第6話 お茶で再び乾杯
夕飯の支度をしながら考えていた。
(……13万は高い!!即金で13万なんて出せないよね?)
iPhoneは下取りがあるからそもそも下取りに出して買うものだと思ってたし。
「ママ―。なんか焦げてない?」
「え?!あー!!ごめん!!」
ハンバーグを少し焦がした。
「どうした?何かあったのか?」
主人も焦げた匂いでリビングに降りて来た。
「ごめん。ちょっと考え事しちゃって。」
「そう?でも、このちょっと焦げた部分も俺好きなんだよね。なー。早苗。」
「うん。ママ美味しいよ。」
家族の団欒ってホントいいよね?新山さんと勝君も仲直りして欲しいな。
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ん?ペイディ後払い?36回払い月々3600円程度、金利0%?この情報を見つけたけど……どうなんだろう?
あ!仕事に行く時間だ!
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「坂田社長、おはようございます。」
「あー、木村さん。昨日はありがとう。」
坂田社長は嬉しそうに続けた。
「勝君がもう良いって!高校生になったら自分でバイトして買うからって。優しい子だね〜。解決〜。解決!」
「そうでしょうか!」
思わず発してしまった一言に自分でビックリした。でも、発せずにはいられなかった。
「勝君は……新山さんにその……諦めを感じてるんじゃないでしょうか?家族ってそれでいいんでしょうか?」
「え?木村さん……。」
「思春期の頃を思い出してみてください。大人が汚く見えませんでしたか?自分の方が大人に感じませんでしたか?」
「……。」
「あ!すみません!ちょっと……あはは……。」
(やらかした!!)
坂田社長も本当は同じことを思っていたのかもしれない。
「やっぱりそうだよね。あの年頃でさ、反抗期も無いらしくて……。我慢して、それがいつか家族の綻びになるのかもしれないね。」
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俺は完全に諦めていた。親なんてこんなものだ。スマホ一つで俺も大人気ないよな、って思って、納得してないけど、“自分で買うからもういいよ。我儘言ってごめんね”ってLINEしたんだ。うち、富豪じゃないしさ、13万なんて無理だよな。そうだ!無理だったんだ。親はiPhoneの事を知らなかった、だから誰も悪くない。
数学の過去問を無心で解いていた。
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今日も私達は“芝生”に居た。
新山さんと坂田社長と私の三人。
「勝があれから、いつもに増して部屋から出てこないんだよ。勿論、勉強してるんだけど。」
「繫ちゃん、勝君とちゃんと話してみたら?」
「うーん。受験の邪魔したくないからな。」
「あの、私。提案があるんですが、いいですか?」
私はiPhoneの後払いサービスのペイディの詳細のコピーを二人に渡した。
「36回払いならどうでしょう?」
「え?36回?13万を?金利は?」
「あ、繁ちゃん、これ分割手数料0%って!」
「え?0%?」
新山さんは目を丸くして私を見た。
「そうです。13万円の36回分割払いつまり、月約3600円です。いかがでしょうか?」
「月3600円!!」
二人は声を揃えて言った。
「そうです!」
私はもう答えが分かっていた。
「ありがとう。これなら約束を果たせる。」
私たちはまたお茶で乾杯をした。
(誰かの問題を、皆で持ち寄って、皆で考えて、悩んで、解決する。……ここはそんな場所……私の居場所……。)
黒豆ほうじ茶がやけに美味しかった。
続く




