服の老人はボクにそう話すと、先導するように歩き出した。
ボクたちには何の説明もなしにだ。本当に一体誰なんだろうか。
ふとメルディアの方を見る。メルディアは特に警戒した様子もない。つまり現状問題はないということだ。
「あの、どこへ……」
「神殿の奥の間でございます」
ただ無言でついていくことに不安を覚えたボクは謎の老人に問いかけた。
しかしその返答はただそれだけ。時折神殿内の神官に声を掛けてはボクの方を見て再び歩き出す。
「ようこそおいでくださいました」
その度に神官の脇を通るたびにそのように声をかけられた。
しばらくそのまま後について歩ていくとやがて廊下に出て、ぐるりと回るような形でさらに奥へと進んだ。
そして辿り着いた奥の間と言われる場所。大きな白い扉が印象的だった。
「この先はご神体と聖具が安置されている神聖な場所となります。ゆっくりとついてきてください」
再び老人は歩き出した。そして大きな白い扉に手を翳し何かを唱えると、ギギギと音を立てて扉が開いていく。
老人を追い部屋に入る。するとそこには横一列に並べられたアクアたちそっくりの像と見知らぬ女性の像、そして
最奥に安置された大きな箱があった。
あの箱の中に聖具なるものがあるのだろう。
「狐白様。私は神官長を務めさせていただいております、【パウロ】と申します。お見知りおきを」
「えっと、【狐白】です。こちらはメルディアです」
謎の老人はパウロさんという名前らしい。
ボクも名前を伝え、同行するメルディアの名前もパウロさんに教えた。
「さっそくではありますが、七体の女神像の中心、契約の女神像の前にお進みください。私は部屋から出ておりますゆえ」
何があるのかはわからないけど、言われた通りに中心の女神像の前へと歩いていく。
パウロさんは少し後に、そっと部屋から退出していくのが見えた。
つまりこの部屋にいるのはボクとメルディアのみとなる。
聖具も安置されているというのに無防備な状態でいいのだろうか?
そんなことを考えながらメルディアの小さな手をぎゅっと握っていると、どこからか声が聞こえてきた。
『こちらへ』
その瞬間、ボクは光に包まれた。
そして目を開けたとき、そこは神殿の中ではなくどこかの外にいたのだ。
「ここは、どこですかね」
周囲を見回す。キラキラと輝く花畑や夕焼けのようなきれいな色の空がどこまでも広がっていた。
空気は澄んでいて、濃い精霊の力を感じる。
「ようこそ、私の精霊界の領域へ」
いつの間に居たのだろう。ボクの近くに少女がいた。銀髪の長い髪のお淑やかそうな少女だ。
「どなたですか?」
ボクはその少女を知らない。手を握っているメルディアを見るがきょとんとした顔をしているのでメルディアも知らないようだ。
「私は契約の精霊【ベアトリス】と申します。貴女をずっと待っておりました。狐白様。ようやくお会い出来ました」
ベアトリスと名乗った少女は自分のことを契約の精霊と紹介した。つまりさっきまでいた神殿の女神とも言える存在ということだ。
「ここは精霊界の私の領域ですが、ご覧の通りあまり建物などはありません。アクアたちとは違い眷属となる精霊がいないのが主な原因ではあるのですが」
ベアトリスさんは気恥しそうに可愛らしい顔をそっと伏せてもじもじとしている。
なんとなくいじらしい感じの子だなぁと思いつつも、気になったことを尋ねることに。
「眷属がいない?」
「はい。地水火風光闇。これらの属性や要素は世界中のあまねく場所に存在しています。なので根源精霊たちやそれを管理する管理精霊たちの手がたくさん必要なのです。ですので他の子たちはたくさんの眷属を抱えています。ですが私や一部の子たちは同じ精霊王の力は持っていても王を名乗りません。あまりにも司る権能が特殊すぎるため眷属を作れないのです」
「なるほどです」
この景色はいいものの建物も少ししか存在しない領域の理由がよくわかった。
まぁそういう意味ではボクも眷属とかはいないので今まで更地でしたけど。
「【狐宮狐白】です。こちらはメルディアです」
「改めまして、よろしくお願いします。今回お呼びした最大の理由ですが」
「はい」
改めてベアトリスさんと挨拶を交わすと、いよいよ本題に入るようだ。
ベアトリスさんは若干緊張気味な顔をしている。
「私と契約していただきたいのです。主従関係で構いません」
「契約、ですか」
ボクたちと精霊の契約は基本的に主従関係になることがほとんどだ。
領域にいる精霊たちとは全員と契約しているわけではない。ならなぜ彼女たちはボクの領域へ来れるかというと、前回ガルドさんに言われて行き来できるようにホワイトリスト登録しているからだ。
一部の精霊、桃花や瑞葉は当然のこと、ミリアたちもボクと契約している。ガルドさんたちノームとは契約している。まぁガルドさんたちとは会社の上司部下みたいな関係性な気がするけど。
結果的にノームのリーダーのようなガルドさんやアクアたちとの契約によってほぼ全体にボクのお願いが通るようになっている。
「はい。狐白様と契約することで私も狐白様の領域に移住することができます。そうなりますと、もしこの世界に何か重大な問題が起きたとしても対処することもできるでしょう。アクアたちもそうですが、精霊界がこちらの世界だけに依存している形は非常によくないのです。ですが私たちだけではほかの世界と繋がることはできません。【世界を渡る者】の子である貴女ならそれが可能なのです」
【世界を渡る者】についてはボクは良く知らないが、どうもうちの父のことらしい。
もしそうであるなら、ベアトリスさんのために手を貸すのもいいだろう。
「わかりました。契約、しましょう」
「あっ、ありがとうございます!!」
ボクが同意した瞬間、ベアトリスの顔に笑顔の花が咲いた。
それはとてもきれいで可愛らしい笑顔だった。




