第二話 知っていきましょう。恋について
「僕と付き合う?」
「・・・はい?」
白谷さんから言われた言葉は、私にとってあまりにも信じ難いものであった。
「え、付き合わないの?ちょうど、彼女と別れたばかりなんだよね」
「つまり、別れて空席になってしまった彼女という席を、私で埋めようと?」
「うん、まぁそんな感じ」
「信じられません。女を道具のように扱わないでください。私は、あなたの中で空席になってしまった席を埋める道具ではないです」
私の言葉に目をぱちぱちとした後、白谷さんはハハっと笑った。
「そうだね、ごめんごめん。でも、円城寺さんは恋と愛の違いについて知りたいんでしょ?」
「それもあります。でも、まずは恋について知りたいです」
「なんで?」
「恋、というのは時間とお金と労力の無駄だと私は考えています」
彼の射抜くような真っ直ぐな視線のせいだろうか、私は素直に恋についての考えを述べていた。
「そうなの?円城寺さんは、どうしてそう思っているの?」
「だって、恋をしている時は楽しかったとしても、失恋した時は?相手のために使っていた時間、お金、労力、全てが無駄になるじゃないですか」
「でも、みんな恋をしている」
「そうですけど・・・」
「円城寺さんは恋をしないの?」
真っ黒な瞳で白谷さんは私を見つめる。
「私は恋はしません。というか、できません。私は・・・誰かを好きになる、というのができないんだと思います」
「どうして?できると思うよ」
「・・・白谷さんには、分かりませんよ」
私は記憶の中にある母親の姿を思い出す。
「だって、誰からも愛された白谷さんに、誰からも愛されなかった私の気持ちは分かりません。愛を、誰かに愛を注いでもらわないと・・・人は、人を好きになれないんです。愛せないんです」
これは、ただの八つ当たりだ。誰からも愛されている彼へ、誰からも愛されなかった虚しさをぶつけているだけ。
「僕ね、誰かを好きになるっていう感情がわからないんだよね」
「え?」
「だから、僕のことを好きだっていう人と付き合って好きになろうとしているんだけど・・・分からないんだ」
白谷さんは、私から視線を外して言った。
「どんな子も、僕の顔が好きだっていうの。でも、顔が好きでもどうやって恋になったのか、僕はそこが知りたいんだ。なのに、みんな口を揃えて言う。「いつの間にか恋していた」って。いつの間にかって何?僕は、恋になったその過程を知りたいのに・・・」
「意外です」
「え?」
「彼女が多い人は、恋多き人だと思っていました。だから、恋について、人を好きになるという感情の正体がわかるんだと・・・。でも、白谷さんも分からないんですね」
陰キャな私だけど、陽キャな白谷さんに少しだけ親近感が湧いていた。
「うん、分からない」
私は何も考えずにこう言ってしまっていた。
「知っていきましょう。恋について」