第10話 流石小林さん
「あ、清井さん!今、貴方の噂をしていたのよ。黒豆ほうじ茶を淹れますね。」
小林さんはそう言って、席を立った。
(え?噂をしてはいたけど、本人に言うとか……。気まずいよね、私……。)
「あ、木村さんでしたっけ?」
(あ、名前……小林さんから聞いたのか?!)
「あ、はい。木村と言います。その……今……ヤマザキストアのM&Aのお手伝いをしてまして……それで、あの、清井さんが昔ヤマザキストアでバイトしていたって言う話をですね……。」
何故か私は噂の内容を清井さんに話していた。
本当はその先の、フリーランスを辞めるとかどうとかを話していたけどそれは私が言う事では無いよね……。
「M&Aですか……。」
清井さんはちょっと寂しそうな顔をしたように私には見えた。
「元バイト先が無くなるのは、やっぱり寂しいですよね。
でも、山崎さんの意志を継いでくれる方を、ちゃんと探しますので。」
本当はまだ、誰も応募して来ないし、無理かな?とか弱気だけど、ここは敢えてそう伝えた。
「はい、どうぞ。」
小林さんは清井さんの分だけじゃなく、私の分も黒豆ほうじ茶を淹れなおしてくれていた。
「あ、お団子食べる?今朝、中村さんがヤマザキストアで買って来てくれたの。清井さんも、こっちの卓袱台で食べませんか?」
「え?あ、はい。頂きます。」
清井さんは自分の荷物を小さな卓袱台に置いたまま、こちらの大きな卓袱台席に腰かけた。なんだか、プロジェクトが始まったような……そんな気配もした。まぁ、お団子を頬張りながらプロジェクトって言うのも面白い話だが。
「清井さんは会社員に戻る決心はついたんですか?」
うわっ!私は思わずお茶を吹き出しそうになるのを必死で堪えた。
(小林さんのこの唐突さ!)
「まぁ。一応、今、フリーランスの最後の仕事をしています。これが終わったら……履歴書でも書こうと思ってます。」
「そうですか……。いっそのこと、清井さんがヤマザキストアを継ぎませんか?……なんてね、冗談ですよ。」
(小林さん、本当に冗談なんですか!!)
清井さんはちょっと困ったように笑っていた。
この時は、まだ、私だけ分かっていなかったのだ……。
続く




