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28話 黄金の宝

 



「この神託は、もうみなさんでも読み解けると思いますよ」

「俺たちでも?」


 神託を読んだ後、四人を振り返ってそう伝えたノルンに、ウイトが青い瞳を見開いて問う。


 その問いに、迷いなくノルンがうなずくと、四人共はそろって神託へと近寄り、解読をはじめた。


「お! これは分かるな!」

「あー! これ、火の紋様!」

「水の紋様は……あ、ここにあります」

「うむ、そうか。

 これは今までノルン様が読み解かれた神託を、複数組み合わせた形の神託なのだな」


 それぞれが声を上げ、にぎやかに神託を読み進めていく四人を眺めながら、ノルンはそう言えばと口を開く。


「神託に限らず、このような紋様は読めるので、気になることがあれば説明出来ると思います」


 その言葉に、人一倍瞳を輝かせたのは、やはり神学者のキトだった。


「そっ、それは! 神の文字(ティアルーン)について、教えて頂けるということでしょうか!?」

「……そう言えば、前にキトさんが、紋様は文字だって言ってたな」


 キトの驚きと喜びが混ざった問いかけと、ウイトの何気ない呟きの両方に、コクリとうなずいたノルンに、素早くキトが詰め寄る。


「で、では!!

 ぜひ、この無知な神学者に、神の文字では【神託迷宮】を何と読むのか、教えて頂けませんか!?

 ずっと気になっていたのですが、調べようにも難しく……!!」


 最後は悔しげな表情で、早口になりながら伝えたキトの願いに、神の子はひと時瞳を閉じた後、開いた銀の瞳に神学者を映し、サラッと答えた。


「神託迷宮は――神託迷宮(ルティクルス・メネス)、ですね」


 神の子の答えに、神学者は薄緑の瞳を輝かせる。


「おおぉ!! 元々、神託はルティクルスと呼ぶのだと理解していましたが、迷宮はメネスと呼ぶのですね!

 あぁ……神秘の扉の奥を、また一つ知ることが出来ました!!

 さすがは神に連なるお方!! 感謝申し上げます、ノルン様!!」

「はい、どういたしまして」


 小躍りをはじめてしまいそうなほど喜ぶキトの後ろで、三人の解読者たちは順調に神託を読み解いていく。


「これなら、キトさんの助けがなくても、俺たちだけで解けそうだ」

「こっちに火でしょ? まっかせてー!」

「では、わたしはこっちに水を……」


 フーヒオが火、アイルが水を紋様秘術で出し、神託の内容にそって謎を解いたのち――すぐに、新しい通路が現れた。


「お見事です」

「おお、すまない!

 つい神秘の学びに夢中になってしまった!」


 褒めるノルンと、謝罪するキトに対して、三人は通路の暗さに負けない、眩い笑顔を咲かせる。



 そうして、またしばし通路を進み、見つけた壁の神託を読み解いた、次の瞬間。


 明るく射し込んだ白光に、全員が思わず瞳を閉じ、そしてゆっくり開くと――目の前の開かれた入り口の先に、太陽のごとき黄金に輝く宝を抱えた、広い部屋が映った。


「ここは!」

「うっわー! お宝だー!!」

「わ、わ、すごいですね……!」

「うむ。まさに宝の山、だな」


 四人がそれぞれの瞳を輝かせる中、ノルンもまた星のように、銀の瞳を煌かせる。


「キラキラです。

 本当に、奥にはすごいお宝がありました」


 ぱちぱちとまたたく銀の瞳は、黄金に輝く宝を映した後、すぐに笑顔の四人へと視線を移す。


 顔を見合わせた一行は、無言で息を合わせて軽く駆け出し、たどり着いた広い部屋へと踏み入った。


「すごーい! 宝箱に入ってない金貨なんて、はじめて見た!!」

「わたしは、金貨をはじめて見ました……!」


 石造りの広々とした部屋の中央に、かるく積み重なり輝く金貨。


「む? ここに刻まれているのは……神託!」

「えっと……神物を授ける神託、ですね」

「神物か! 金貨はもちろん最高だが、俺は神物にも興味があるんだ!」


 金貨が散らばる床に、ひっそりと刻まれた、神物を授ける神託。


 ――どちらも、解読者や神学者の心を惹きつけるには、十分すぎるほどの魅力を宿していた。


 一行はまず、輝く金貨のそばに刻まれた、神託を見下ろし、顔を突き合わせて考察を語り合う。


「癒し、の紋様があるな」

「水で濡らして……光で照らす、でしょうか?」

「あってるあってる!」

「うむ。その通りだ、アイル君。

 [癒しの神物を授ける。神託の文字を水で濡らし、光で照らせ]

 ……で、合っておりますかな? ノルン様」


 四人が解読して出した、神託の内容が正しいかどうかを、代表して尋ねるキトに、ノルンはうなずきを返す。


「[癒しの神物を授けましょう。

 この神託の文字を水で浸し、光で照らして]

 ――と、書かれています」

「おお、ちょっと言い方が違うくらいだ」

「なんと……本来はそのような表現で、書かれていると……」


 ノルンが読み上げた内容に、ウイトが嬉しげに爽やかな笑顔を浮かべ、キトが思考の海へと潜っていく。


 サラリと流れる、美しい黒髪を形のいい耳にかけ、ノルンは神託を解くためにアイルへと声をかけた。


「ひとまず、神託を解きましょう。

 水の方をお願いします」

「は、はい! 《(アイ)》」

「《(サン)》」


 先にアイルが、そばに浮かべた、たぷんと揺れる水球で神託の文を水に浸し、次いでノルンが右手にかかげた、白く輝く光球で神託を照らす。


 刹那、神託が淡い水色と白に輝いたのち――近くの床に、小ぶりな石が五つ現れた。


 中心が白色で、端へいくほど水色になる、片手で包み込める大きさの神秘的な石。

 その表面に刻まれた紋様を、銀の瞳がそっとなぞる。


「[治癒]、と刻まれています」

「「ちゆ……??」」


 コテッと首をかしげた、二人の少女にうなずき、ノルンは疑問に答えた。


「怪我や病を癒す力を持つ、神物と言うことかと」

「おそらくは……必要な時に、この神聖なる石の中に宿る神力で奇跡の癒しを授けて下さるのだろう」


 ノルンの説明に続けて、使用方法を語ったキトの言葉に、フーヒオとアイル、ウイトが納得を顔に表す。


 各自が一つずつ、授けられた石の神物を手に取ると、誰しもの瞳に感慨深さが灯った。


(こういう神物もあるのか)


 銀の瞳に美しい色合いの石を映し、ノルンもまた胸の内でそう呟く。


 癒しの神物を手にした、ノルンと四人の同行者たちは、束の間奇跡を宿す石を見つめたのち。


 お次はと、今度こそ遠慮なく、手つかずのまま床に散り、あるいは積もった、黄金色に輝く金貨へ視線を注ぐ。


 黄金の宝を映した瞳たちが、キラリと煌いた。




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