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34.

「アリエッタ、エリザベスたちモードレー男爵家の者たちの処罰なのだが……」


 エリザベスの名前にアリエッタは歪む顔を隠すために俯いたが、エドワードが気を使って言葉をとめたことに気づいて、一つ深呼吸をして顔をあげる。


「ありがとうございます、続けてください」


 エドワードは「大丈夫か」とアリエッタに訊ねたくなったが、仮に無理と言われても“何もなかったこと”にはできないため無駄なことを聞くのはやめた。


「モードレー男爵家の三名は『婚姻』という形で全員国外に追放となる」


 王族と祖先を同じくする公爵家に相手に良からぬことを企んだとなれば、その度合いにもよるが爵位返上させて国外追放が一般的。

 ちなみに王族相手ならば良くて本人のみ処刑、悪くて一族郎党打ち首である。


「ご温情、ありがとうございます」


 他国とはいえ貴族のまま嫁がせるというのは異例の措置だ。

 場合によってはウィンソー公爵家による私刑もありえただろうから、かなり抑えた罰になっていた。


「俺とアリエッタの“婚姻”については後ろめたいこともあるからな、下手に藪をつつかないように可能な限り速やかに出国してもらうことになる」


「エリザベスとアデル伯母はどこに?」

「二人ともテクノヴァルに嫁ぐ。すまないが『誰に』は教えることができないのだが」


「いえ、テクノヴァルと聞けただけでも……安心できたので」


 テクノヴァルの国力はアルデニア王国には到底及ばないが、科学技術が進歩しているため小さい国の割に国力は高い。

 多少の不便はあるかもしれないが、北方の極寒国のように“生きていくのも厳しい”ということはなさそうだ。



 一週間後、テクノヴァルから来た迎えの馬車に乗ってエリザベスたちは異国に去った。


 会っても互いに利はないと思ったアリエッタは二階の窓から静かに見送ろうと思ったが、屋敷から連れ出されるエリザベスがエドワードの名を呼ぶ姿に窓辺から離れた。



 ***



「リッパーが死んだ?しかも理由は自死?」


 父ローランドに書斎に呼ばれたエドワードは、ローランドから黙って渡された警ら隊の報告書に目を通して驚いた。


 数日前、スラムの教会の裏で男が毒を飲んで死んでいるところを発見した。

 警ら隊が調べたところ、死体の男が下町を騒がす切り裂き魔(リッパー)だという。


「死体のそばにあった手帳には、リッパーに殺されたとされる被害者に関する情報が書かれていた。被害者の生活習慣、一人になるポイント、犯行日、そして殺したときの様子……新聞に書かれていない、リッパーしか知らないことも書かれていた」


 手帳の中には『間違い』と書かれて線で消された女性が何人もおり、警ら隊は手帳を参考に彼女たちを探し出して心あたりを聞いて回った。

 その結果、何人もが死体の男の特徴と一致した男をみかけたことがあると証言した。


「手帳にアリエッタのことはないようですね」

「記録のないリッパーの被害者は何人もいるからアリエッタの記録がないことはさほど不思議ではない……のだが」


 煮え切らないローランドの言葉に、手帳の写しを読んでいたエドワードは顔をあげる。


「何か不可解な点が?」

「計画的犯行ではないなら衝動的なものとなるが……手帳に記された記録をみる限り理知的で冷静な人物だと推察できる。そんな奴が衝動で犯行を行うとは思えなくてな」


 父親の勘のよさをよく知っているエドワードは再び報告書に目を通す。


 被害者の年齢は二十代が最も多く、ときおり三十代が目立つ。

 被害者の髪の色や瞳の色に共通点はない。


 犯行時間が夜ということで被害者は娼婦がほとんどだが、娼婦以外の被害者もいる。


(唯一の共通点が「一人のところを襲われた」だが、殺人が目的ならそれは……)


 カチッとエドワードの頭の中で音がした。


「リッパーの目的は『殺すこと』なんですよ。リッパーにとって殺人は芸術のようなものだから被害者も選ぶ。リッパーは目をつけた女性が自分の殺人(題材)に相応しいか調査し、『間違い』ならば殺さない」


 リッパーにとって全ての殺人が『死』によって完成する作品となると、


「変だな」

「はい、変です」


 エドワードは報告書を机の上に置き、最後のページを指す。


「ここにリッパー自身の死が書かれていません」

「死を賛美するリッパーにとって、自分が体験する死は最高傑作ともいえる作品のはずだからな。自死するならば、場所も時間もそれはもう綿密な計画をたてたはずだ」


「しかも自死するなら刃物を使うでしょう。いままでの被害者は全て刃物で殺されていますから、殺人を作品とするなら自殺でも手段を変えるとは思えません」


「ああ、男はリッパーだが何者かに殺された可能性が高い」


 エドワードは頷く。


「これだけの数の女性を殺したのです、リッパーに恨みを持つ者も多いでしょう」

「そうなるともう一つ可能性がある。手帳に記録のない女性たちを殺したのはリッパーではないのかもしれない」


「共犯か、模倣犯か」


「どちらにせよ、こちらがやることは一つだ。しばらくはアリエッタとリチャードを屋敷から出さないようにするしかないな」

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