「僕にだけ勝負を挑んでくる幼馴染とじゃんけんをする話」
僕は平凡な高校生、正直言って特徴的なことはない。
成績も平均的だし、部活動もしてない。将来のことなんて全く考えていない。
「おーい、雑魚。お前、今年もヴァレンタインデーのチョコはもらえなかったんだろ?」
でも1つだけ特別なことがある。
小さいころから一緒に居る幼馴染がいることだ。
赤みが勝った髪に、目鼻整った顔立ち、胸も豊かだ。
黒いスカートの下から伸びてる足が白く、思わず目をそらしてしまった。
今も椅子から身を乗り出し、僕の机の上で肘を立てていたずらっぽく微笑んでいた。
クラスの男子からの視線が痛い……。
「私の話、聞いてるの?」
「聞いてるよ、一応」
「一応ー? せっかく私が話しかけてたんだから、あたしに集中しろよ」
そして、いつからか彼女は僕にだけやたら絡んでくるようになった。
小さいころは直子だったと思うんだけどね……なんでだろう。
じとっとした目線を彼女は僕に向ける。
「そこで私はあんたにチョコを用意したんだけど」
「え、それって」
「義理! 義理だから……! でもうれしいだろ?」
「え、うん。とてもうれしい」
「そんな子犬みたいな目であたしを見るな」
頬を赤らめ、目をそらして彼女が「あーもう調子狂うな」、と髪を掻いた。
「そこでチョコをかけて勝負しない?」
「勝負……なにするのさ?」
「そ・れ・は」
彼女が胸元にチョコをはさんで、上目遣いでみあげる。
悪戯っぽい瞳が僕をとらえる。
彼女はいつもこうなのか。何かにつけて、僕に対して勝負を挑みたがる。
なぜかはわからないんだけど……、小学生の高学年あたりから何かにつけて勝負や競争を持ち掛けてくるんだ。
「じゃんけんよ」
「じゃんけん」
でも、僕も彼女との勝負が嫌いではないので、挑まれたら乗ることにしている。
まぁ、もっともテストの成績勝負とかだといっつもコテンパンにされてるんだけど。
「お前みたいなやつが私からチョコをもらえる機会なんてこれぐらいしかないんだから、真剣に挑めよ!」
「勝ってみせるよ。いくぞー」
じゃん、けん、
「「ぽん!」」
そして、僕は。
負けた。
負けかぁ……。
「勝った……」
チョコがもらえないこと以上に、彼女の悲しそうな声に気づいた。
見るからにしょんぼりしている様子。
なぜしょんぼりしてるかはわからないけど、長い付き合いだから本当に悲しんでることはわかる。
僕は助け船を出すことにした。
「じゃあさ、3本勝負しない? 1回だけで決着とか僕が不利だし」
「――! そうそう、そうだな! じゃあ3回勝負だ! お前に慈悲をかける私は優しいな!」
にっこりとした彼女と3本勝負!
正直、僕も彼女からのチョコは欲しい。
義理とはいえ、もらったらうれしいからだ……!
「じゃん、けん――」
ぽん!
そして2回連続で僕は勝った。
「よっし!」
「私からもらってそんなにうれしいか?」
「もちろんだよ。うれしいに決まってるじゃないか」
「そ、そう……」
義理チョコのはずだけど彼女は嬉しそうにしていた。
「こ、ここであけるなよ!」
といって、チョコを渡して去っていく。
彼女がいなくなった後に包装を開けたけど、形が整っており、豪華なチョコであった。
ああ見えて幼馴染はまじめだ。義理なのに力を入れてるんだな、と僕は思った。
もったいないけどパクリと一口で食べる。
甘い。
とてもおいしいチョコレートだった。ホワイトデー、お返しに気合を入れないとね。