第1話 貴方の居場所
私はこの人手不足の中、面接に落ちた!
ビックリだよね?急募って書いてあったんだけど?
あー。それにしても暑い。まだ5月なのに、汗が滲む。温暖化どうなっちゃうんだろ?まぁ、私にはCO2を減らすとかカーボンニュートラルとか言われても、いまいち何をしたらいいのかピンと来ない。こまめに電気を消したりはしてる。
あ、脱線した。
とにかく、私は面接に落ちたのだ!!
あり得ない状況に驚いているところ。
駅前のカフェでアイスコーヒーを飲みながら一人反省会。
氷が溶けて分離して来ちゃったよ。ストローでカラカラと音を立てて混ぜる。
求人サイトをスマホでスクロールして行く。
あー。何で土日出来ないとダメなの??
平日の子供が学校に行ってる時間だけ働きたいのにさ。 甘いのかな?職種選んでるからかな?昔は経理補助で働いてたけど、もう自信ないから、工場で働きたかったの。でも、未経験で、平日昼間だけって難しいのかな?接客は苦手だしな。
スクロールしながら色々と考える。
時計を見ると15時、帰らなきゃ。早苗が帰って来ちゃう。
電動自転車に股がり、軽やかに帰宅……のはずが、駅前で何やらチラシを配っていた。いつもならもらわないのだが、思わず手を伸ばした。
"貴方の居場所 コワーキング芝生の図書館ラボ"
(貴方の居場所……。コワーキングって何だろう?)
家族が寝静まって、洗濯物を畳みながら、ポケットから、"あのチラシ"を出した。 (貴方の居場所って何よ?家には居場所があるけど、私、社会にはまだ居場所がないみたいなんですけど……。)
仕事は直ぐに決まると思っていた。主人にも落ちた事はちょっと言えない。お金も欲しいけど、本当は早苗のママ以外の、居場所も欲しかった。
スマホでコワーキングを検索してみた。
(へー。都会的、皆の共有スペースなんだ……。)
芝生の図書室ラボは検索しても、あまり情報が出てこない。グーグルの評価も付いてないし、まだ、出来たばかりみたい。
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あー。昨日は“あのコワーキング”が気になってなかなか寝付けなかった。
早苗と主人を送り出し、ゴミ出しをして、また、“あのチラシ”を眺めていた。
(何故こんなに気になるんだ??はぁ。掃除して、買い物に行かなきゃ!)
自転車を漕いでちょっと遠回りをしてスーパーに着いた。
卵と牛乳、特売のトマトを手に取る。
実はさっき、“あのコワーキング”の前を通って来た。行くつもりはない。ただ興味本位でさ。
帰りも私は遠回りをしていた。
食材を急いで冷蔵庫に詰め、扉を閉めた。
自転車の鍵を握りしめ、私は再び靴を履いた。
続く




