第4話 再出発と小さな事件の予感
私は、商店街の坂田さんの事務所で経理事務をやることになった。勿論、平日の昼間、早苗が学校に行っている間だけ。
久しぶりの経理の仕事。この仕事を始める前に少しだけ簿記のテキストを読み返したんだ。久々の仕訳にちょっと戸惑いつつも、あー、確かこうだったな。なんて、感覚が戻るのを感じ、嬉しくもあった。
主人にも、仕事が決まったことを告げると、喜んで応援してくれた。
早苗にも『ママ、頑張って!』って言われてるし、頑張ろう!
今は電子保存なのか。請求書も領収書もPDFで済ませるんだって。昔は、分厚いファイルを整理するのが日常だったな。これもペーパーレス。……これが SDGs なのね、納得。
プルルルル―!
「はい、坂田商店です。」
「あ?あれ?新人さん?」
「はい、木村と申します。あのどちら様でしょうか?」
「あ、木村さんね!俺は新山。坂田社長いる?」
「申し訳ありません。只今席を外しております。ご用件を……」
「あはは、木村さんちゃんとしてるね!流石!でも、そんなにかしこまらなくていいよ。坂田に“芝生”行こうって伝えといて!じゃ。」
(え?芝生??)
芝生って、“あのコワーキング”だよね?私はあれから行ってないな……。
社長に電話のメモを書きながら、私も今度また行ってみよう。って思っていた。
_____
〜 事件です!! ~
次の日、会社に行くと、坂田社長が困った顔をして腕組をして、椅子でくるくる回っていた。
(え?どうしたの??)
「お、おはようございます。」
私は眉間に皺を寄せていたと思う。
「うーん。」
坂田社長は、私に気づいていないようだ。これは確実に何かあったに違いない。
「坂田社長!おはようございます!」
もう一度、大きな声で挨拶してみた。
「あ、お、おはよう、木村さん。」
ちょっと驚いた様子だった。
「何かあったんですか?」
「え?いや、別に……。」
(ふーん。確実に何かあったな。)
とは言え、私が立ち入ることでもないか?椅子に座って、お茶を呑もうとした頃、社長がポツリと私に言った。
「木村さん、スマホ詳しいかな?」
「え?スマホ??」
「いや、僕さ、androidでさiPhoneって使ったことなくて、もし木村さんがiPhoneに詳しかったらと思ってさ?」
「あー。詳しくは無いですが、ずっとiPhoneユーザーですが……。」
「おー!そうか!そうか!今度、“芝生の図書室ラボ”に一緒に行ってもらえないかな?」
え?丁度、帰りに行ってみようと思っていたから……少し驚いた。
続く




