桜の咲く頃に
目を覚ますと知らない女の人がいました。
「もしかして、新しい看護師さん?」女の子が聞くと
「はじめまして。どうぞよろしく。あなたのことを教えてくれる?」と言います。
初対面なのに不思議と穏やかな気持ちになって女の子は自分のことを話しはじめました。
「わたしね、生まれたときから障害があって、体も弱かったから、ずっとここにいるの。
この病院がわたしのおうちなの」
看護師さんは何も言わずただ頷いています。
「学校も今まで一度も行ったことがないのよ。だから友だちもあまりいないの」
どうしてこんなにすらすらしゃべれるのかしら、そう思いながらもお話しは止まりません。
「お母さんがね、病気が治って体が丈夫になれば学校にも行けるし、お友だちもたくさんできるわよって」
「退院したら、野球もやってみたいわ。でも女の子にできるのかしら」
「だから病院にいるのは辛いけど、ちゃんとお薬を飲んで早く元気になりたいの」
女の子が言うと看護師さんは、苦しそうに
「そうね、でもそれは無理なの」と言ったのです。
その顔は悲しみに満ちているように見えました。
それで女の子は全てを察することができたのです。
「もしかして、わたし、死んだの?」
看護師さんは小さく頷きます。
「そっか、わたし頑張ったんだけど・・・
お友だちと学校行きたかったな」
女の子はそれほど驚いているようには見えませんでした。
すると看護師さんは「大丈夫。次は行けますよ」と言ったのです。
女の子には意味がわかりません。
「10歳までに死んだ子供はもう一度やり直せるのよ」
これにはとても驚きました。
「なんで?」
「そういう決まりです」
「決まりなの?」もう一度聞きました。
「そうです。そう決まっています」
いったい誰がそんなことを決めたのでしょう。
看護師さんは、「それであなたと会ってお話しがしたかったのよ」と言い、
「次も、女の子がいいですか。男の子に生まれたいですか」と聞いたのです。
また驚きです。
「選べるの?」
「はい。どちらになりたいですか」
女の子は少し考えて、
「男の子がいいわ」と答えました。
次に「ご両親は今と同じでも、全く違う両親から生まれることもできますよ」と言うので、
またまた驚きました。
「それは・・・もちろん同じお父さんとお母さんでお願いします」
ずっと心配をかけてきたから、次はいっぱい恩返しをしなくちゃと思ったのです。
「わかりました。これで面接は終わりです。ゆっくり休んでください」
そう言うと看護師さんはドアから出ていってしまいました。
病室はまたしんと静かになりました。
「これは夢? わたしの夢なの?」
看護師さんだと思っていたけれど、あの人はいったい誰だったのかしら?
女の子は必死に考えようとしましたが、それは長く続きませんでした。
すーっと意識が遠くへ行ってしまったからです。
そして季節は春になり、夏になり、
秋になり、冬になり、
次の春がやってきました。
「おめでとうございます。
お母さん、よく頑張りましたね。
元気な男の子ですよ」
桜の蕾がほころび始めた頃でした
そんな決まりは無いと断言できますか
きっとあると信じています