第36話 初の商売を終えて
商業組合に許可証を返却するため受付に並ぶ。
しばらく3人と話していると自分たちの順番が来たので受付の人に許可証を返却する。
すると受付の人に個室に案内され、初めての露店はどうだったかと問いかけられた。
「知っている人が色々と買ってくれたので結構好調でした。ぬいぐるみ系もたくさん売れましたので、また仕入れてこようかなと考えていますよ」
「そうですか。あのぬいぐるみ、猫のですが、うちの娘がいたく気に入りましてね。出来れば別の種類の子もお迎えしたいと」
「確認しておきますね。でも本当に猫のぬいぐるみはよく売れますね」
売ってる側からすると狐も売れてほしいところなのだけど、なぜか猫と犬ばかり売れているのが不満な点だった。
まぁ猫の獣人も猫自体も街にはたくさんいたので猫を目にする機会は多いのだろうけど。
「お願いします。それと組合長が例のお酒の件もよろしくと」
「あぁ~。あの人組合長さんだったんですね。お酒は知り合いがすごくうるさくて、自前で醸造所を持っているくらいなんですよ。一般的に美味しいお酒から魂が抜けるほどに美味なお酒まで色々とあるようですよ」
「なんと、そんなにですか。これはいよいよ楽しみですな。いえね。私もちょっと組合長から分けて貰いましてね。あの変わった味のお酒、今までにない素晴らしいものでしたよ」
受付の職人の男性は興が乗ったのか、いかにあのお酒が素晴らしいかを語り始める。
どうやら味わいや後味をすっかり気に入った様子。
「一応売り物としては全部なくなりましたけど、試飲も兼ねて今後売る予定の2本だけなら特別に譲りますよ。対価は感想を頂ければ十分ですので」
特別にというわけではないけど、小分けする前の日本酒を一升瓶で2本を進呈することにした。
決して賄賂ではない。
一本は一般的な有名な日本酒でもう一本は妖精郷で作られたオロチ酒造の【妖の郷】だ。
ヤマタノオロチさんおすすめの一本となっており人間界向けには販売されていない。
「おぉ……。本当は受け取ると色々あるのですが、組合長と相談させていただきたく思います。それにしても、対価は本当に乾燥だけでよろしいので?」
どうやらこの受付の男性は組合長さんと仲が良いらしい。
もしかすると副組合長さんなのかな? まぁともかく、この男性は対価について改めて確認してきた。
「はい。といいますのも、このお酒を出すのは初めてらしく感想を求めているそうです。何が良くて何がダメなのかなどですね。製造者は誰にも負けないお酒好きでしてね」
「なるほど。たしかに職人の方となれば下手な対価よりも感想の方が大切ですものね」
「その通りです。もし製造者が気に入れば色々と恩恵があるかもしれませんからね。対価よりも真剣な感想が必要です」
なおヤマタノオロチさんは気に入った酒飲みの人にこっそりお酒の入った酒樽を贈ることがある。
ぜひ気に入られてほしいところである。
「わかりました。そのようにいたします。長く引き留めて申し訳ございませんでした」
「いえいえ。それでは、また」
そう挨拶をするとボクは商業組合を後にした。
そういえば探索者組合を目指していた2人組は無事に到着したのだろうか。
まぁ今気にしても仕方ないことなので、また出会ったら考えよう。
個室から出てクルスとルナとミーティアの3人と合流する。
さすがにみんなで個室に入るのは問題があると思って遠慮してもらったのだ。
「お帰りなさい、マスター。どうでしたか?」
「特に変わったことはありませんでしたよ。感想を問われたので簡単な感想とお酒好きとのことだったので試飲用に日本酒と妖の郷の2本贈ったくらいでしょうか」
代表してミーティアが聞いてきたので試飲用のお酒を譲ったことを話す。
「ヤマタノオロチさんのもですか? 大丈夫でしょうか」
ミーティアは妖の郷を贈ったことを気にしている様子。
人間が飲んでも大丈夫な物であることは確認してるので問題はないはずだけど。
「そんなに気になりますか?」
「はい。スサノオノミコト様も認める素晴らしいお酒ですので、虜にならないかと心配になりまして」
「あー……」
お酒を飲めないボクは失念していたけど、妖の郷はお酒好きであればお酒好きであるほどドはまりする恐ろしいお酒らしい。
もう手に入らないかもしれない美酒の味を覚えてしまった者の今後はどうなってしまうのだろうか。
「ま、まぁ。どうにかなりますよ」
「本当でしょうか……」
ミーティアはジト目でボクを見つめてくる。
ま、まぁどうにかしますよ……。




