第16話 イストーの街4
イストーの街には獣人もいる。
顔が完全に獣のタイプは犬であれば獣族と呼ばれ、人間に耳と尻尾を付けたタイプを犬系であれば犬獣人と呼ぶ。
ちなみにこれらはボクが日本語として認識しているだけなので、現地語ではそんな感じの言い方ではない。
文字だって読めはするけど丸かったり角ばったりしているアルファベットタイプだしね。
イストーの街には犬系、狼系、猫系、熊系、兎系の人が多い様子で逆に獣族の人は少ないようで猫系犬系くらいしか見ないし、見たとしても数が非常に少ない。
特に少ないのは狐系なのではないだろうか。
見たところ狐耳は数人いる程度。
狐の獣族に至っては0だ。
「そこの可愛い獣人のお嬢ちゃん、ダラムで人気のチョコレート、買っていかないかい?」
しばらく街行く人を眺めていると不意に声を掛けられてしまった。
振り向くとそこに居たのは狐耳の獣人の女性だった。
「チョコレートですか? でもお高いでしょ?」
「まぁそう警戒しないでおくれ。私も何も怪しいもんじゃないからさ。いわゆる行商人ってやつさ」
「怪しい人はみんなそう言いますけど」
突然声を掛けて来た狐獣人の女性は自分のことを行商人と紹介した。
なかなかの美人さんだけど、本当にチョコレートを売りたいだけなんだろうか。
「まぁ確かにそうだね。チョコレートを売りたいのは本当さ。ただ物が物だけにそれなりに高くてね。ダラムのええと、なんだったかな。日ノ本連合とかいうところで作られた正真正銘のチョコレートだからね。普段はあまりまともに流通はしていなくてもっぱらほかの場所では貴族御用達だったりするのさ。今回たまたま先行販売にあたってね。卸売りで買い込んだのさ」
「なるほど? 本当かどうかは分かりませんけど、1ついくらなんですか?」
「ありがとよ。1つ10000クレムだよ」
「なかなかお高いですね。ですが物は試しです。いいでしょう」
「まいど。偽物じゃないことはその場で確かめておくれ」
狐獣人の女性はそう言うと紙の包みに来るんだチョコボールを手渡してくれた。
と同時に何やら紙も手渡される。
「狐の互助会ってのはご存じかい? 狐獣人同士で依頼を出し合ったり仲間を募集したりちょっとした助け合いをする会さね。もし興味があったらその紙に書かれている場所へ行ってみな。いつでもいいからね」
狐獣人の女性はそう言うとボクたちから離れていってしまった。
手渡された紙を開いてみるとそこには『狐の互助会 神殿地区星の塔 入り口入って右側階段奥扉』と書かれていた。
「ふむ。場所だけ確認して後で行ってみてもいいかもしれませんね」
ふと去っていった狐獣人の女性を見ると、冒険者風の装備を着けた猫獣人の女性にチョコレートを50000クレムで売っていた。
「怪しい感じの人間ではありますが悪意は感じませんでした。どうなさいますか?」
桃花がボクに問いかけてきたが、ボクとしてはどう答えたものか悩んでいる。
「面白そうだし行ってみませんか? メルディアちゃんもいることですし!」
悩むボクを見て察したのか、瑞葉がそのように提案してくれた。
メルディアはといえばシャドーボクシングをしているのでやる気満々といった感じだ。
「そうですね。少しだけ行ってみましょうか。何かあったらよろしくお願いしますね」
「お任せください」
「わかりました!」
2人の返事とメルディアの強い頷きを見て覗いてみることを決めた。
▼神殿地区 星の塔
神殿地区にある星の塔は小さな尖塔の先に星のマークがついているのですぐにわかった。
さっそく入り口を入って右側の階段を降り、奥にある扉を見つける。
しかし扉は複数あり、すべて『倉庫』という看板が掛けられていた。
「これではわかりませんね」
「ふーむ……」
桃花の言葉を聞きながらボクは渡された紙を少し確認していた。
すると奥扉という文字を見てピンとくる。
もしかして倉庫の中の扉なのではないだろうかと。
さっそく開きそうな倉庫の扉を奥っぽいところから開けてみる。
するといくつかある倉庫のうち1部屋だけさらにもう1つ扉があることが分かった。
どうやらここが狐の互助会の場所のようだ。
「とりあえず場所だけ確認できましたし、一旦戻りましょうか。売り物も探している最中でしたし」
3人の同意を得て、再び市場へと戻ることにした。
この場所には準備をしてからくることにしよう。
今行っても何もできないから。
狐の互助会とやらの場所を確認した後ちょうど鐘が6つなったのでマールさんと別れた場所まで戻ってきた。
売り物は見つからなかったけどアクアにはチョコレートをお土産に持っていこう。
「時間通りだねぇ。えらいえらい」
「たまたま近くにいたので」
神殿の中から現れたマールさんに褒められて頭を撫でられてしまった。
そんなマールさんの手には透明な板が握られていた。
「さてこの板だけど、これが身分証明になるのさ。これは契約の精霊のお力をお借りした水晶版でねぇ、特別な加工を施した物なのさ。さっそくだけど水晶版に指を置いてくれるかね。契約の精霊がお嬢さんたちの種族や能力などを読み取って精霊文字で刻んでくれるのさ。万が一にも契約の精霊が非公開を決めた内容があったら、別の情報に置き換わるから安心おし」
「なるほど?」
疑似情報が記載されるならもはや身分証明の意味がなくなるような気がするけど、そういうものなのかもしれないと思うことにした。
つっこんでもいいことないでしょうし。
「契約の精霊の記述は絶対。疑うことは許されないのさ」
「なるほどです。よくわかりました」
どうやらこの世界において契約の精霊の記述は絶対らしい。
はてさて、どんな内容になるのかなぁ。
「はい! まずはあたしから!」
瑞葉が一番に名乗り出、渡された水晶版に指を置く。
すると水晶版に光で文字が刻まれていく。
『個体名:瑞葉、種族:精霊人(非公開情報:水の下級精霊)、職業:狐宮狐白の従者』
早速板にこのような文章が現れた。
言語パックのおかげか、ボクにも読めるのがありがたい。
「ほほう。精霊人に置き換わったとはねぇ」
「精霊人?」
精霊人とはなんぞ?
「精霊人は精霊と人の合いの子と言われておる。精霊と仲良くできる珍しい種族だよ。人攫いにだけは気をつけなよ。とはいえ、万が一攫われても精霊が助けに来てくれるだろうけどねぇ」
「へぇ~、すごいんですね」
「では次は私が」
桃花が水晶版に指を置く。
するとーー。
『個体名:桃花、種族:精霊人(非公開情報:植物の下級精霊)、職業:狐宮狐白の従者』
「なるほどねぇ。こういう風にでるわけかい」
マールさんは桃花の情報を見ながらうんうんと頷いている。
どうやら相当珍しいことのようだ。
「次はーー。メルディアがいくのです? わかりました」
さっそくメルディアが水晶版に指を置く。
だがそこに現れたのはちょっと変わった情報だった。
『個体名:メルディア、種族:小人(非公開情報:フェアリーノーム)、職業:狐宮狐白の従者』
小人とな?
また新しいのが現れましたねぇ。
「小人も珍しい種族だよ。地母神の血脈とも云われている種族さね。最近はあまり見かけないけど、大半は妖精の国に住んでいると云われているねぇ。たまに人間の世界でも見かけることがあるから出会えたら幸運さね」
「小人ってメルディアくらいのサイズなんですか?」
ちなみにメルディアは140cmないくらいの身長だ。
「まぁ大体似たようなサイズだねぇ。違和感はないと思うよ」
「ふむふむ」
小人たちのサイズも大体130から140くらいのようだ。
1回くらい見てみたいかも。
「じゃあ次はボクですね」
『個体名:狐宮狐白、種族:狐獣人(非公開情報:妖狐族、神族、星を行く者の子)、職業:無職(非公開情報:神域の主)』
「無職!?」
いくら公開情報がほかにないからといっても無職はひどくないですか?
「ほほう。狐獣人とはこれもまた珍しい種族だねぇ。狐獣人はこの街の地下にも互助会をもっているが基本的に人目を避ける傾向にあるねぇ。見た目がきれいで老けがあまり表に出ないという特徴が人目を引いて、昔は奴隷狩りにあっていたんだよ。それもあってか警戒心が強いのさ。無職はまぁ、契約の精霊様もどう置き換えていいか悩んだんだろうねぇ」
「なるほど……。でも体裁が……」
ちなみに詳しいことを教えてくれるマールさんだけど、非公開情報は見えていないらしい。
非公開情報を見るには本人の許可を得る必要があるのだとか。
契約の精霊さん、便利すぎじゃないですかね?
どんな精霊さんなんだろうか。
『そのうちそちらに参りますね』
「?」
「主様、どうなさいました?」
「いえ、何か聞こえた気が。気のせいですかね」
きっと気のせいですね。




