第8話 小さなM&A
あいにく、うちの自治体ではM&Aの専門家費用を一部補助する制度はあったが、マッチングの補助は無かった。自分たちで相手を探さなければならない。
山崎さんはM&Aに好意的だった。かなり面倒な手続きになると思うけど、それ以上に、商店街の皆さんにご迷惑をお掛けして申し訳ないと……。
この商店街も昔に比べたら随分寂れてしまった。シャッターが下りたままの店舗も半分近い。その代わりに、新しい喫茶店や美容室、ネイルサロンなどが増えた。
こうやって、街は引き継がれて行くのだろう。
「結局、中小企業向けのマッチングサイトで探すことになりそうですね。」
初めてのことで、自分にちゃんと出来るのかな、正直不安しかない。でも……一人じゃない!
「そうね。なんとかなるんじゃない?がんばろう!」
そう言って、小林さんはお団子を頬張った。
そう、小林さんも居る!
「あ、そういえば、小林さん、ここの従業員さんだとばかり思ってました。」
「あはは。そう思うのが普通!私、ここの一番乗りなの。」
「一番乗り??」
「そう、話すと長くなるから、詳しいことはまた今度ね。」
(長くなる話??気になる……。でも、今はこれに集中しなきゃ。)
M&Aのマッチングサイトの登録は結構難しい。用意するものとかをまとめて、山崎さんに確認して、プロフィールも、お気に入り登録や問い合わせが来るような書き方にしたいけど……。
「プロフィールを考えるの難しいですね……。」
「そう?じゃあ私が考えておくね。私、こういうの得意分野だから。」
(えー?頼もしい。っていうか、小林さんって何者??)
「私、決算書とか数字は苦手だから、木村さんが居てくれて本当に助かる!」
小林さんって何でも出来るイメージだから、そんな風に言ってもらえるのは素直に嬉しくて、
「私、頑張ります!」
なんて思わず宣言しちゃうくらい。
「じゃあ、私も頑張ります!」
小林さんも笑いながら宣言。
その時、引き戸が開いた。
見たことのない男性。
「あの、表にコワーキングってあったんですが……。」
「あ、コワーキングっぽくないですよね?でも、コワーキングです。良かったらどうぞ、空いてるお好きな席に座ってくださいね。」
小林さんは私が初めてここに来た時と同じように温かく迎えていた。
続く




