赤尾なめこさん
赤尾なめこと申します
赤尾なめこと申します。俗に垢嘗めと呼ばれる妖怪にございます。
昨今流行りのモンスター娘……いえ、齢三百を数えるこの身で「娘」だなどと浮かれるのは、はしたない振る舞いでした。どうかお許しくださいませ。
事実、わたくしは創作物で扱われるような美形でも萌えキャラでもございません。ガリガリです。ちんちくりんです。いたって地味な顔立ちをしております。お前の顔は年齢不詳だ、とよく言われます。
しかし、それも一概に悪いこととは申せません。見た目が老けずとも不審がられないのは、人間社会に暮らすうえで、むしろ好都合です。
およそ五年十年ずつ、地域や職場を転々としながら生活しております。免許や資格を持てないので、パートやアルバイトが主です。用意できる書類に限りがございますから、待遇に高望みはできません。
身分を偽るのは毎度のことです。自意識が高く、人間との間に波風を立てようとする同胞たちは、早くに世を去ってゆきました。わたくしのように目立たず立ち回れる者だけが、現代まで生き残れたのです。寂しいですが仕方のないことです。
最近の世の中は、ますます世知辛くなりましたね。料理下手なわたくしは、日々の食事をスーパーのお勤め品などで凌いでおります。
水道光熱費を節約するため、風呂キャンもしばしば。ですが、わたくしは垢嘗め。グルーミングで清潔を保っておりますのでご心配なく。恋人からも「猫みたいな匂いがする」と好評でございます。
人間の皆様におかれましては、税金や保険料も収めなくてはならず、さぞ大変だろうとお察しします。わたくしは妖怪ゆえ病気も何にもございませんから、医療費の心配も要らず、気楽なものでございます。
今わたしくに膝枕をしてくれている恋人も、昇給の渋さを嘆いておりました
わたくしは人間ではありませぬゆえ、選挙権を持てないのがもどかしゅうございます。
せめて慰めとなれるよう、わたくしは持ち前の長い舌を活かし、今夜も彼女の垢、その他諸々を舐め取ってさしあげようと思います。
……これまた、はしたない言い草でした。現代のコンプライアンスに順応するのは難しゅうございますね。どうかお目溢しくださいませ。