第12話 金井さんと清井さん
中村さんが清井さんにメールで連絡したが、未だに返信は無いとのこと。
「おかしいな。」
小林さんは首を傾げた。
「私、彼はこの話に乗って来ると思ってたの。フリーランスをやってるとね、分かっちゃうんだよね……自分が会社員が向いてないってさ。勿論、フリーランスが向いてないかもって最初に思って直ぐに戻る人は居るんだけどね。」
(そういうものなんだ……。)
「会社員に戻ったら安定はあるでしょ?だから時々は戻ったら楽かな?って思うけど、自分のペースで仕事をしてると、もう戻れないって……それに、嬉しさが桁違いなんだよね。成功した時とか苦境を乗り越えた時とか……まぁ、私はだけどね。」
小林さんはそう言って仕事に戻って行った。
(私は正直、フリーランスとか怖くて無理だな。って言うか、そんなスキルそもそも無いか……。)
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「初めまして、お世話になります、金井です。色々と至らない点があると思いますが、出来ればこのチャンスを活かしたいと思っております。よろしくお願いします。」
金井さんが芝生にやって来た。
愛想が良く、人当たりも良さそうな人。
こちらは、中村さん、山崎さん、小林さんそして何故か私の4人で迎えた。
「まぁ、先ずは上がってください。今、お茶淹れますね。」
金井さんは背筋を伸ばして、大きな卓袱台の前に座った。
小林さんは人数分の黒豆ほうじ茶を淹れてくれて、私と二人で運んだ。
それぞれの自己紹介が終わり、本題に入った。
先ず、山崎さんが口を開いた。
「君は分かってるみたいだから、厳しいことを敢えて言わせてもらうよ。スーパーはね、目利きも必要だし、お客さんに1円でも安く提供するために日々試行錯誤しないといけない。売れると踏んだものは大量に仕入れて、在庫を抱えることもある。生鮮食品は鮮度も大事だから、仕入れの勘が外れて、時に赤字のこともある。」
「はい。」
「君は決算書も見ただろう?今は人件費も上がっていて、正直、やり方によっては借金を背負うことになるかもしれない……。だから……。」
山崎さんはそこで、ハッとして、言葉を濁した。それは、私には優しさだと感じた。……この場の皆に対しての……。
そして、山崎さんはこう付け加えた。
「君が本気なら、仕入れのノウハウを一緒に学んで欲しい。店は畳むが、教えることくらいなら、私にも出来る。しかし……。」
そして、山崎さんは黙り込んだ。
「とても有難いお話です。是非、仕入れは学ばせて頂きたいです。でも、お店を回した経験が無いと難しいところですよね……。」
金井さんもそこで黙った。
「そうじゃ。清井君から昨夜メールの返信があってな。」
中村さんが“清井さん”の名前を出した。
(え?え?何て?
何でもっと早く言わないの。
で?どうなの?)
その時、芝生の引き戸が開いた。
「清井さん!!」
小林さんと私の声がシンクロした。
続く




