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17話 豪炎の舞

 



 勢いよく、通路を駆け上がった先――四角い穴から、ひょいっと飛び出たノルンは、すぐさまアンクレットの神物へと注いでいた神力を止めて、軽やかに床へと着地する。


 風の試練を終えた後でも、さして乱れていない黒の長髪を小さく揺らして、ノルンはぐるりと辺りを見回した。


 多くの人々が歩み、会話をする音が耳に届き、前方を見た銀の瞳が、数本の柱を映す。


 帰り着いたその場所は――神託迷宮の入り口を入ってすぐにあった、柱が並ぶ広間が目の前に見える、小部屋の中だった。


 ぱちりと銀の瞳をまたたいたノルンは、一つうなずく。


「地下の迷路は、神託迷宮の奥から、入り口の方へと戻るように、続いていたのですね」


 納得の言葉を呟き、前方の広間へと歩み寄る。


 ここから再び、三人と別れてしまった部屋へと戻るため、ノルンは少しだけ足早に、探索してきた通路をまた進みはじめた。



 そうして、まっすぐに探索済みの通路を歩み、あの大きな神託が刻まれていた部屋の近くまで、戻ってきた時。


「おい待て! もう発動させる気か? 全部読めたのか?」

「ハッ! とりあえず試してみるんだよ!

 早い者勝ちなんだろぉ? なんだよ、今さら悔しがっても遅いぞ!」

「あ、でも、ノルンが読めても神託を発動させないほうがいいって……」

「テーカ、それは詳しく教えてくれ」

「えっと――」

「オイ! まだオレとの話しが終わってねぇぞ!!」


 そう、言い争う声を耳で拾い、ノルンはひとまず小さく、安堵の息を吐く。


(間に合ったみたいだ)


 テーカが神託の発動を止める声を聴き、胸の内でそう呟いたノルンは、部屋の入り口へと駆け寄り、そのまま中へと踏み入った。


「ただいま戻りました」

「「「ノルン!!!」」」


 見事に、三人が声を重ねて呼んだ名に、コクリとうなずきを返して応えるノルン。


 テヌとテーカとキクスは、他の解読者である三人の男たちとの言い争いなど放り投げ、すぐさまノルンへと駆け寄った。


「怪我は!?」

「おかえり!! だいじょうぶだった!?」

「無事だったか……いや、無事だと信じてはいたが」


 口々に心配の気持ちを込めた声をかける三人に、コクコクとうなずきながら、ノルンも返事をする。


「怪我はありません。

 ご心配をおかけしました」

「今回はさすがに驚いた!」

「だいじょうぶって言ってたから、だいじょうぶだとは思ってたけど~~!!」


 テヌとテーカにそれぞれ片手を握り込まれ、ぶんぶんと上下に振られるまま、ノルンは二人の安堵を受け止めた。

 対面では、キクスもふっと吐息を零している姿が、銀の瞳に映る。


「ハッ! 無事に帰ってきて良かったじゃねぇか!」


 唐突に、そう響いた男の声に、大きな神託が刻まれた壁の方へと三人が振り向き、ノルンが銀色の視線を移す。

 ニヤリ、と嫌味たっぷりに片頬を上げて笑った男は、なおも言葉を続けた。


「一人だけ落ちて行ったってのに、探しに行こうともしねぇから、ひでぇやつらだと思ってたんだがなぁ?」

「ノルンが大丈夫と言うのならば、それは問題などなく、本来ならば心配する必要もない、と言うことだ。

 彼の偉大さに気づきもしないのなら、口を閉じているといい」


 バッサリと悪意を切り捨てたキクスに、テヌとテーカが深々とうなずきを追加する。

 ノクスは、ぱちりと銀の瞳をまたたき、そっと口を開く。


「そう言えば……そちらの神託は、やはり読むだけにしておいた方がいいと思いますよ」

「アァ? なんだよ、やっぱりオレたちが先に発動させるのは、我慢ならねぇってかぁ?」


 挑発的な男の返しに、ただ静かに、ノルンは首を横に振る。

 次いで、ひたと大きな神託に注がれた銀色の視線が、その文をなぞった。


「[この神託を火で照らしたヤツに、オレ様自慢の骨まで燃えるほど熱い、炎の宴を見せてやろう]

 ――と書かれていますので、たぶんとっても危険です」

「……ア?」


 サラリと神託の文を読み上げたノルンに、反抗していた男も、その後ろにいた二人の仲間の男たちも、あんぐりと口を開ける。


「……ノルンが、一番早く読んだなあ」

「さっすがノルン!!」

「まぁ……こうなるだろうと、予想していなかったわけではないのだが」


 ノルンのそばで、ぽつぽつと零す三人の言葉が、現状を分かりやすく物語っていた。


「どうしても、この神託を読み解きたいのでしたら、まずは部屋の外に出ましょう」

「お、オウ……」


 冷静なノルンの言葉に、勢いを失った男たちは素直にうなずき、肩を落としながら素直に部屋の外の通路へと出る。


 目配せをした三人とノルンも、同じように通路へと出た後。


 入り口から、対面に刻まれた大きな神託へ向かって、ほっそりとした手を伸ばしたノルンが、そっと言の葉を唱えた。


「《(ヒオ)》」


 とたんに、掌の先に濃い橙色の神の文字(ティアルーン)が現れ、それはすぐさま小さな火球になり、ふよふよと空中を進み、揺らめきながらも大きな神託を、小さく照らす。


 刹那、大きな神託が、火球と同じ濃い橙色の光を放ち――突如として、部屋の中に燃え盛る炎が渦巻いた。


「ウオォォ!?!?」

「きゃっ!」


 驚愕の声が男たちや、テーカから上がり、その場にいた全員が数歩後ずさる。


 ゴオォ……と唸る音さえ轟かせ、豪炎が部屋の中を舞う。

 濃い橙色の炎が、ヒラリと流れる帯を巻き上げるように渦巻くその様は、確かに炎の宴と語るに相応しい。


 そのあまりにも熱く猛々しい、豪炎が舞う宴を前にして、部屋の中で読み解いても問題なかったと言える者など、誰もいなかった。


「あつっ」

「もっと下がってくれ、ノルン」


 神の子であるノルンでさえ、熱に圧倒されて零した言葉に、キクスが細い肩を掴み、後ろへと引き寄せる。


 数日前から、この神託を読み解くことを目指していた男たちは、分かりやすく顔を引きつらせたまま、慌てて入り口のほうへと通路を駆けて行った。


 チラリと去る姿を見送った銀の瞳が、再び前を向き直る。


 火の粉を散らし、ゴウゴウと燃え盛り舞う、解き放たれた神託の奇跡は、ノルンにとってとても力強いものに見えた。


 銀の瞳に映る炎の宴は、しばし続き……やがて、なごり惜しさを表すように、ぱっと鮮やかに火の粉の華を咲かせてから消え去る。


 観察を終えたノルンと三人は、互いに顔を見合わせ、思わず共に無言で驚きを分かち合った。




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