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36.接点

「リチャードのお披露目ですか?」


「そろそろ社交界に顔を出しておいたほうがいいわ。でもリッパーもどきのこともあるでしょう?だから公爵邸でお茶会を開いて、ついでにリチャードのお披露目ができたらいいと思うの」


 いくら有力貴族の嫡子とはいえ、二歳でのお披露目はいささか早い。


 アリエッタでも分かることを熟練した貴婦人のアネットがわからないはずもなく、


(リチャードについての口さがない噂がきっとあるのね)


 アリエッタの不義の子が、エドワードの隠し子か。


 リチャードがそう思われるのも分からないわけではないが、アリエッタ(母親)としてやるこおは噂の否定だ。


 幸いなことにリチャードはウィンソーとヴァルモントの特徴をもっている。



「俺は反対ですよ。一桁の招待だって侍女や付き添いを含めると二十人を軽く超えます。警備に無理があります」


ウィンソー(うち)の茶会よ、うちが付き添いはダメと言えばみんな従うわ」


 傲慢なやり方だが、事実でもある。


「アリー、君はどうなんだ?俺は君には無理も我慢もして欲しくない」


 エドワードはアリエッタに優しく触れて、


「最近は夜もすぐに寝てしまうし、疲れているじゃないか」


 寝てしまう前のあれこれを思い出したアリエッタは顔を赤くしつつも、自分は結構長い時間だと思っていたことがエドワードには「すぐ」だと知って慄く。



「エドワード、あなたはもう少し自重しなさい」


 家のことは全て手中におさめているアネットはため息をつきながら息子に注意をし、


「アリエッタはもう少しエドワードにワガママを言いなさい。合わせる必要はないのよ、夫婦であってもイヤならイヤと言わなきゃ」


「はい……でも、あの、イヤではないのです。……ワガママでしたら、一つよろしいでしょうか」


 アリエッタの請う視線にエドワードは「もちろん」と頷く。


 アリエッタのお願いならなんでも、内容が難題でも数が膨大でも「絶対に叶える」とエドワードは気合をいれた。



「お茶会のとき、私をエスコートしていただけませんか?しければその場にエド様も一緒にいていただければ」


「もちろんだ、喜んで出席させてもらうよ」


「ありがとうございます。無理はしませんので、応援してくださいますか?」


(うちの息子はクマだと思っていたけれど、見ようによっては大型犬ね)


 ブンブンと首を大きく上下に振る息子の背後にブンブンと揺れる大きな尻尾が見えた気がしたアネットは、息子の操縦は頼りになる義娘に任せることにした。


 ***


「おじいしゃま、リチャードです。入ってもいいですか?」


 ノックして入ってきた孫の可愛さに、この光景を記録していなかったことを心底後悔しながらローランドは『おいで、おいで』と招き入れた。


「どうしたんだ?」

「だれも、あそんでくれないの」


 乳母のトーリは実家への帰省で数日休み。

 アリエッタはアネットと茶会を準備するに忙しく、エドワードも商会の仕事で家にいない。


 消去法で自分のところに来たらしいリチャードの髪をローランドはワシャワシャと撫でながら、この機にリチャードの遊び相手候補の上位に入ることを誓った。


「そうだな、ジイちゃんと一緒にお出かけするか」

「おでかけ……いいの?」


 リッパーの顛末に不可解な点があるため、アリエッタとリチャードは外出させず、他の家人も外出は必要最低限にさせている。


 リチャードに関してはその姿を一目見ようと新聞記者たちが探っているため、通りに面した庭に行くことも禁止されていた。


 そんな制限があってもウィンソー邸は二歳の少年にとって十分広かったが、『お出かけ』と聞いて嬉しそうなリチャードの姿に少なくてもストレスがあったのだとローランドは思った。


「今日は馬車から降りることはできないが、王都をグルッと馬車で周る冒険はどうだ?」


「する!」


 『冒険』は男の子の胸を熱くさせる魔法の言葉。

 自分とよく似たエメラルドの瞳をキラキラさせる孫の姿にローランドの胸がキュンッと締めつけられる。


「このお出かけは特別だぞ。ジイちゃんと一緒だからできるんだぞ」


「とくべつ、おじいしゃま、すごい」


 国を献上されてもここまでの喜びはないだろう。

 浮き足立ったローランドは目立たないように装飾の少ない馬車を用意し、護衛を手配する。



「……なんでお前が護衛なんだ?」


 玄関ホールにいた体格の良い三人の男のうちの一人、自分と同じエメラルドの瞳をもつ男をローランドは睨みつける。

 

「リチャードの初めてのドライブをひとり占めしようとしても、そうはいきませんよ」


「仕事はどうした?」

「その言葉、そのままお返しします」


 しれっと返したエドワードは、「パパ」と満面の笑みで抱っこをせがむリチャードを抱き上げる。


「パパもおでかけ?」

「おじい様がパパも連れて行ってくれたならな」


 父親の言葉にリチャードはローランドのほうをみる。


「おじいしゃま、パパもとくべつ」

「……そうだな」


 お願いされたら『否』とは言えない。

 ローランドは苦笑いをしてリチャードのお願いを受け入れたが、肩を落としたローランドに何かを感じたようで、


「おじいしゃま、だっこ」


 エドワードの腕の中なからローランドに向かって腕を伸ばした。


 そして用意された小柄な馬車は平均よりかなり大柄なローランドとエドワードが二人乗るには小さく、


「リチャード、今度はパパのほうにおいで」

「はい」


「リチャード、あの角を曲がったらまたジイちゃんの膝に乗るんだぞ」

「はい」


 リチャードの小さな体は常にどちらかの膝の上にあったのだった。



「あそこ、ママとたくさんいったよ」


 王都ドライブが予定の半分を過ぎた頃、小さな市場を目にしたリチャードが声をあげた。


 その市場はアリエッタたちが住んでいた家から遠くはないが、ここと家までの間にいくつも市場がある。


 特色のない一般的な市場としか思えないあの市場でアリエッタが買い物をしていた理由は?


「しんぷしゃまと、こどもと、あそんだ」


「神父と子ども、擁護院か」

「この辺りで擁護院といえば、例の教会の敷地内にあったな」


 エドワードとローランドは顔を見合わせる。


 例の手帳にあった被害者たちの中にアリエッタがない以上、アリエッタとリッパーには接点があるはずだと思っていた。


 しかし、リッパーの行動範囲は広く、交友関係は不明。一方でアリエッタは行動範囲はさほど広くないが、人気店で接客をしていたので「目をつけられる」機会がありすぎた。



「教会について調べてみます」

家族が風邪をひいてしまったので、数日更新をお休みします。

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