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婚約破棄ならお早めに

作者: ひよこ1号

短編はまだだったので書きましたが、長くなりそうなのできりの良い所で終わりました。

花が咲き乱れる中庭で、砂糖菓子のように可愛らしく甘い少女の笑い声が聞こえる。

右隣には王太子、左隣には騎士団長の息子。

更には大商人の子息やら、公爵家の令息、宰相の息子やら宮廷魔術師長の息子までいる。

なんとも凄腕の手練手管に、私は舌を巻いた。

いや、舌を巻いただけじゃないけれど。

内心は叫びだしたいくらい狂喜乱舞していた。

ありがとう!本当にありがとう!


私はオリゼー・オルブライト。

砂糖菓子の隣に居る王太子、レンダー第一王子の婚約者であり、未来の王太子妃だ。

ここまで言えば分かるだろう。

幼い頃からどれだけの努力と労力と時間を教育に費やされてきたか。

本当に、本当に、寝る間も惜しんで、家族との時間も最低限に過ごしてきた。

大好きな両親と兄達にもっと甘えたかったのに。

領地にだって帰りたかったのに。

糞が。

おっと、失礼。

私は由緒正しい公爵家の令嬢なのだから、うっかり言葉遣いが崩れないように、と心の中でも自分を戒める。

金に少しだけ夕陽色の橙を溶かしたような温かいブロンドと、翠玉のようなとろりとした緑色の瞳は、外交で訪れる賓客にはとても受けがいいのだ。

見た目だけなら、あの砂糖菓子にも負けていない。

いや、中身もだけど。

でもあの甘ったるい喋り方、すぐに被害者のように涙の出る瞳、軽く男性に手を伸ばす娼婦のような仕草には負ける。

だが、それでいい。

もう私はすごく我慢してきたもの。

そろそろ証拠だって積み上がってきたし?

もう終わりにしてもいいと思うのよ。

入学からこちとら待ち続けてきたんじゃい。

おっと、孤児院の子供達の口調が出てしまったわ。

殿下への恋心?

そんなもの初めて会って、言葉を交わして、あの光を集めたような金の髪と、青空のような瞳に目を奪われて。

婚約をホイホイ進められて王宮に上がるまでの話よ。

あまりの辛さに、殿下が庭で遊んでいる姿を窓から見るだけで殺意が湧きましたけど?

あいつがいなきゃ、こんなに辛い思いをする必要なくない?

学ぶのは嫌いじゃないけど、いかんせん量が多い。

その上やたらと厳しい。

やれと言われて仕方なくやるのと、やる気でやるのは全然違う。

この顛末から分かるとおり、あのぼんくらは私よりも天才か楽してるかどっちかなのよ。

ふざけんな。

……もう猫を被るのは疲れてきたけど、まだ一匹くらいは頭に載せておきましょう。


私は一歩、中庭へと踏み出した。

私の後ろには、侍女と護衛の他に、派閥の令嬢達が付き従うように付いてくる。

と言っても、実家や派閥とは切り離して手中に収めているので、今日の催しを邪魔するような真似をする人物はいない。

殊更にゆっくりと、咲き乱れる花達を愛でながら、砂糖菓子とその取り巻きたちへと近づいていく。

周囲の人間達は、面白い見世物が始まるとばかりに足を止めた。

誰かを呼びに走る者も居る。


どうぞ、ご堪能なさってね。


「何か用か?オリゼー」


警戒するようにレンダー王太子が椅子に座ったまま、こちらを睨んでくる。


それ、婚約者に向ける目で合ってます?

まあもうすぐそうじゃなくなるので、いいですけど。


「婚約者を見かけたのでご挨拶しようと近づくのは、殿下にとって罪でございましょうか?」


小首を傾げると、ゆるく巻いた髪の一房がさらりと肩から零れ落ちた。

レンダー王太子は、小さく舌打ちして、溜息を吐く。


「いや。挨拶なら不要だ。下れ」

「もう一つ用事がございますの。そちらの……ピロウ男爵令嬢に」


名指しされるとびくり、と砂糖菓子が肩を跳ねさせた。

大袈裟な身振りに、周囲の殿方も更に警戒するようにこちらをねめつける。


「あ、あの、オリゼー様も私が平民だからって、差別するんですかぁ……?」


「何と傲慢な……!」


早速涙声になるアリスに、庇うように王太子がその肩を抱く。


「いえ、まだ何も言ってませんけれど?」


茶番劇に沈黙が降りる。


馬鹿なの?

何でも被害者ぶればいいって事じゃないのよね。


周囲では失笑する声も聞こえる。

それを聞いて、アリスは羞恥に頬を赤く染めて、口を引き結んだ。


「先走りのお涙頂戴茶番劇はお仕舞いでして?」


たっぷり時間を置いて問いかけると、王太子が椅子からガタリと音を立てて立ち上がった。


「貴様のそういう可愛げのない所が嫌いなのだ!」


極め付けには傲慢に、言ってやったとばかりに王太子は口の端を上げる。

この顔を見たら、王太子に対して恋してた令嬢達も少しは考えるでしょうね。

馬鹿は黙って座ってろ。

私は笑顔を浮かべて席を掌で指し示した。


「残念ですけれど王太子妃教育に「可愛げ」の項目はございませんのよ。どうぞ落ち着いてお座りなさいまし」


嫌いなのだ!って。

だから何?って感じなんだけど。

お前は食べられない野菜を前にした駄々っ子か。


今更笑いがこみ上げてきて、押し殺すのに手間がかかる。


「その点、可愛らしさにおいては、アリス・ピロウ男爵令嬢の足元にも及びませんわ」


その他はほぼほぼ私の方が上ですけどね。


私の微笑と、紡がれた言葉に間抜けな声が重なる。


「えっ?」


「「えっ?」」


可愛いと褒めたのが意外だったのか、周囲の取り巻き男子とアリスはぽかん、と声だけでなく間抜けな面を晒した。

私はにっこりとアリスに微笑みかける。


「わたくしはアリス・ピロウ男爵令嬢こそが、レンダー王太子殿下の隣に相応しいと考えますの。どうか、わたくしの代わりにレンダー王太子の正妃の座に就いては頂けませんか?」


「えっ?えっ?」


慌てふためくように、アリスが忙しなく私とレンダー王太子を交互に見る。

レンダー王太子もレンダー王太子で、は?というように固まっていた。


「レンダー王太子殿下も、勿論受け入れてくれますわよね?こんなに愛らしいアリス・ピロウ男爵令嬢を正妃に娶れるのですもの。国王陛下と王妃殿下の説得くらい、して頂けますわね?」


それは、王家と公爵家の両家で結ばれた契約を切ると言う事に他ならない。

オルブライト公爵家が、王太子の後ろ盾から外れると言う事でもある。

途端にレンダー王太子の顔色が悪くなる。


「レンダー様ぁ……」


逃してはならないと思ったからか、アリスが良いタイミングでレンダーの腕にしがみつく様に見上げる。

流石ですわ、アリス様、と私は心の中で応援した。

愛する女性に、退くところを見せたくないと思ったからか、レンダー王太子は鷹揚に頷く。


「分かった。父上と母上の説得はしよう。その上でお前を側妃とすれば良いのだな?」

「は?」


思わず腹の底から低い声が漏れてしまった。


地獄からの使者かな?


自分でもそう思ったのだから、他者にはもっと酷く聞こえたかもしれない。

その迫力に、レンダー王太子が若干距離を取ろうと仰け反った。


「先程、わたくしの事を嫌いだ!と叫ばれましたけれど、わたくしもレンダー王太子殿下を嫌いでございますの。ええ、政略結婚ですら御遠慮したいほどですわ。お互い嫌い合っているのに、側妃とはいえ婚姻するなど、身の毛もよだちますわね?」


私の言葉を聞いて、アリスが叫ぶように言った。


「そんなっ!酷いですオリゼー様!レンダー様の事を嫌いだなんて!」


御助力ありがとう。

名前を呼ぶ許可はしてませんけど、まあ、大目に見ましょうね。

アリス様のお陰で中庭中にその言葉が知れ渡ったのだから。


レンダー王太子はアワアワとしているが、アリスを止められないまま恥を晒す。

顔色も青くなったり赤くなったりと忙しい。

序なのでアリスに問いかける。

先程の王子の幼稚な嫌いだ発言をまだ聞いていなかった者も、耳を澄ませているだろう。


「では貴方はレンダー王太子殿下がわたくしの事を嫌いと言うのは、酷くないと仰るの?」

「そ、それは、それも、酷いですけれど……」


もにょもにょと言葉を濁すように、下を向くアリスに私は言葉で追撃をかける。


「噂どおりですのね。男性と女性に対しての態度が違うというのは。わたくしがレンダー王太子殿下に嫌いだと言われた時、貴方は笑って見ておりましたものね?だけどわたくしが嫌いという時は嬉々として責めるなんて、公平性に欠けること。これは平民がどうとか言う話ではなくってよ」


平民だから責めるんですね!と何でも結び付けるアリス令嬢の十八番を封じて見下ろす。

男性陣も思うところがあるのか、誰も突っ込まない。


おい、大丈夫か?

元から大丈夫ではなさそうだけど。

一人くらい庇って差し上げればいいのに。

その気概も技量もないのですか。

まあ、この辺でいいでしょう。


私は言質を取りつつ、中庭を去る事にしてお辞儀の態勢に入った。


「ともかく、婚約解消でご納得頂けたと存じます。わたくしは以降、王宮には参りませんので、どうぞよしなにお計らい下さいませ」

「卑怯だぞ……身分を盾にして、気を引きたいだけだろう!」


えっ?

私は思わずお辞儀の手を止めて、まじまじとレンダー王太子を見つめる。

そして首を傾げた。


「殿下は気を引きたくて嫌いと仰いましたの?王太子という身分を利用して、婚約者として蔑ろにした挙句に、側妃に縛り付けるおつもりですか?」

「ち、違う!婚約は解消する!」

「良かったですわ。わたくしも同じ気持ちですの。一刻も早く離れたいですし、二度と視界には入れたくございませんわ」


レンダー王子は私の言葉を聞くと、羞恥か怒りかで顔を真っ赤にしてこちらを睨む。


あらみっともない。


私は優雅にお辞儀をすると、中庭を後にした。


実際には、王太子妃教育ももう終盤だし、王太子妃として王妃や王太子の補佐としての公務も執務もこなしている。

だからこそ、王家が手放すかどうかは疑問なのだが、学生の間だからと王太子を野放しにしたツケではあるのだ。

勿論今日行動を起こす為に、父のオルブライト公爵とは相談済で、放蕩王太子の情報や証言も収集済。

王宮に与えられていた王太子妃専用の部屋から私物は一切引き払ってある。

まだ婚姻前で、正式には候補なのだけれど、実務をする為に与えられていた部屋だ。

あとは王都にある邸宅へと帰るだけ。

侍女と護衛騎士を同乗させて、ゆっくりと馬車は王城とは逆の方へ進む。

それだけで、私の心は解放されるのだった。


「お母様!」

「まあ、オリー!」


今か今かと玄関ホールで待ち構えていたのか、馬車から降りるとすぐに母の姿が見え、広げた両腕の中に私は飛び込んだ。


「やっとですわ、お母様。暫く傷心を理由に療養致します!」


傷心とは言ったものの、全然傷心ではなさそうな娘に母はにっこり微笑んだ。


「ええ、そうすると良いわ。わたくしも暫くお茶会はお断りして貴方と過ごします」

「まあ、嬉しい」


これだけの騒動を強行できたのは、父と母と家族のお陰だ。

王宮に行きたくないという娘を泣く泣く送り出し、何くれとなく様子を見に訪れて、手紙や贈り物も欠かさない家族だった。

離れていたからこそ、深まる絆というものも存在するのだ。

父は法務大臣として如何なく手腕を発揮し、国の中枢で権力を握っている。

長男は騎士として優秀だった為、家督を弟に譲って、同じく騎士科に進学していた辺境伯令嬢と婚姻を結んで、今や辺境伯となっていた。

次男は公爵家令息として公爵家の領地を滞りなく治めている。

婚約者は何と隣国の姫君だ。

留学中に見初められ、お互いに愛し合い結ばれたので、二人を題材にした恋愛小説が出るほどだった。

姫君はもう既に公爵領の邸宅に共に住んでおり、仲睦まじく暮らしているという。

結婚はもうすぐだ。


何も全てがオリゼーの為ではないが、小さい頃から嫌々婚約者の座に納まっていると知っている家族だ。

急いで地盤を固めるように、堅実に人脈を作って、公爵家の権力を不動の物にしたのは確かである。

巷の恋愛小説や他国の情勢を聞くに、卒業時に何故か婚約破棄される事が多い。

だが、そこまで待つ必要はあるだろうか?

王子に恋をしてるなら分かる。

心変わりを望んだり、氷のように薄い期待を持ち続けるのも。

とてつもなく、自分の心のど真ん中の美形なのかもしれない。

でも、婚約破棄してくると言う事は不実な男なので、中身はどうかしている。

そこも好き、という物好きならそれもまた理解可能である。

しかし、両方当てはまらないのにうだうだしている人間がいるとしたなら、洗脳されているか決断力がないかだろう。

そんな人間に決断や采配が山のように必要な執務をこなせるとは到底思えない。

大体情勢も読めずに婚約者以外と懇ろになる時点で、王族としての教育の低さが窺える。

そんな輩が国王の座に座ったら一体どうなるか。

それならば、いっそ国を捨てたほうが良い位の結果が見えるだろう。

今まで一度も苦言を呈さなかったのは、とにかく最短で王太子から離れたい一心だったからだ。

そもそもこんなに大変なら王室に入りたいなんて思わない。

キラキラして贅沢してチヤホヤされるのが王族ではない。

寧ろ、地味な事務仕事に奔走し、ギスギスした社交界や国交に精神を削られ、国庫を気にしつつ見栄えを良くしなくてはいけない綱渡りな作業を延々こなす雑用係だ。

もうやだ。

そう思っても、王室に入ってからでは遅い。

過去に戻れるなら、婚約した自分を小一時間説教するだろう。

何故、ギャン泣きしてでも拒否しなかったのだ?と。


とはいえまだ間に合う。

王妃教育はのらりくらりと躱していたからだ。

執務を滞らせがちな王太子の様な生き物を前に、王太子の補佐が出来るよう王太子教育を増やす事で難を逃れた。

王子妃教育や王太子妃教育では、わが国では国の暗部にまで触れない。

せいぜい国の中枢に関しての書類仕事止まりで、書類に至っては公式なもので誰の目に触れても問題ない体裁のものだから、国の機密だとしても貴族の秘密とは無関係だ。

つまり国から出るのは憚られるが、命の危険までは及ばないと言う所だろう。

だとしても、ここ10年近くの教育が無に帰するというのは王家にとって負担は大きい。

特に王妃は明日から大変な事になるだろう。

私が執務可能になってから回していた書類仕事が元に戻るどころか、王太子妃に割り当てられる執務の半分は王妃の仕事に上乗せされる。

勿論王太子もである。

私が手伝っていた王太子の執務に加え、王太子妃の執務の半分は王太子の仕事に上乗せだ。

ざまあみろ。

私は美味しい食事と甘い菓子を楽しんで、ゆっくりのんびり湯浴みをして、幸せに眠りに就いた。


次の日は学校を休んで、母と一緒に二人分の侍女と護衛を引き連れて、貴族街を散策した。

この国の貴族街は貴族の邸宅の他、商店も貴族専用で立ち入るにも門番への身分証の提示が必要になる安心設計となっている。

貧民は勿論おらず、平民も貴族向けの店の店員なので、騒ぎが起こることも殆ど無い。

昨日は父は帰宅しなかったらしい。

王城で何があったのかはお察しである。

喫茶室で侍女達にも菓子と紅茶を相伴させて、土産に焼き菓子や生菓子を思い切り買って意気揚々と帰る。

のんびりと刺繍や読書を楽しんで、学園が終わる時間になると友人が訪れた。


「大変な事になりましてよ、うふふ」


楽しそうに話し始めたのは、リデイラ・ボールドウィン侯爵令嬢である。

家格や派閥、寄り親寄り子とは異なる、本当の友人だ。

過去に王太子の婚約者候補だった事もある。


「何がございましたの?」


私が目指すのは自分の婚約解消だけだったので、その他は知らん。

とばかりに、周囲の取り巻きには手を触れていない。

調査上で情報は集まったけれど、叩き潰すのは自分の役割ではないからだ。


「アリス・ピロウ男爵令嬢の周囲に侍っていた殿方、いますでしょう?」

「ええ、昨日もぴったりくっついていましたわねえ」


まるで姫を守る騎士だとでもいうように、こちらを威嚇していたのをうっすら思い出す。

くすくすとリデイラが笑った。


「オリゼー様の雄姿をご覧になったご令嬢方が、婚約解消に乗り出されましてよ。あの大商会の子息は、地面に額まで着けて謝罪されたとか……見たかったですわあ」

「マクラウド商会、でしたかしら?お相手は伯爵家の?」

「ええ、エリンギル伯爵の、イライザ様。今まで何度も苦言を申し上げていたというのは、皆様も目撃しておりますし。エリンギル家の寄り親であるローザンヌ公爵家共々、御用商人の契約は破棄されるようですわ」


まあ、それは大打撃ね。

というか、今までよく我慢してたわね。


「そういう事でしたら、ローザンヌ公爵家の寄り子の皆様も後に続くでしょうし、わたくしの家は元々縁が無いですけれど、公爵家が契約を打ち切った商会と懇意にしていたら、お茶会でも何かと話題に上りそうですもの。同じ派閥でなくても関わりを避けるでしょうね」


つまり、マクラウド商会は今後、貴族相手の商売がこの国では出来ないと言う事だ。

多分同程度の商会、若しくは貴族からの求婚がエリンギル伯爵家に持ち込まれるだろう。

大商会が享受していた旨味を、得られるかもしれないのだから。

逆にマクラウド商会は元々が平民だ。

例え件の息子が家を追い出され、慰謝料を支払ったとしても切られた契約が元に戻る事はない。


「命綱に刃を入れるなんて、わたくしには考えられない苦行ですこと」

「まったくですわね。何故、令息達が選ぶ側で、令嬢達が選ばれる立場だと勘違いなさっておいでなのかしら。家同士の力関係や繋がりが重要ですのに」


柔らかく微笑むリデイラは少女らしいあどけなさと美しさを持っている。

彼女は同じ年齢で領地も隣り合っている伯爵家に嫁ぐ事が決まっていて、二人の仲は睦まじい。


「リディは羨ましいことね。幼い頃から愛し愛される仲なのですもの」

「嫌ですわオリー、人生はこれからの方が長いのですから、早めに手を打った貴方も、その行動に勇気を貰った方々も皆様賞賛に値しましてよ」


愛称を口にすれば、応じるように愛称で返される。

彼女の機転も礼儀も、私には心地よい。


「もし手助けが必要な方がいたら、お声をかけて差し上げてね。腐るほど証拠はございますの」

「ええ、喜んで。それに本日は良い物をお持ち致しましたのよ」


リデイラの報告はそれで終わり、後は彼女が持ってきた来月から王都で行われる観劇についての話題へと移っていった。


その日の夜、晩餐の席に漸く父の公爵がヨレヨレと帰ってきた。

「はあ……疲れた。婚約解消、成ったぞ、二人とも」

草臥れながらも嬉しそうに、父が書類を片手に高く掲げる。

私と母は思わず拍手で迎えた。

「王家から無理難題を吹っ掛けられたのではなくて?」

母が心配そうに父の肩を優しく撫でると、父は微笑を浮かべる。

「お互いが望むのだから致し方ないと、陛下もお認めになったし、ましてや素行の悪さは調査済だからな。これ以上言うのなら王家有責の婚約破棄も辞さない、慰謝料も発生すると言えば、まあ受け入れるしかないだろうよ。しかもその後悪手を打っていたな」

あら、と母が目を輝かせた。


もしかして、またあの馬鹿王太子がいらん事をしたのかしら?


「ローザンヌ公爵の娘は他国の王子に嫁入り予定だが、故に王子妃教育も終えている。その結婚を取りやめて、側妃に迎えたいと馬……王太子が仰せになって、それはそれはローザンヌ殿がお怒りになってな」


今、馬鹿と言いかけましたわね?

確かに馬鹿ですけれども。


「それは、何とも素晴らしく甘いお考えですわね」


私の言葉に父母共に頷いた。

そんな暴挙があったからこそ余計に、公爵のマクラウド商会への当たりも強かったのかもしれない。

でも何て浅はかなのかしらね。

確かにレンダー王太子にとっては都合がいいけれど、そこまでの価値が自分にあると思っているのかしら?

思っているから言ったのでしょうけど。


「中立派だったローザンヌ公爵も、王妃ともども距離を置くだろうな。第一第二王子共に王妃の腹だ。外国に出された第三王子が呼び戻される可能性が高い」

「……あの、もしかして、第二王子の婚約者のロージー様を第一王子の側妃に、と言い出したりは……」


ピンと来た私が聞くと、父は泣き笑いの表情を浮かべた。


ああ、やっぱり。


「スティーダ侯爵家からは、第二王子の婚約者を辞退すると今日連絡があったよ。王子はこれで側妃に出来ると喜んでいたが、既に昼過ぎには外国へ留学に出たそうだ」


まあ、素早い。


「決断が早くて宜しいわね。これで第二王子の婚約者も空席になってしまって、どうするのかしら?」


これだけ混沌とした状況では、伯爵家以上の家格からの王室入りは難しいだろう。

他国から正妃を迎えて、アリス・ピロウ男爵令嬢を側妃にする位しか手はないと思うのだが。


「さあ。どうするのか。他国から迎えるなら正妃以外にないし、既に側妃が決まっている状態で嫁ぐ王族がいるかどうか。我が国が強国なら未だしも……将来に不安しかないな」


確かに。

言われてみればそうだ。

側妃が居るという事は、愛する人が居るから、お前は仕事してねって事である。

子供を産んだとして、王妃は自らの子供を育てられない。

床上げしたら、溜まっていた執務に公務が始まるからだ。

乳母に頼むか、下手したら側妃や王太后が母親面して、引き裂いたという話も歴史上無くはない。

しかもそれを咎めたら、お前が仕事ばかりして子供の面倒をみないからだ!とか言われるのだ。

ああ、言いそう。

あの男なら言うだろうな。


「そうですわね。他にもアリス・ピロウ男爵令嬢の周囲の殿方は婚約解消が進んでいるらしいですし」

「やはりか。間者ではないようだが、一体何故こんな事になったのか。まあいい、とりあえずお前はゆっくり休養しなさい。何も思い悩む事はない」


父と母に優しい笑顔を向けられて、私は微笑を返した。

☆を★にしてくださると喜びます。

応援だけでも喜びます(・8・)ピョ


コメント沢山ありがとうございます!

再々改稿の作業が終わり次第、連載版(10話以内で終わると思います)うpします!


嘘つきました!15話+1話です!

連載版はこちらです

https://ncode.syosetu.com/n8303ja/

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