第五話 嘘を、ついたの?
円城寺ちゃんとのデートの次の日、僕ー白谷涼は学校で昨日買った本を読んでいた。この本は、昨日円城寺ちゃんと行ったデートで、円城寺ちゃんにオススメされたから買ったみた。実際読んでみると、すごく面白い。
円城寺ちゃんには、本は読むと言ったが、本当はあまり読まない。円城寺ちゃんを困らせないために本を読むと嘘をついた。
目を閉じれば、昨日のデートの時の円城寺ちゃんを思い出せる。
「円城寺ちゃん」
「・・・何?」
敬語は禁止と言ってから、少しぎこちないタメ口を円城寺ちゃんは使うようになった。そのぎこちなさが妙な愛嬌を持っている。
「円城寺ちゃんのオススメの本を教えてくれない?」
「えっと・・・じゃあ、これ、かな」
推理小説コーナーへ行き、隅に置かれていた本を手に取った。
「この本、私が初めて読んだ推理小説・・・。オススメ・・・かな」
差し出された本を受け取り、無言でレジへ向かった僕に円城寺ちゃんは止めに入った。
「気にいるか、分からないと思う。それで、いいの?」
「いい。円城寺ちゃんがオススメって言うなら、読む」
僕の言葉を聞いて、円城寺ちゃんはピタッと足を止めた。
「・・・あり、がと」
周りの雑踏にかき消されるか、消されないかぐらいの声量で円城寺ちゃんはお礼を言った。それがとても可愛らしかった。
表情が変わらない円城寺ちゃんは、どこへ行こうとも、何をしようとも表情が全く変わらない。
でも。
でも、あの時。
僕が頭を撫でた時、円城寺ちゃんの頬が少しだけ緩んでいた。
いつも無表情な円城寺ちゃんが、ほんの少しだけ頬を緩ませたのは、なかなかに見れない姿で、僕の心の中の何かが、ドキッとした気がした。
ドアが開く音がして、僕は目を開けた。
教室には、クラスで僕によく話しかけてくる女子が入って来た。
「涼く〜ん、おはよー。・・・あれ?本?」
「うん」
「涼くんって本読むんだね。知らなかった〜」
その声の後、教師の後ろ側から誰かが入って来た。
「でも、僕あまり本読まないよ?」
その言葉の後、後ろからガタッと大きな音がした。ハッとして振り返ると、そこには円城寺ちゃんがいた。
「あ、円城寺ちゃん・・・」
円城寺ちゃんは、カバンを席に置いた後、教室を出て行った。追いかけなきゃ、そう思うのに、クラスの女子が延々と話しかけてくる。
「その本、何?難しそ〜」
「・・・面白いよ」
何度か、円城寺ちゃんを追いかけようとした。だが、次から次へと僕の元へやってくるクラスメイトの女子を相手にするので、僕は手一杯だった。
1日の授業が終わり、HRも終わった頃円城寺ちゃんが、僕のところまで来てこう言った。
「この後、時間・・・ある?少し、話がしたい」
そうだろうなと思っていた。心の中で、覚悟もしていた。だけど、いざ言われると心が落ち着かなくて変な感じがする。・・・別れを、切り出されるのだろうか。それは、すごく嫌だな。まだ恋を知れていないのに。
カバンを持って、円城寺ちゃんの後をついて行けば、学校の裏にある公園に来た。正直言って、こんなところに公園があると知らなかった。
円城寺ちゃんはベンチに座った。
「ねぇ、円城寺ちゃん」
「・・・何か、飲み物でも買う?自販機あるんだけど・・・」
何故か、円城寺ちゃんは話を逸らした。
「円城寺ちゃん」
「・・・白谷さん」
目を逸らさず、真っ直ぐ僕の目を見てきた円城寺ちゃんは、おずおずと口を開いた。
「嘘を、ついたの?」