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23話 失せ物探し

 



 神託に従い、見事探し出した神物――水晶で創られた、失せ物探しのペンデュラムをかかげ持ち、ゆらりと揺れて煌く様を観察した後。


 ノルンはさっそく、新しい神物の奇跡を試してみることにした。


「えっと、使い方は――」


 ふと流した銀色の視線が、近くの壁でピタリと止まる。


 神託が刻まれていたはずのその壁には、いつの間に書き換わったのか、ペンデュラムの使い方が刻まれていた。


 銀の瞳をぱちりとまたたき、無表情のまま驚きながらも、ノルンは説明書きを読んでいく。


「[見つけたい失せ物の名と、探せと命じる言の葉を告げることで、あなたが神力を与える限り、その失せ物の場所へと神物が導いてくれます]

 ――使い方は、簡単ですね」


 納得を呟いたノルンは、片手で垂らしたペンデュラムの神物を見つめ、試しに命じる言の葉を告げた。


「この部屋から一番近い場所にある神託を、探してください」


 次の神託を読み解くための命に、水晶のペンデュラムは、その三角錐型の部分を一度大きく円を描くように回した後、ノルンの左後方の空中で動きを止めて答えを示す。


「この先に、探し物……今回は神託があるのですね」


 入り口を振り返ったノルンは、再度納得の言葉を呟き、ペンデュラムの神物の導きに従って通路へと戻る。


 持ち主であるノルンが神力を与える間、しっかりと神託がある方向を示し続ける三角錐部分の先端は、近くにある部屋へとノルンを導いた。


 入り込んだ部屋の中を見回し、ノルンは壁に刻まれた神託を銀色の視線でなぞってから、思わず視線を下ろす。


 まじまじとペンデュラムの神物を見つめるノルンに、神物は壁に刻まれた神託を示し続ける。


 新しく踏み入った小部屋は……さきほどの小部屋と同じ内装をしており、壁に刻まれた神託もまた、同じ神託だった。


「……まったく同じ神託が、近くに刻まれていることもあるのですね」


 誰にともなく――しいて言えば、手に持つペンデュラムの神物へと呟いたノルンは、ひとまず神物に送る神力の流れを止めて、失せ物探しの奇跡の発動を終える。


 ついでに、再度神託の内容に従い探し出した、もう一つのペンデュラムの神物を、布袋の神物の中へと収納したのち。


「本題を、試してみましょうか」


 銀の瞳に、かすかな期待を灯して、そう呟いたノルンは静かに、本題の失せ物探しを命じた。


「私の、過去のなごりを探してください」


 ノルンの言の葉に、水晶のペンデュラムは三角錐部分を大きく一度、くるりと回す。


 次いで、二度、三度と、さらに回る。


 くるりくるりと、天井の石から注ぐ白光に照らされて、煌きながら――失せ物探しのペンデュラムは、ただ回り続けた。


 鏡のように澄んだ銀の瞳が、その光景を映し続けて、しばし。


「これは……この神物の力でも、見つけられない、と言うことでしょうね」


 ぽつりと零したノルンは、神物へ送っていた神力を止めて、ふぅと吐息をついた。


(失せ物探しの奇跡でさえ、探し出すことが出来ないものを、この先どんな奇跡が見つけ出してくれるのだろう?)


 ゆったりとした動作で、そう考えながらペンデュラムの神物を布袋の神物へと入れ、ノルンはサラリと糸のように繊細な美しい黒の長髪を揺らして、振り返る。


 通路へ戻るため、小部屋の入り口の方へ足を踏み出すと、ふいに多くの人々の声が一気に、ノルンの耳へと届きはじめた。


「……試練の落雷が、止まったのでしょうか?」


 そう言えばと、落雷が降り続く広間のことを思い出して零した疑問に、神の子としての感覚が肯定を返す。


 入り口から顔を出し、進んできた通路の方へと、その銀色の視線を向けたノルンは、あっという間にたくさんの解読者たちが通路を埋めつくす様子に、ぱちぱちと瞳をまたたく。


 そうしてノルンが驚いている間にも、通路や各部屋に満ちて行く喧騒に、ノルンもまた足早に小部屋から出て、艶やかな長い黒髪を揺らしながら、通路の奥を目指すことにした。




 幾つかの角を曲がった後、唐突に目の前に現れた、目印のない三つの分かれ道を前にして、ノルンは胸の内で口ずさむ。


(ど・れ・に・し・よ・う・か・な、と・う・さ・ん・の・い・う・と・お・り)


 言の葉に合わせて銀色の視線を順に動かし、最後に視線が止まった、目の前からさらに奥へと伸びた通路へと、足を踏み出す。


 床に刻まれた神の文字(ティアルーン)の注意書きが示す通り、所々少しだけ床が盛り上がり、つまずきやすくなっている通路を、特に転ぶこともなく悠々と歩きながら、ノルンはこの神託迷宮へと思いをはせる。


(神託迷宮の入り口から、まだ少ししか進んでいないけれど……ここまでの道中だけでも、大迷宮と呼ばれるだけのことはあるのかもしれない、と思うような場所だな)


 手厳しい試練、長く続く複雑な通路、多くの部屋と神託……それらは確かに、ノルンが探索した他のどの神託迷宮よりも、この神託迷宮の大きさを表していた。


 ――それは同時に、ここから先、長く広く大きな未知があることを伝えている。


 ふいに湧き出た好奇心に、ノルンは小さく微笑んだ。


「この先も、楽しみですね」


 可憐な微笑みと共に、そう呟いたノルンの銀の瞳に、また新しい部屋の入り口が映る。


 さっそくと入り込んだ部屋には、複数の石の机と椅子の組み合わせと棚が置かれ、壁にはまたもや、失せ物探しの神物を授ける神託が刻まれていた。


「……この神託迷宮では、それほどまでに物がなくなるのでしょうか?」


 思わずコテッと首をかしげて、ノルンはそう疑問を零す。


 幸いにも、神の子としての感覚はすぐさま否定を返し、別にこの神託迷宮内での失せ物が多いわけではないことを、ノルンに教えてくれた。


「あ、違うみたいですね。

 でも、私もうっかり物をなくさないように、気をつけて進みましょう」


 安心と共に教訓として、忘れないようにと呟くノルンは、ふと一つの机の上に小さく刻まれた、神の文字を発見する。


「[失せ物は、あんがい、身近なところにあるもの]」


 そう、神託でも注意書きでもない、ただの所感のように書かれた文字に、銀の瞳がまたたく。


(失せ物探しのコツ……だろうか?)


 胸の内での問いかけに、しかし今度は答えを閃かない。

 神の子とは言え、まだまだノルンには、分からない事の方が多かった。




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