第34話 いざ商売
イストーの街の噴水広場にやってきたボクはさっそくいい感じのところを発見したので陣取ることにした。
道からは少し離れているけど人があまり密集していないほど良い感じの場所。
まぁお客が来ない可能性はあるんだけど、居心地の良さを一番に求めた結果である。
さっそく敷物を敷いて台を置き、椅子を設置して商品を並べよう。
今回は事前にエメに聞いてきた方法、つまり陶器の容器や木の容器に商品を入れて売る方法を実践する。
おつまみは木の小箱に、お酒は陶器の容器に入れておく。瓶もいいけど瓶はこの世界の物に近いものを用意できなかったので断念。
というわけで徳利で販売を開始する。
ほかには小皿に載せた砂糖菓子や飴類、ちょっとしたポーションなんかを並べてみる。
それと猫と犬と狐の小さいぬいぐるみ。
お菓子はまぁまぁ目立ちそうだけどね。
売り物については事前に問題がないかを組合に確認済み。
何なら試飲試食もしてもらい販売許可も取り付けた。
興味を持ってくれたのが組合のお偉いさんらしく、今度個人的に卸してくれないかと言われたのでまとまった量が入る予定があるのでその時にと伝えておいた。
取扱商品のお酒は簡単なのを選んでみた。
一般的な赤ワインに一般的な日本酒に一般的な焼酎だ。
ビールはないですよ。
数は少量で試飲可。
日本酒や焼酎は一升瓶1本分を大きめの徳利に小分けして入れている。
ワインについてはボトル2本分を同様に小分けする感じで販売する予定。
値段はどれも同じだけどちょっと高くして600クレムに設定している。
おつまみに関しては普通に売っている物をかごに入れて適当に。
主にイカとかジャガイモのチップスとか。
衛生面も一応考慮はしている。
「ぬいぐるみの販売はクルスとルナにお願いしますね」
「はい、お母様」
「わかりました、お母様」
2人はとても聞き分けがよく可愛い。
でもまだまだ硬さは取れないみたいなのでゆっくり待とうと思う。
販売を開始してからしばらくはチラチラ見たり容器の中身について気にする人がいたものの購入には至らず。
ポーションのほうも変わらずだけどぬいぐるみだけはなぜか女性客や子供が手に取り購入していき、もう5体くらいが買われていった。
「猫さんが一番人気。次が犬さん。そして狐さんは一番売れ残ってます」
「狐さん可哀想」
「ぐぬぬ」
なんだか納得のいかない結果になった。
狐可愛いじゃん狐。
まぁボクは動物の狐ではないんだけど。
もう少し狐の可愛さを布教すべきだろうか。
「おや、狐さんが狐を売ってるじゃないか」
聞き覚えのある声が聞こえたので顔を上げると、いつぞやの狐獣人の行商のお姉さんがいた。
狐のぬいぐるみを手に取りくるくる回してはいろんな箇所を確認している。
「これはいいね。みんなへのお土産になる。売れ残ってるなら全部買うよ」
「お目が高いですね。えぇ、なぜか犬猫は売れるんですけどね。狐はあまり見かけないのか不思議そうな顔をする人もいるんですよ」
「あぁ〜。このあたりには狐はいないからねぇ。見たことがないのも仕方がないよ」
狐獣人のお姉さんは面白そうにコロコロと笑う。
まさか狐の認知度が低いなんて。
「それでもこの耳と尻尾は見た目は良いらしくてね。まぁ人気といえば人気なんだよ」
そう言って高い位置についた狐耳をピコピコ、きれいなお尻の尻尾をふりふりして見せた。
やはり狐のことは狐にしかわからないのか。
「前も思っていたけど、お嬢さんは不思議な感じがするねぇ。きれいな青いような銀色のような長い髪、白い肌、赤い瞳、手頃な身長、そして不思議な雰囲気。どれもこのあたりじゃお目にかかれないよ」
「そうでしょうそうでしょう。ボクの自慢でもあります。なんだか褒められてちょっと気分がいいので、こちらお米のお酒ですけど、よかったら1本持っていってください」
ちょっと気分がいいのでちょろいボクはお姉さんに徳利入りの日本酒を渡す。
するとちょっと驚いたような顔をしてから、そっと受け取ってくれた。
「えぇ? いいいのかい? なんだか悪いねぇ。前に売ったチョコレートで悪いけど交換といこうじゃないか」
狐獣人のお姉さんはボクに前回売ってくれたようなチョコレートを手渡してきた。
ちょうどいいので、ありがたく受け取りクルスとルナにプレゼントする。
「お母様、ありがとうございます」
「これはなんでしょうか。楽しみ」
「おや? この子達はお嬢さんの子供なのかい?」
「あ、いえ。引き取った感じですね。とてもいい子たちですよ」
「あぁ。なるほど。その子たちもなんだか不思議な感じがするねぇ」
狐獣人のお姉さんはこの子たちから何かを感じ取ったようだ。
まぁ狐系の子は鋭いところがあるので不思議ではないんだけど。
「時々何かを売りに来ますので、良かったら冷やかし程度にでも見ていってくださいね」
「あぁ、そうさせてもらうよ。それにしてもこのお酒、変わった香りがするね。酒精も強そうだし。どれ味は……。おいおい、なんだいこれは! めちゃくちゃ美味しいじゃないのさ!」
狐獣人のお姉さんは日本酒が気に入ったようであっという間に1本飲み切ってしまった。
「ふぅ。こんなに美味しい酒は初めてだよ。似たような酒はダラムでも飲んだけど、これは段違いだよ。ううーん。他のも同じなのかい?」
日本酒をすっかり気になった様子のお姉さんにボクは入っているお酒の種類を伝える。
「こちらがワインで、こっちが焼酎。こっちがさっきのお酒ですね」
「ほほぅ。全部買わせてもらってもいいかい?」
よほどお酒が好きなのか試飲していないものまで購入希望のようだ。
「構いませんよ。ええっと全部で狐のぬいぐるみが1体500クレム、お酒が一本600クレムで、ぬいぐるみ5体とお酒14本なので10900クレムですね。小分けしている分重いと思いますが大丈夫ですか?」
「あぁ、構わないよ。それにしてもこんな美味しいお酒が1本600クレムなんて安いじゃないのさ」
「まぁお試し価格という感じです。値段もわからなかったので仕入れより少し高めにしてますけど」
仕入れ先はネット通販なので若干安いのは内緒だ。
好評ならまた仕入れてこようかなぁと少し考える。
「ぜひまた仕入れてほしいもんだね。それじゃ10900クレムだよ。いやぁ良い買い物をしたよ」
「気に入ってくれたなら良かったです。また寄ってくださいね。」
お酒と狐のぬいぐるみは完売。
残るはおつまみとお菓子系とポーションだけとなった。
「意外と売れ行きがいいですね。元手を考えると儲けは微々たるものですけど」
「狐さん全部売れてしまいました」
「狐さん欲しかった」
商売の幸先が良くてちょっと嬉しくなっているところ、なぜか隣にいたうちの双子がへこんでいた。
どうやら狐のぬいぐるみを気に入っていたらしい。
「あとで保管してある在庫をある分だけあげるので元気出してください」
ボクは可愛い双子に弱かった。




