そして三度目の恋
BanGalは元々アニメ作品なので、知名度自体はそれなりにある方だと思っている。
ただ、リズムゲーム自体は他にもいくつかあって、もっと人気のあるものやアーティスト向けの作品もあったハズだ。
それなのにまさか、こんなガチのアーティスト達までプレイしているなんて……
「いや~、あの日はマジでビックリしたよな~! ガチのお嬢様があんなオフ会にいるとか!」
「もうGinjiさん! 私お嬢様じゃないって言ってるじゃないですか!」
「いやいや、こればかりは私もGinjiに同意するよ」
「同じく」
Ginjiさんの発言に他の二人もうんうんと頷いている。
僕としても、リズムゲームのオフ会に神宮司さんのような女の子が参加していたら絶対にビックリする自信がある。
「って、神宮司さんってお嬢様じゃなかったの!?」
「な、鳴神君まで! 私、普通の家の娘だからね!?」
そうだったのか……
神宮司という苗字はなんとなく名家っぽいイメージがあるので、絶対にお嬢様だと思っていた。
多分だけど、他のクラスメートも絶対誤解していると思う。だって、するなという方が無理だし。
「まあ、そんなワケで浮きまくってたSaclaに親切に声をかけたのが俺ってワケ!」
「で、その明らかにナンパ目的のGinjiからSaclaを守るために近付いたのが、私とOdoというワケだよ」
「Rinyaさん! だからそれ勘違いだってば! 俺は本当に純粋な気持ちで――」
ああ、何だか和気藹々とした雰囲気でいいなぁ……
これは僕の完全な偏見なんだけど、ロックバンドのメンバーってあまり仲の良いイメージがなかったので、少しホッとする。
「まあ、そんなワケで四人が意気投合した結果、このヘヴィメタルバンド『NightmareCircular』が誕生したんだよ」
「成程……ってあれ? ヘヴィメタル……バンド? ハードロックじゃ、ないんですか?」
神宮司さんはハードロック推しっぽかったし、実際に曲を聴いた感想としてもやっぱりハードロックというイメージだったのだけど、違うのだろうか?
「あれ? Saclaから聞いてなかったのかい?」
「全く、何も……。というか、バンドをやってること自体さっき初めて知りましたよ……」
「Sacla……」
「フフッ♪ サプライズってやつよ! 驚いたでしょ?」
確かに驚いたけど、何も言わずにいなくなって凄く不安だったので、せめて一声かけるなり配慮して欲しかった……
「まったく……。え~っと、まあ一応だけど僕達はヘヴィメタルバンドを名乗っているよ。ただ、これって名乗ったもん勝ちみたいなところがあってね……」
「名乗ったもん勝ち、ですか?」
「うん。鳴神君は実際私達の演奏を聴いてみて、ハードロックだと思っただろう? じゃあ、メタルとの違いは何か説明できるかい?」
「それは……」
違いも何も、僕は聴いた瞬間からハードロックだと認識していたし、逆に違うと言われても正直困ってしまう。
「気にするな鳴神少年! 俺にもわからねぇからな!」
「いや、Ginjiは流石にわかっておくべきだろう……」
比較的無口なOdoさんが、思わずといった感じにGinjiさんにツッコミを入れる。
「鳴神君、Ginjiのことはともかくとして、要するに普通の人にはハードロックとヘヴィメタルの違いはわからないレベルだってことだよ。実際、一緒のものとして扱われることも多いんだ。ある意味、永遠の命題だとも言われている」
「そう、なんですか……」
「でも鳴神君、一応補足しておくけど、ハードロックとヘヴィメタルには明確に違いがあるわ。聴く人が聴けばわかるレベルでね。ただ、これも人によって意見が違ったりするから、結局は曖昧なことが多いんだけど……」
結局どっちなんだよとツッコミたいところだったけど、まあそれくらい微妙な判定ということなのだろう。
「成程、だから名乗ったもん勝ちなのですか。でも、それなら何故ハードロックではなくヘヴィメタルの方を名乗っているんですか?」
「大きなこだわりはないんだけど、イメージの問題が一番大きいかな」
「イメージ、ですか」
「そうなんだよ鳴神少年! ぶっちゃけた話、ロックバンドだってバラードはあるし、曲のバリエーションはそれなりに豊富なワケよ? だからまあ、メタル寄りの曲もあればロック寄りの曲もあるし、観客もそこは割とスルー案件だったりするんだわ」
言われてみれば、確かにどのロックバンドもバラードなどゆったりとした曲をリリースしているイメージはある。
「まあ、もちろん明らかに方向性が違う曲ばっかだと問題なんだが、さっきRinyaさんが言った通り一般人にはロックとメタルの違いなんかわからねぇから、そのバンドが名乗る通りに観客は受け取るワケだ。じゃあ、何故俺らはメタルを名乗るのか。それはぶっちゃけ、硬派なイメージがあるからだ」
「っ! た、確かに! そう言われるとそんな気がします!」
なんだかよくわからないけど、言われてみるとそんなイメージがある。
何故だろうか?
「まあGinjiの言った通りなんだけど、一応補足すると二つ理由があって、まず歴史的にロックミュージシャンには酒と女のイメージが強いというのがある」
「ああ、確かにそんなイメージはありますね……」
そもそもミュージシャン自体にそんなイメージが強いが、ロックグループは度々女性関係でニュースになっていたので、悪い印象を持っている人も多そうな気がする。
「それで二つ目が、言葉自体のイメージだ。メタルって、ロックよりも硬そうだろ?」
「え、そんな理由ですか?」
「語源については諸説あるから割愛するけど、メタルは元々ロックから派生したジャンルなんだよ。で、ロックは岩、ハードロックは硬い岩、そしてメタルは金属。より硬くなっているよね?」
「確かに……」
漠然としたイメージが、Rinyaさんの説明のお陰でしっかり言語化された気がする。
単純な僕は、それだけでなんとなくカッコいいというイメージを抱いてしまった。
「鳴神君がさっき好きって言ってた「Grimtooth」なんか、完全にメタル寄りの曲だよ! だから絶対素質あると思う! あ、そうだ、折角BanGalプレイヤーが五人揃ったんだし、マルチプレイしない!?」
「おお、いいね! じゃあ折角だし「Grimtooth」でもやってみようか! どうだい鳴神君?」
「ぼ、僕は構いませんけど……」
「よし、決まりだ」
BanGalは、最大五人でマルチプレイが可能なリズムゲームである。
登場するバンドはボーカル、ギター、ベース、キーボード、ドラムのメンバーが基本なので、それを意識して作られたようだ。
ただ、演奏自体は別に各パートで割り振られているワケではなく、それぞれのスコアが合算される仕組みになっている。
「「Grimtooth」か~、アレ俺も好きだけど、メッチャムズイんだよな~」
「私もギリギリだけど、まあマルチならRinyaさんとOdoさんがなんとかしてくれると信じてる!」
「おいおい、あまり期待はしないでくれよ? Odoはともかく、私はエンジョイ勢なんだ」
ということは、この中で一番上手いのはOdoさんなのかな?
もしかしたらランキングでも見たことがある人だったり……
ちょっとワクワクしてきたかも。
「ほぅ、顔つきが変わったね。鳴神君、さてはかなり自信があるな?」
「え、えっと、まあ、それなりには……」
「じゃあ、最高難易度でいきましょうか!」
「マ、マジで? 俺死ぬよ?」
まさか、こんなところでBanGalのマルチプレイができるとは思わなかった。
僕はそもそもあまりフレンド登録をしていないので、この機に4人もフレンドが増えてホクホクしている。
「プレイヤー名『The Time』……!? ほ、本物か?」
「Odoが知っているということは、やはりランカーか! これは期待できる!」
全員の接続が完了し、曲が開始される。
お店の中のため音は出せないが、全員ちゃんとイヤホンを着用している辺りしっかりしている。
Rinyaさんはエンジョイ勢だと言っていたが、全員この曲をプレイできるレベルであるのなら、間違いなくガチ勢と言っていいだろう。
「キ、キッツイ!」
Ginjiさんが悲鳴じみた声を上げる。
曲は既にサビに入る直前。
ここはこの曲の最大の難所であるギターソロのため、他の三人も少なからずミスをしていた。
しかし僕は――
「す、すごい! まさか、パーフェクト!?」
ギターソロを乗り切った時点で、神宮司さんが興奮した様子で叫ぶ。
流石ボーカルだけあって声の通りが良いが、お店的には迷惑なのでもう少し声を抑えて欲しかった。
サビに突入し、曲はいよいよ佳境という状況。
僕は未だミスせず、パーフェクトを維持している。
もう何千回とプレイしている曲だが、そう毎回パーフェクトを取れるワケではないので、今日はかなり調子が良い方だと思う。
そして、最後の同時押しを全員でターン! と叩き、無事曲を完走することができた。
「お、お疲れさん……。いや、マジで死ぬかと思ったわ。っていうか鳴神様がいなきゃ絶対死んでたって……」
「さ、様付け!?」
「いや本当に凄かったよ。神様と言われても納得するレベルだ」
「すごいすごい! 本当に鳴神君すごい! え? 神様? BanGal神!?」
「か、神ぃ!? 神宮司さん、何を言って――」
「謙遜はしない方がいいな、同士よ。全国ランキング6位は誇っていい偉業だ」
「「「全国ランキング6位ぃっ!?」」」
フレンド登録した際、Odoさんは僕のプレイヤー名を知っているようだった。
まさか、ランキングまで覚えられているとは思わなかったけど……
「うわ、本当だ……、『The Time』、全国ランキング6位だって……。本物の神じゃない……」
「じ、神宮司さん! 神とか、やめてよ……。トップ5とかならまだしも、僕なんて全然だって……」
「BanGalの登録者人数は2000万人を超えている。そのうちアクティブユーザーが半分以下だったとしても、全国10位以内に入っているのであれば神と言っても差し支えないだろう。ちなみに私は8000位だ」
「私は15000位!」
「俺は……、一応2万台ってことで……」
「我は84位だ」
おお、確かにOdoさんはかなりの高ランク……ってワレェ!?
寡黙で渋いオジサンだと持っていたのに、物凄く癖の強い一人称で思わずギョッとしてしまう。
「まあ要するに、君に謙遜されたら我々は立場がないってことだよ。……ということで、拝んでもいいかな?」
「拝む!? ってRinyaさん、絶対からかってますよね!?」
「ハハハ、バレたか!」
最初はしっかりとした大人ってイメージのあったRinyaさんだが、会話をしていて意外と茶目っ気のある人だということは、コミュ力の低い僕でも気づいている。
この空気を和ませる気遣いも含めて、やはりこの人は仕事のできる人なんだろうなぁと思う
「まあ冗談は置いておいて、ここからは真剣な話なんだが……、鳴神君、ドラムをやってみないか?」
「…………え、ええぇぇぇぇっ!? ド、ドラム!? 何でですかぁ!?」
「単純な話だよ。君は間違いなく素晴らしいリズム感を持っている。そして、ドラムはそのリズム感がとても重要な楽器なんだ。君にピッタリの楽器だと思うけど、どうだい?」
どう、と言われても、僕には無理という単語しか浮かんでこない。
改めて、Rinyaさんのドラムを思い出してみる。
目に見えないほどのスティック捌き、激しくて躍動感のある動き……、うん、絶対無理だ。
「僕には、絶対無理ですよ……。見ての通り、僕って体力ないですし、あんな激しい動きはとても……」
恐らく僕じゃ、仮に叩けたとしても一分ももたず力尽きることだろう。
まあ、そもそもあんな速さで腕が動かないんだけど……
「そう思うのも無理はないと思うけど、それは誤解だよ。ドラムって見た目は凄く疲れそうに見えるけど、実はちゃんと正しく叩けばそこまで疲れるものじゃないんだ」
「え、そう、なんですか?」
「正しく叩けばね。もちろん、それは僕がしっかり教えるから、是非ドラムを――」
「おいおいRinyaさん、嘘はダメだぜ! 確かに正確に叩けば疲れにくいのは間違いねぇんだろうけど、ある程度体力がなきゃ絶対キツイからな? 特にヘヴィメタルのドラムなんてのは、ドラムプレイヤーの中でも嫌われるくらいシンドイって話だぜ~」
「チッ、余計なことを」
今、Rinyaさんキャラ変わらなかった……?
まあ、それは見なかったことにするとしても、やはりドラムは体力がいるようだ。
僕のようなヒョロガリがやれる楽器とは、とてもじゃないが思えない。
「ということで同士よ、ベースをやらないか?」
「ええぇぇっ!?」
Rinyaさんの勧誘の手が緩んだと思いきや、今度はOdoさんから勧誘が始まる。
「ベースもドラム同様、リズム感が重要となる楽器だ。同士は手も器用そうだし、ベースは天職だと思うぞ」
「そ、そんなことはないんじゃ……。そもそも、リズムゲームがそれなりにできたとして、それが実際の楽器演奏に活かせたりするとは思えないんですけど……」
リズムゲームと名前が付いてはいるが、所詮はゲームなので、その技術が実際の楽器演奏に役立つと言われても正直ピンとこない。
「まあイメージ的にはそう思うかもしれないけど、結論としては活かせると言っておこう」
「え……? 冗談とかでは、なく?」
「ああ、ゲームと演奏とでは感覚は異なるが、リズム感自体はしっかりと養えるし、活かすことが可能だ。実際に、ゲームでリズム感を鍛える奴も多い。我もそのタイプだ」
実体験からそう言われると、信じてもいいのかもという気持ちになってくる。
僕だって自分の数少ない特技が何かに活かせるなら、少しはやってみたい気持ちにくらいなるからだ。
でも……
「おっと、盛り上がっていたらもうこんな時間だ。補導されたら大変だし、そろそろ解散としようか」
そう言われて時間を確認すると、もう22時近くになっていた。
最初は全く気が進まなかったのに、本当にあっという間に時間が過ぎてしまった。
正直、名残惜しくさえある……
趣味のあう人達との食事が、こんなにも楽しいものだなんて……、今まで想像もしたことがなかった。
「それじゃあ鳴神君、さっきの話は前向きに検討しておいてくれ」
「いや、それは……」
「誰だって最初は初心者なんだし、実際やってみないとわからないこともあると思うよ? じゃあね」
Rinyaさん達は僕らとは反対方向ということで、ここで別れることになった。
いくら二人いるといっても、学生二人を今から帰すのは危ないからとタクシー代まで出してくれた。
本当にしっかりとした大人だなぁと、改めて尊敬の念を抱く。
「あ~、楽しかった! こんなことなら、もっと早く声をかければ良かったなぁ~」
「……やっぱり、僕が見ていたの、気づいていたんだね」
「まあ、私も一応女子だから、視線には敏感なんだよ?」
「はは……」
罪悪感と自己嫌悪で死にたい気持ちになる。
もちろん、そんな度胸はないので気持ちだけだけど……
「私ね、ライブの日は大体図書館で暇つぶししてるの。でも、これからは別のことをして楽しめるな~って、今から楽しみ♪」
無邪気そうな笑顔に、心臓が思い出したかのように鼓動を速める。
それはどういう意味? と尋ねることもできず、僕は作り笑いを浮かべるしかできなかった。
◇
あの日以降、僕は度々放課後にライブに誘われるようになった。
誘われるのは基本的に月曜日と金曜日で、この曜日は無料でライブが見られるのが理由だそうだ。
有料の日にもライブはやっているようだが、神宮司さんからチケットを購入して欲しいと頼まれたことは一度もない。
僕の知識だとチケットノルマみたいなのがあるんじゃと思ったけど、そういうのは今はないのだそうだ。
僕としてはお金を出してでも見る価値があるとは思っているため、チケット購入も考えたのだけど、神宮司さんが誘ってこないのが引っかかって行動に移せずにいた。
もしかしたら、有料の日は真のファンが来るべきだと思っており、僕はそうは思われていないんじゃ……と考えてしまうからだ。
正直自分でもネガティブ過ぎると思うが、僕は元々そういう人間なので悪いことばかり想像してしまう。
「ねぇ神宮司さん、ちょっといい?」
そんなことを考えながら寝たふりをしていると、珍しく神宮司さんに声をかける二人組の女子がいた。
二人とも、若干ケバさを感じさせる白ギャル……、一体何の用だろうか?
神宮司さんの席は僕の席の右斜め前で、会話くらいなら聞こえる距離にあるため聞き耳を立てる。
僕も神宮司さんも基本的にクラスメートとはほぼ会話をしないので、こんな状況は滅多に発生しない。
僕は影が薄いことが原因だが、神宮司さんの場合はその神々しいほどの『大和撫子』オーラのせいで、クラスの陽キャですら中々声をかけづらいのである。
「はい?」
「あのさぁ、私、下南沢高校に友達がいるんだけど、こんな写真が回ってきたんだよね~」
その声色に不穏なものを感じた僕は、顔を少し上げて女子が神宮司さんに見せつけているスマホの画面を盗み見る。
そこに写っていたのは、神宮司さんと、スーツ姿の男性だった。
「これってさぁ? マズくない? どう見てもパパ活――」
「違う!」
そう叫んでから、自分でも驚く。
僕は無意識に立ち上がり、その女子の言葉を否定していた。
「は、はぁ? 何アンタ?」
女子の顔には、コイツ誰だっけ? といった疑問が浮かんでいる。
恐らくだが、僕の名前も知らないのだろう。
ただ、僕もこの陽キャ女子の名前を知らないので、おあいこと言えるかもしれない。
「そ、その人は、神宮司さんの友達で、そういう人じゃ、ない!」
顔は写っていないが、アレは間違いなくRinyaさんだ。
恐らくだけど、誤解を与えやすいよう敢えて顔を写していないのだと思う。
Rinyaさんは眼鏡をかけたイケメンなので、印象操作するのには都合が悪かったのだろう。
この写真を撮った友人の意図なのか、この女子の意図なのかはわからないが、いずれにしても悪意のある切り抜きだ。
「いや、アンタがそれをなんで知ってるワケ? カッコつけて神宮司さんのこと庇おうとしてるんだろうけど、アンタみたいなのが否定してもなんの説得力もないから」
「プッ、言えてる~。コイツ、絶対神宮司さんと関わりなんてないっしょ!」
確かに、僕のような陰キャでオタクな男子が、神宮司さんの何を知っているのだと思われても仕方のないことだ。
実際、あんなことがなければ、僕が神宮司さんのような女の子と関わることは一生なかっただろう。
だから、今の僕達の関係は奇跡と言ってもいい。
自分でもそう思うのだから、他の人達に「妄言を吐いているキモ男」だと思われたとしても、仕方がないことだ。
でも、僕は、僕は……
「ぼ、僕の言葉が、信じられないのも、無理はないと思う……。僕は陰キャで、オタクだし、神宮司さんと関わりがあるなんて言っても、笑われるだけって、わかってた……」
「え、何コイツ、キモイんだけど。もしかして、妄想の中では神宮司さんと恋人だとか思っちゃってる系? キモ!」
彼女達だけでなく、周囲のクラスメートからも失笑されているように感じる。
これは僕の被害妄想かもしれないけど、実際にどん引いている女子は確実にいるハズだ。
……しかし、そんなことは僕にとって些細なことだ。
今更クラスメートから嫌われたところで、元々空気のような存在だったのだから気にすることもない。
そんなことよりも僕は、大切な人が誹謗されることの方が、我慢ならなかった。
「……僕のことは、何と思ってもくれても、いいよ。僕の言ったことが、嘘だと思われるのも、まあ仕方ないと、思う。……でも、それでも僕は、断言するよ。綺麗で、そしてカッコイイ神宮司さんは、そんなこと絶対にしない!!!」
こんな大声を出したのは、もしかしたら人生で初めてかもしれない。
目がチカチカして、頭がクラクラする。
その甲斐もあってか、女子二人は一瞬言葉を失っていた。
しかし、それは本当に一瞬のことで、すぐに反論を口にする。
「は、はぁ? ワケわかんないし。綺麗はともかくカッコイイとか、アンタの頭の中で神宮司さんは一体どうなって――」
その反論の最中、急に立ち上がった神宮司さんに驚いて、陽キャ女子は再び言葉を失う。
神宮司さんは凛々しい笑顔を浮かべながら僕に近づいてき、そのまま抱きついてきた。
「~~~~~~~っ!? じ、神宮司さん!?」
抱きつき、頭を交差させ、神宮司さんが耳元で呟く。
「鳴神君、最高にロックだね♪」
「っ!」
脳に直接響くような甘い声にが、僕の全身にゾワゾワとした快感を走らせる。
神宮司さんはその直後に一歩離れ、僕の手を掴んで走り出す。
「行こ♪ 鳴神君♪」
「え!? ちょ、ちょっと待って! その前に誤解を解かなきゃ!」
「いいじゃん、そんなの!」
手を引く神宮司さんは力強く、僕はそのまま廊下の外まで引っ張り出されてしまった。
神宮司さんはそこで一度立ち止まり、振り向いてから最高の笑顔を浮かべる。
「私、今最高に気分がいいの! 私をこんな気分にさせたんだから、責任……取ってよね?」
その笑顔は美しく、そしてカッコよくて、とても無邪気で……
僕の中に、これまでとは違った柔らかな衝撃が走る。
――ああ、僕はまたしても、神宮司さんに恋をしてしまったようだ……
神宮司さんは、再び僕の手を掴んで走り出す。
そして走りながら――
「鳴神君、やっぱり楽器やろうよ! それで私と、バンド組もう!」
ちょっと前の僕であれば、間違いなく「無理だよ!」と答えていただろう。
でも今は、彼女と同じステージに立ちたいという気持ちが強く芽生えていた。
「……うん、僕、やってみるよ」
「そうこなくっちゃ!」
今の僕は、観客としてただ彼女の応援をすることしかできない立場だ。
でも、楽器が演奏できるようになり、隣に立つことができるようになれば、対等とな立場にだってなれるハズ。
(……よし! やってやるぞ!)
――この春、僕は同じ子に、三度の恋をした。
その気持ちはまだ伝えられていないけど、いつか対等になれたときには、きっと……
~~終~~
これにて、この物語は完結となります。
鳴神君にとってこの恋は始まったばかりであり、この先には音楽とどう関わっていくのかという未来が続いていますので、長編の序章のようなものとなっています。
実際、連載の構想はあったものの、何せハードロックやメタルというニッチなジャンルにスポットを当てたお話となりますので、ニーズが……
それでも抑えられない気持ちが、こんな作品を書かせたのだと思います。
いつか再び、ハードロックやヘヴィメタルが注目される時代が来るといいなぁと期待しながら、今回は筆をおきます。
この度は、お読みいただきありがとうございました!
ご評価やブクマいただけますと泣いて喜びます!
そして、メタルやロック好きが増えればいいなと思います!