第9話 懐かしい街
その男性は“清井さん”という……らしい。小林さんが早速そう呼んでいる。
(私は小林さんを“コミュ力お化け”って呼びたい!)
最初は羨ましかったけど、今は自分は自分と思えるようになっていた。
「わぁー。学生時代にこの街で過ごしていたんですか?」
「はい。この商店街のスーパーでバイトをしていたこともあります。」
(え?今、この商店街のスーパーって言った?)
「ヤ、ヤマザキストアですか?」
私が急に話に入ったので、清井さんは驚いた様子でこちらを見て、コクリと頷いた。
「もう20年近く前ですが……山崎さんには良くして頂いて……。」
清井さんは懐かしい眼をしていた。そして、一瞬だけ表情が曇ったように見えた。
もう少し話したい気持ちもあったが、清井さんはPCを取り出し、作業を始めてしまった。
「あ、木村さん、時間じゃない?」
「あ、もう15時ですか?帰ります。」
私はバタバタと荷物を片付けて、急いで帰った。
外はもうすっかり秋めいていた。
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後日、“芝生”に行くと、小林さんから清井さんの話を聞いた。
「清井さん、フリーランス辞めちゃうらしいの。まぁ、分かるよ。私も辞めたくなるときもあるし。」
「え?え?小林さん……。あの、色々と情報がカオスです!ちょっと整理していいですか?」
「ん?カオス?木村さんってそういうところ面白いよね。」
クスクス笑いながら小林さんは続けた。
「私も清井さんもフリーランスでね、清井さんは会社員に戻るらしいよ。まぁ、私は自由に働けるフリーランスを手放そうなんて決断出来ないけどね。」
「小林さん、あの後、清井さんとそんな深い話までしたんですか?って言うか、小林さんフリーランスなんですか??」
小林さんの何者感が更に深まったよ。
「あはは。木村さん、私の事なんだと思ったの?ここで仕事して、たまに中村さんの代わりに接客とかしてるの。無償だけど、私もタダで使わせてもらってるし、winwinかな?」
(そうなんだ……なんかまた別世界の人っていう気がしてきた……。)
ガラ!
引き戸が開いた。
「こんにちは。」
「え?」
噂の“清井さん“が現れた!
続く




