表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/40

31話 隠された神託の願い

 



 白や銀、赤や青や緑の輝きと共に、それぞれの足下に現れ授かった神物の多くは――武器と防具だった。


「これはまた……何とも大層な神物を授かったものだ」


 驚きに片眼鏡をかけ直すキトには、布地のような長い、薄茶色の素材の神物。

 彼の手が持ち上げ広げたそれは、身体をおおい隠すほど広く、多くは雨除けに使われる外套の形をしていた。


「ああ……これは、とんでもないな」

「す、すっごーいっ!!」

「わぁ……きれいです!」


 驚くウイトの手には、大きな銀色の盾。

 喜びの声を上げるフーヒオの手には、深紅の剣。

 感動するアイルの手には、長い水色の杖。


 そして、銀の瞳をまたたかせるノルンの手には――細い柱状の白石を連ねて紐代わりにしたものに、太陽を思わす模様を彫った金の円盤を飾った、首飾りの神物。


(この首飾りは、武器でも防具でもない。

 感覚的には……御守り、かな)


 胸の内でそう呟き、繊細な白石の留め具を外して首へと飾ると、石や円盤の冷たさとかすかな重みが、神の子の首元をくすぐった。


 他の四人もまた、防具の外套をまとい、盾や剣や杖をかかげて、それぞれに授かった神物を確認したのち。


「こんな凄い神物を授かったんだ。

 今回の冒険は、大満足な結果になったな」

「うむ。これにて、今回の探索は終わりにして良かろう」


 ウイトが爽やかな笑顔で告げた言葉に、キトが深々とうなずき、探索の区切りを告げる。


「あとは、安全に帰るだけ、ですね」

「それならさ、ここでちょっと休んでいこうよー!

 アタシのども乾いたし、お腹もすいたー!!」


 微笑みながら穏やかに呟いたアイルの隣で、フーヒオが上げた声に、ノルンはコクリとうなずく。


「休憩はだいじ、です」


 まだまだ、目覚めてから過ごして来た日々が少ないノルンでも、休憩の大切さは分かっていた。


 ノルンのかすかな真剣さを宿した言葉を聴き、キトが心底真面目な表情で口を開く。


「ノルン様の仰る通りかと。

 ここは一度、休憩の時間を取りましょう。

 ――今回の探索の、素晴らしい成果を祝いながら」


 最後だけ、ふっと口元をゆるめたキトの言葉に、ワッと三人の解読者が歓声を上げる。


 ノルンもまた、小さく微笑みを浮かべてうなずきを返すと、さっそく全員が円を描くように床へと座り込んだ。


「今回は、私が飲み物と食事を出します」

「なんと! いえ、しかし……」


 居住まいを正したノルンの言葉に、今まさに布袋の神物から、食事を取り出そうとしていたキトが慌てる。


 しかし、ノルンはそのまま細い両手を組み、ここまで共に過ごして来た時間で、なんとなく理解したキトの性格を思い出しながら、言葉を返した。


「これは紋様秘術とは別の奇跡なので、珍しいと思いますよ」

「な……!!

 分かりました、大変恐縮ではございますが――ぜひ、お見せ頂きたく!!」

「キトさんは、相変わらずだ」


 くるりと意見を変えたキトに、ウイトが苦笑を零し、フーヒオとアイルはうんうんとうなずく。


 その様子を銀の瞳に映したのち、ノルンは瞼を伏せて、奇跡を願った。


「《我が父の許しにて、捧げものの食べ物と飲み物を五つ望む。

 望みのものよ、サンティアスの大神殿より、今我が元へ》」


 まだ帰りの冒険が続くため、多すぎない量をと思いながら発動した、父アトアがいる大神殿からこちらへと、一瞬で食事を持ってくる奇跡。


 またたく間に叶い、円卓を囲むように座る全員の中央に現れた食事を、瞳に映した四人は、再び仰天しながらも、ありがたく食事をはじめた。


 丸い焼き立てのパンや、こんがりと焼き上げた肉を薄く切り、器に乗せたもの。

 野菜がたっぷりと入ったスープや、幾つかの果物。


 それらを美味しく食べながら、果汁が注がれているコップをかかげ、一行は休憩と食事を楽しむ。


 その中で、ふいにノルンへと青い瞳を向けたウイトが、問いかけた。


「すっかり訊き忘れてた。

 ノルンさんは、なんでこの大迷宮に来たんだ?」


 一人の解読者の素朴な疑問に、ノルンはサラッと答えを返す。


「私は、知らないことを知るため、過去のなごりを探すために、解読者として生きてみることを決めてから、各地の神託迷宮を巡っているのです。

 この大迷宮のことも、知り合った他の解読者の方に教えてもらって、訪れました」


 神の子が語った言葉に、納得の表情が四つ浮かぶ。


「――と言っても、巡った神託迷宮は、まだこの大迷宮で三つ目なんですけどね」

「えっ! 少なっ!?」

「……フーヒオ君、不敬だ」

「あっ、えっと、ごめん!」


 流れるように続いたノルンの言葉に、反射的に返したフーヒオを咎めるキト。

 思わず反応に困って固まったウイトとアイルを置いて、謝罪を伝えたフーヒオにノルンは小さく微笑み、首を横に振った。


 気を取り直して、続く小さな祝宴の中。

 ノルンだけは、不思議な感覚を覚えて、胸の内で疑問を零す。


(……どうして、危機を感じるのだろう?)


 徐々に高まっていく危機感が、何を意味するのか。

 神の子にもまだ分からず、ひとまず食事を終えて片づけも済ませた、その時。


 唐突に感じた神力の気配に、ハッと銀の瞳が床を見つめる。

 刹那、五つの神託を読み解き、すでに何も刻まれていなかったはずの床へ――再び、神の文字(ティアルーン)が刻まれた。


「な!? また神託が現れるとは!!」


 驚きに染まったキトの言葉を聴きながら、銀色の視線でなぞった二つの文を、ノルンは静かに読み上げる。


「[強き心を持つ者よ、願わくば、その力を貸しておくれ]

 [ここに封じた混沌と戦い、この神託迷宮に平穏をもたらしたまえ]」


 神託の内容を聴いた四人は、一様に表情を硬くした。


「混沌……つまり、混沌の影と戦うことになる、と言うことでしょうか?」

「どうやら、そのようです」


 緊張をしながら、問いかけたキトの言葉に、ノルンは素直に肯定を返す。

 喜ばしいとは言えないその肯定に、人間たちはそろって悩ましげなため息を零した。


「……やはり、神託を読み解くことが苦手なフーヒオ君が、先の神託を読み解くことを心から楽しんでいたために、このようなことに?」

「そーんなわけないでしょ!!」


 あまりの展開に、真顔で告げたキトの憶測を、フーヒオの一喝が吹き飛ばす。


 しかしそれでもなお――刻まれた神託への危機感は、誰もがひしひしと感じ取っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ