第5話 事件です!スマホ騒動と親子の約束
仕事を少し早めに切り上げて、私達は“コワーキング芝生の図書室ラボ”に行った。
この前は小さな卓袱台に座ったが、今日は大きな卓袱台の方に座った。
小林さんは相変わらず気さくに話しかけてくれた。
「わぁ。木村さん、来てくれたのね!今日は美味しい黒豆ほうじ茶があるから飲んで行ってね。」
「あ、新山さん、いらっしゃい。皆お待ちよ。」
あ、この人が昨日の電話の新山さん。
「ごめん。ごめん。ちょっと家内と揉めちゃってさ、遅くなった。」
「繁ちゃんも大変だね〜。奥さんに怒られたの?」
繁ちゃん?新山さんは“繁ちゃん”って心の中でメモをした。坂田さんより一回り年下に見えるけど、タメ口なんだ。
「坂田〜。なんか昨日よりヤバくなったよ。あれ?そちらは?」
「あ、はじめまして、木村です。昨日はどうも。」
「え?木村さんも来てくれたの?」
「繁ちゃん。木村さんiPhoneユーザーなんだって!他にiPhoneに詳しい人居なくてさ、お願いして来てもらったの。」
(いや、その、詳しくはないんですけど……。)
「あ、マジ?木村さん助かる!ありがとう。」
(いや、その、私に分かることなのかな……。かなり不安……。)
新山さんは3人分の黒豆ほうじ茶を淹れてくれて、本題に入った。
「まさかiPhone17が13万近くもするとはさ〜。今まで安いスマホ使ってたしさ、iPhoneもスマホの1つだと思ってたから、数万だと思ってたんだよね?木村さん金持ちだね。」
「あ、いえ、私のは主人のお下がりで、iPhone12なんです。5年前の。」
「そうなるよね〜。俺も色々調べてさ、15とか16ならって思ったんだけど……。」
新山さんはそこで口籠った。
「繁ちゃんごめん!」
坂田社長は突然大きな声で謝った。
「坂田〜。お前のせいじゃないって。俺もそれでいいと思ったんだし……。」
(え?全く話が見えないんだけど……。)
「あ、ごめん。木村さん、息子の話なんだよ。」
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俺の将来の夢は公認会計士か弁護士になること。世の中に貢献したいんだよね。俺、ちょっと賢いし?
その為にも、受験勉強に励んでる、中学3年生の新山勝。この辺りで一番の進学校に一応合格確実って言われてる。
でさ、最近、スマホのスペックが低い事が唯一の不満でさ。
友達がiPhoneのスペックが凄いって言ってたから調べたんだよ。正直、ビックリ!で、この前、初めて、カワダ電機で実物を触ってみた。もう、欲しいよね?!これは試したいよね?でも、価格が13万弱……。無理だ!
そう、分かってたんだ、最初から……無理だって……でも……。
単語帳に涙が一粒零れた。
家族LINEに“勝ごめん”の文字。何も返す気にならない。
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「息子が高校受験生でさ、受かったら、好きなもの買ってやる!って言っちゃったんだよ。」
「繫ちゃんはそんなに高いと思わなかったんだよな?」
「でもさ、勝は、高いけどいいの?って躊躇ってたんだよ。なのに、ここらで一番の進学校に受かるなら安いもんだ!って……。」
「でも、高校生のスマホに13万は高すぎるよ。」
(あー。なるほど、大体見えてきた。)
「新山さんはどうするおつもりなんですか?買ってあげるんですか?それとも……。」
「木村さん。そこなんだよ。俺は買ってあげたいけど、家内はどうしてもダメだって。いや、家内も買ってあげたいだろうけど、そんな余裕無くてさ……。」
「それで、俺がさ、iPhone15か16ならどうか?って提案しちゃったんだよ。そしたら、勝君、口聞いてくれなくなっちゃったんだろ?!」
「LINEも既読スルーだな。でも坂田のせいじゃないから。俺もよく知らないから、iPhoneならなんでもいいんだと思っちゃったんだ。」
「そういう事でしたか……。何故勝君は17がいいんですか?」
「なんか?スペックがどうのとか?俺らにはよく分からないんだけど。」
「なるほど……。」
iPhone12でappleのサイトを調べてみた。確かに、勝君が今使ってるandroidスマホよりずっとスペックが良さそう。私も詳しくは無いけど……。
「あ、木村さん時間だよ!」
坂田社長が時計を指差す。
15時だ!早苗が帰ってきちゃう。
「すみません。続きはまた……。」
急いで帰路についた。
続く




