第40話 帰れない事情
アイリさんと田中さんの使用するテントは個人向けの【ワンルームテント】というものになった。
妖種ネットおすすめのテントで、個人認証付きのまさに持ち運べるワンルームらしい。
1部屋とトイレとシャワールーム、小さなキッチンがついて10万ポイントという破格の値段設定。
2つ購入して合計20万ポイントになったので、残ポイントは20万ポイントになってしまった。
ちなみに転売や貸与は不可能。日本での使用も法律上不可能となっているので利用できる場所はかなり限定されてしまう。
なおトイレは水洗式のため流すことが可能で、お風呂の水やキッチンの水同様、排水は見えない場所にある汚水タンクに溜まっていく。
給水タンクも同時に一緒に設置されているので、汚物汚水のリサイクルも可能となっているようだ。
気持ち的に嫌な場合は最寄りの下水道に排水するか、もしくは事業者に回収してもらうのがいいと説明書きの注意事項には記載があった。
勝手に排水すると逮捕されるリスクがあるのでおすすめはできないけど、排水利用可の場所であれば利用しても構わないようだ。
ちなみに電気は別売りの発電機を利用することになるので注意が必要。
でも説明を読んでて思ったけど、排水可能な場所ってどこだろう?
ボクの領域かそのあたりなんだろうけど、今度鬼島さんに確認してみよう。
「あの、このテント、見た目と中身が違いすぎるんですが……」
「そのあたりは謎技術なのでボクにはわかりません」
田中さんを専用テントに案内すると驚いたような顔をしながらそう口にした。
たぶんボクも作ろうと思えば作れますけど、どうやって作ってるのかはまるでわかりません。
「へぇ〜。これと同じものが私にも。落ち着ける個室があるのはちょっと嬉しいかも」
アイリは個室があることを素直に喜んでくれているのだけど、時折視線がボクの持っている端末に注がれる。
これは聞きたいけど聞けないときの動作ですね。
「そんなに気になりますか? この端末」
「もちろん!」
「そういえばそれってなんなんですか? まるで通信販売のようなことができるようですが」
まぁ通販ですから。
「えっと、これはですねぇ」
そうしてボクは掻い摘んで端末について説明した。
ただし高天原の関与は省いたけど。
「そんな専用の回線みたいなのがあるんですか。もしかして狐白さんはこの世界の人ではなかったり?」
「えっ!?」
何やら鋭い田中さん。とはいえネットについて話していたら当然そういう方向に話が進みますよねぇ。
対するアイリは何やら過剰な反応を示している。帰りたいのだろうけど、まだすぐに帰せるってわけじゃないんですよね。どこかで話す必要はありそうだけど。
「ボクは妖精郷という場所から来ていますよ。ボクたちみたいなのがたくさんいる場所ですね。まぁ異世界ですけど」
「なるほど。ちなみにそこにはいつでも帰れるのでしょうか?」
「そうですね。本当は2人も招待したいところですが、ちょっと状況がよろしくないのでしばらく後になりそうです」
「それはまたどうして?」
田中さんの質問にどう答えたものかしばらく悩む。
「それは世界の構造によるところが大きいです。でもこの話はまだ2人には理解できない部分もありますし、理解できたからと言ってじゃあ今すぐにというわけにはいかないんです。元の世界に戻りたい気持ちも分かりますが、もうしばらく慣れるまで待ってくださいね。その理由はまたそのときに」
「そう、ですか。わかりました」
「アイリも大丈夫ですか?」
すっかり黙り込んでしまったアイリ。ボクは気落ちしていないか気になってしまった。
だって知ってるけど今は教えることができないのだから。
なぜなら地球とは違うこの下位世界に落ちてきてしまった人間は、階位差による余剰エネルギーで強い力を得る一方、元の世界に戻れたとしても短命に終わってしまうからだ。
理由は単純で、上の世界から下の世界に降りる際、元々持っている強い魂の力を下の世界用に調整されてしまうからだ。
下の世界に降りた強い魂の力はスキルなどの形で恩恵を与える一方、元の世界に戻った際にはすべて失われて世界に合わせた魂の力へと還元される。この時変換による損失が発生するのだ。この損失が魂の力を弱くし寿命を劇的に短くしてしまう。
対処法は下の世界で鍛錬して魂の力を鍛えるしかない。
「うん。ありがとう、こはくちゃん」
「いえ。ただ、意地悪しているわけじゃありませんのでそのうち理由を教えますね。それまでは辛抱してください」
アイリや田中さんには辛いことかもしれないけど、戻りたいならボクも尽力するので待ってほしい。
田中さんとアイリにそんな話をしてしばらく後、ボクは妖種ネットで新しい地域へのショートカットについて調べていた。
今回はボク一人で様子を見に行く予定なのだけど、なかなか良さそうな場所がない。
そんなこんなでしばらく調べていたところ、都市ダラム近郊の住宅というのを見つけた。
場所はダラムから少し離れた場所にある川沿いの邸宅だそうだ。名前は【リバーサイドレスト】というらしい。
「【リバーサイドレスト】のへの街転移スクロールのお値段はっと、5万ポイントですか。この場所より圧倒的に高いですね。でも新しい土地は気になるのでポチりますか」
というわけでリバーサイドレストへの街転移スクロールを早速購入。
お届けはボクの領域とのことなので一度取りに行くことになった。
よし、新しい街へ出発だ!




