第七話 私、頑張ってみる
昔々、あるところに1人の女の子がいました。その子は、中学生の間、仲の良い友達と転勤で離れてしまいました。
初めての中学校で、女の子は新しく仲の良い子ができました。どんな時もずっと一緒にいましたが、ある日、女の子は、その子と喧嘩してしまいました。喧嘩をした後、その二人は謝れず・・・もう一人の子はー
「円城寺美華って、人を殺したことがあるんだよ?」
嫌味ったらしい声で、彼女は私の秘密を暴いた。
「どういうこと?」
涼さんは、私を庇いながら元クラスメイトの彼女に聞いている。でも、もう聞かないで欲しい。もう私の秘密を暴かないで欲しい。お願いだから、私を・・・嫌わないで欲しい・・・。
「もう、もう、やめて!!」
私は、涼さんの前に立ち元クラスメイトの彼女に言った。
「ほら、そうやって気に入らないものがあると、すぐ吠える」
「違う、違う!!」
「そうやって、彼女も殺したんでしょ?」
「違う、黙って!私は・・・私は、誰も殺してないっ!!」
顔を上げられない。怖くて、恐くて、元クラスメイトの顔を見れない。視界がひどく歪む。夢の中を歩いているかのような錯覚に陥ってしまう。呼吸が、呼吸ができない。いや、もう・・・呼吸なんかしたくない。
「ねぇ、円城寺美華」
元クラスメイトは、私の顎を掴んで顔を強制的に上げさせた。嫌だ、嫌だ、怖い、誰か助けて。
これが夢ならいいのに。あの時、夕日を見て涼さんと会話して、そのまま寝ちゃってたらいいのに。
「私たちは、あんたのことを忘れないから」
そう言って、元クラスメイトは私の顎を掴んだ手を一度手を離した。そして、そのまま私を殴った。私は、殴られた方向へ、倒れた。
「またね、円城寺美華」
そう言って、元クラスメイトは帰って行った。
「円城寺ちゃん?大丈夫?」
涼さんは倒れた私の元へ駆け寄った。
「・・・大丈、夫」
あぁ、嫌われたよなぁ・・・。私の醜い部分が、出てしまったのだから。
これ以上、涼さんに迷惑はかけられない。
「・・・涼さん、私、帰るね」
「あ、あぁ・・・うん。またね」
「・・・さようなら」
本当は、今この時点で即刻別れた方がいい。恋人関係を解消した方がいいのに、私はまだ未練がましく恋人関係を解消しないでいる。
「ただいま」
「おかえり、美華」
家へ帰り、靴を脱いだ私は縁側へと向かった。
縁側からの景色は、季節ごとに移ろっていく。時間は止まらないんだぞ、とここに来ると花に言われているような気分になる。そう、時間は止まらない。だから、大丈夫。嫌な記憶も、思い出したくない過去も、時間が過ぎれば消えていく。
「美華、お茶でも飲むかい?」
私に何かあったことを察したのか、おばあちゃんは私の隣にお茶と練り切りを置いてくれた。
「おばあちゃんが甘いの食べたくなっちゃってねぇ、付き合ってくれるかい?美華」
「うん、もちろんだよ」
おばあちゃんの、こういう優しさが嬉しい。
「花はさ、時間をかけて育てるんだよ。育てる過程はずぅっと晴れの日じゃない。雨の日も、風の日もある。でもね、諦めずに頑張ることで、うんと綺麗な花を咲かせる。綺麗に咲いた花を、おばあちゃんたち華道家はさらに綺麗にする。いろんな花を合わせることで、お互いがお互いを綺麗にさせる。・・・花って、そういうものさ」
「うん」
「だから、大丈夫さ」
「うん」
「美華も、いつかきっと綺麗な花を咲かせるよ」
「そうだね。ありがと、おばあちゃん」
そう言って、食べた練り切りは、ひどく甘くて、体に染み渡るような心地がした。
「私、頑張ってみる」
私は、もう逃げない。私の過去と向き合う。