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Ep1 青眼少女、街へ降り立つ 


 林立とした都心。

 近代化の進んだ電子技術がこの街では発展している。


 総人口約32億ほど。

 海外から移住してくる人も少なからずおり、渡航人も街中で度々と見かける。


「蒼衣さん、報告終わりました……それではそろそろ行きましょうか」

「そうね、あとは司令部の人に任せましょう」


 先ほど捕まえた凡庸殺人者(マダラー)は、最終的な処理を行う私たちの親玉に当たる区部――司令部に任せた。

 捕らえて、連絡を早々に済ませしばらくすると専業の者が数人現れ、私と礼名は無名の殺人者を渡した。

 物騒な服装をしているが、彼らは軽やかに仕事を済ませた。慣習、慣れというものだろうか。


 あとのことは司令部に任せ、最後の野暮を終わらせよう。


「管理部への連絡をお忘れずに。……さすがに蒼衣さんなら忘れてはいないと思いますけど」

「わかってる。だから、そんなこわばった顔しないでよ…………えぇもしもし」


 少々、皮肉に言われているような気もしたが事を済ませる。

 私たち組織を統制する管理部へと一報を入れた。


 耳にスマホを当て。


「もしもし、こちらノヴァ(ツー)の東城蒼衣です。管理部の方でしょうか?」

『おぉ東城さん、あなたか。管理部から先ほど連絡があったが例の無法殺人者を礼名さんと一緒に捕まえることができたんだね?』

「……はい。大したXウェポン相手ではなかったので楽勝でした」

『よし、わかった。それではこっちで後処理は済ませておくから、あとはリーダーに報告よろしくね。お疲れ』

「はい、ありがとうございます鍵澤さん」


 軽い会話で会話を済ませた。

 通話相手は鍵澤さん。私たち殺人者を厳粛に管理している管理部の(ちょう)である。

 普段彼が戦うことはないが、聞いた話によれば敵にすると非常に厄介らしい。


「終わったよ礼名。それじゃ行こうか」

「……(こくり)」


 人々の行き交う街通りを歩く。

 喧噪が鳴り響く中で、私は会話の中へと溶け込む。

 かたくなとする短髪な少女は、いつもながら憮然(ぶぜん)としているが、出会って数か月。ようやく彼女の感情を少し理解できるようになった。


「……それで? また大好きなパッキーでも買いに行くんですか。お昼前ですよ」

「お腹が空いてね。ほらすぐ近くにあるコンビニあるじゃない。大丈夫、政希さんにはそれらしい弁明でも考えておくから」

「まったく、あなたという人は」


 少々笑った様子を見せるこの少女は。


 柚木礼名(ゆずきれいな)。私の1つ下の後輩――高1で、いつも義理堅い性格をした子だ。

 1か月前、2人私たちの組織に入ってきたがそのうちである1人になる。

 とても作戦に関しては一流であり、的確な判断・臨機応変の対応を行えるのが彼女の素晴らしいところだ。


 入ったばかりの当初、感情もなにも掴めないままではあったが、接する度に人は自ずと人の感情を読み取れるようになるみたい。あの頃は少し億劫だったな。

 そんな彼女も私の所属する特殊組織『ノヴァ・オペレーションズ』通称ノヴァの重要なムードメーカーである。


 駅の通りに立つコンビニで細い棒状のお菓子『パッキー』を購入し、店を出ると歩きながら1本ずつ加えては食べた。

 昼食近くなので、今は1本程度に納めておくことにした。


「あなたという方は。そのお菓子、本当に好きですね」

「あなたも食べてみたらほら?」


 ためしに1本かさばった封筒から取り出して渡す。

 数百年もの歴史のある名をはせた一品だ。嫌いという人はまずいないと思うが。

 チョコレートでコーティングされたこの菓子は絶品。気に入ってくれるといいのだけれど。


「ま、まあ蒼衣さんがそういうなら1本だけ……頂きます。…………あれ意外と美味しいですね。チョコの部分が格別です」


 どうやら気に入ってくれたみたいだ。

 小さな口で、美味しそうに味わう様子をみせる。

 黙々と食べ。


「すみません、今度詳しく……このお菓子を。いろんな味が店内に並んでいたので興味が湧いてきました」

「いいわよ。よかった気に入ってくれて。そろそろ政希さんの家、私たちの基地に到着するわ」

「そうですね……今度買いに行こう」


 電車を経由し光学装置の通った道を、ひたぶるなに進むと。

 少し陳腐な家屋に行き着く。


 私はあまり知らないが、聞いたことがある。

 このタイプの家は昔、多くの人が使っていたと。

 数百年前の物らしいが、周囲の家と比較すると質素な雰囲気がよりいっそう目立つ。


「帰りました」

「ました……」


「帰ってきたか。よぉし俺も仕事だいぶ終わったし」

「政希さん、管理部からのメッセージ受け取りました。ノヴァ2、4無事任務完了。帰還しました」

「狙ったようなタイミングね。絵美ちゃん、ちょうど帰ってきたみたいよ」


 玄関を潜ると少し騒々しい声が聞こえてきた。

 家へと上がり、みんなの待つリビングへ。


 長机が3か所。中心のテーブルには断髪な青年が1人。この人がリーダー。天童政希さん。


「ま、待ちくたびれたぞ、蒼衣、礼名……はぁはぁ」

「ちょっと政希さん? 憔悴したようになっていますけど大丈夫ですか」

「大丈夫もなにも、この調子よ。手が追いつかなくて手一杯だって本人は言ってたわよ?」


 机に体を伏して疲れ果てた様子をする政希さん。

 気兼ねした彼は過敏に反応しとたんに体を起こした。

 矛先は腕組みする白髪の少女。

 指を差しながら頭ごなしに言うと。


「おい美咲、それを言うな、リーダーとして無様な体たらくはこの2人には見せたくないからな」

「(強がっちゃって……)はいはい。わかりましたよ。おかえり蒼衣、礼名ちゃん」

「ん? 今なんか言ったか?」

「いえ気のせいですよ? 政希さんの空耳では」


 机前に立ち白い長髪の少女。

 疲れ果てる彼を見ながら、余裕と話をうまくはぐらかした。

 そのなにごとにも動じない姿勢には遠回しに威圧感・権威さえも覚えてしまう。

 彼女の名前は華崎美咲(はなさきみさき)


 ここ都市部の三代名家――華崎家の跡取り娘である。

 とても私と同年とは思えない美貌を兼ね備えており、外見がどう見ても大人。

 豪族らしいが、数億という資産が山ほどあるらしい。


 そして先ほど、作業を終わらせた礼名似の少女。

 橋本絵美(はしもとえみ)は、組織メンバーに指示を出すオペレーターを担っている。

 礼名似な見た目が彼女との相違点は、感情が豊かなので見分けやすい。

 礼名とは同期だが、なぜか礼名は敬語で話す。……人の性格とはわからないものである。


「……その政希さん、理奈さんは?」

「たしかに。どこにいるんですか」


 もう1人いるのだが、彼女の姿が見つからない。


 黄美江理奈(きみえりな)。私の親友はどこだろうか。

 任務とは言いがたいが。


「理奈なら今買い物に行ってるよ。俺が食料の調達するよう言ったきり」

「なるほど」


 スマホを見ると、12時30分を回っていた。

 理奈は、なるべく早く帰る子なんだけど、どうしたんだろう。


 私が、浮かない顔で沈黙していると。


「心配か? ……そうだな、もし心配なら行ってもいいぞ」

「そうですね。蒼衣、私も少し不安なのよ。電話しても出てこないし」

「……だそうですよ、どうします?」


 どうするって?

 そんなの選択は1つしかないじゃない。

 しぶるのではなく、ここは実際見に行ったほうが得策かもしれない。


「なら親友の顔を見に行ってきますよ。……あぁ付き添いはいらないので」

「そうか……それじ……。あ、行っちまった」


 リーダーの言葉をさえぎるように、私は早々に基地を出た。

 疾走する最中画面を見ると、絵美からのメッセージ。


『理奈先輩の座標値を送っておきました。都心部D地区、オカイドキスーパー前』


 絵美から送られてきた座標値を参考に、指定された場所へと向かう。

 数キロを瞬く間と超過し、迅速に駆け抜け、高層ビルを上る。都市全体が見渡せる場所で位置をあらため確認すると専用機器を取り出す。


 小型の物体から頭部につけられるほどのスコープへと変形する。

 頭にそれを装着させ電源をオン。


「確認完了。マダラースコープ起動。こちらノヴァ2。ノヴァ6の元へ向かう」


 外部端末から絵美の受信を聞く。


『ノヴァ4確認しました。蒼衣さん、位置の情報は私が教えますので速やかに向かってください』

「お願いね」


 屋上から飛び降り最短ルートを確保しながら、もう1人の仲間が待つ場所へと向かうのだった。

 

「ノヴァ・オペレーション……スタート!」

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