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フライト

さて、いよいよドラゴンさんが飛びます。

なかなか都合のいい設定で、どうやら乗り心地はそこそこ良さそうです。

ドラゴンさんの気分次第ですが。

5.フライト



 日の出と共に軽い朝食をして、俺とジェダイトさん、そしてリンはまた沼にやってきた。大き目の寸胴鍋と飛行服を抱えて歩いてきて、朝食も軽めにしたからやや腹が減った。ジェダイトさんとリンが朝食を控えろ、控えろと言うし。まあ、これからどんな竜酔いするかわからないからな。


 俺は腕に嵌めたデジタル腕時計を見た。日時計で合わせたのだが、若干の誤差があるようで、目覚ましには使えなかった。デジタル時計は水晶発振で、自転とは微小のズレは発生するのだが、それどころではなく一日一時間程こちらの時間のほうが長いようだ。自転速度が少し遅い世界なのかな?自転速度は微妙に遅くなっているって話を聴いた気もするから、実はこの世界は未来の地球なのかもしれないな。月も小さく感じたし。いや、SF映画の見過ぎか。


 で、腕時計。街から沼までは1時間程で、俺の歩く速度から考えると5kmくらいの距離だと思う。こっちの距離は徒歩の時間でしか表してないから、街から沼までの距離を5kmとしてジェダイトさんの速度の目安としようと考えたのだ。安物だけど1/100秒まで計れるストップウォッチ機能がある時計なので、自転とか違っても目安には使えるだろう。



「早く着ろよ」


「はいはい、ちょっと待ってて下さい」


 ジェダイトさんが急かす中、いつものデジタル迷彩ツナギの上から暖かそうな紺色の飛行服を着る。毛皮と木綿のような素材の服には大き目の胸ポケットと腰にポケットがあり、腰の方は上からは普通のポケット、横からはハンドウォーマーになる穴がついていた。スボンも腰と太ももとふくらはぎの横にポケットがあり、上着の内側にも大きく深いポケットがあった。


 リンに聞くと外側のポケットは魔石であたたまるカイロを入れるもので、内ポケットは酒を入れた容器を入れるものらしい。もちろん今日の俺にはカイロも酒もない。寒い日になりそうだ。俺は飛行服の上からフルハーネス安全帯を装着した。工具箱から持ってきた安全眼鏡と軍手をつけた。上空では軍手じゃ寒そうだが手袋は買ってないのでリンにミトンのような形の茶色の鍋掴みを借りた。二枚セットの奴で良かった。



「チェンジ、ジェダイトドラゴン!!」


 またも宙に浮いたジェダイトさんが魔法少女アニメのようなポーズをとって変身する。アニメ化したらバンク使いまわしだなーなどと思っていると、爆炎の中から透明感のある緑色をした超巨大ドラゴンが目の前に現れた。


「掌に乗れ」


 ジェダイトドラゴン化したジェダイトさんからテレパシーが来たので地面近くに降ろされた掌に乗ると、ある程度腰を曲げたジェダイトさんの肩から頸椎らしきあたりに降ろされた。ジェダイトさんの話では頸椎の後ろにちょうど座りのいい場所があると言うのだ。落ちたら拾うからというジェダイトさんの話だけど、落ちたら絶対に死ぬ気がする。硬い鱗というかトゲをつかんで登って行くと、なんとなく人が座れるような場所があった。


「吾輩たちを作った創生主が、人が乗る為に用意したのかもなぁ。そこの輪っかにフックをつけろ」


 座った前のトゲに手で掴むのに具合のいい直径30cmくらいの鉄の輪がふたつ並んでついていた。トゲを両足で挟むようにして鉄輪を掴むと良さそうだ。足の位置にも小さなトゲがあり、背中はやや平べったいトゲがある。確かに人が乗るようにデザインされた感じもする。


「輪っかは昔、吾輩に乗りやすいようにギルドの奴らが付けたのじゃ。エフドラでエルフや人が乗るようになったからな」


「え、人が乗るの?」


「あ、まだ知らなかったか。エフドラには背に乗った人間を壊さないように飛ぶルールもあるからな」


「は、聞いてないですよ、それで音の速さなんか出したからには……」


「結界を張ってやるが……衝撃波とかいうものの対策は考えないとならぬなぁ」


「ま、前に乗っていた人はどうしたんですか」


「……吾輩を捨ててエメラルドの奴に乗るため、ニュバルの街に行きおったわ、アグレスめ……」


 テレパシーなのに、いや、テレパシーだから怒りと悲しみが伝わるのか、どうもこの話はジェダイトさんのトラウマのようである。


「そんなの許されるのですか?」


「吾輩としては許されるものではないがな、コンビを組む物が他の街に行くのはルール上許されているのじゃ。エフドラのレベルを上げる為とかで。なので、街の力次第ではなぁ……」


「でも乗る人やエルフはただ運ばれるだけでは?」


「エフドラは吾輩たちも全開で動く。速度を上げるのに集中する。だから道しるべとして、安全確認するものとして、その時々の飛び方を指示する物として必要なのだ」


 ああ、やっぱりF1というよりもラリーで、ナビゲーターが必要なのだな。でも俺なんかで役に立つのか?


「なら、俺は指導で乗るのは別の……」


「音の速さで飛ぶ時にはシュータしか役に立たぬだろう。そしてお前は感覚のステータスは人並み以上にある。状況次第で吾輩の目となり耳となってもらう状況もあるかもしれぬ。適正はあるのじゃ」


 そういえばクオリアさんが全ての感覚が良いとか言っていたな。まあ、元々視力と聴覚は良いほうだったけど。



 ふたつの鉄の輪にフルハーネス安全帯のフックを別々に掛けた。鉄の輪を握っても邪魔にはならない感じだが、別のところに掛けるのも考えておこう。軍手の上から鍋掴みもつけた。


「では良いな、軽く飛ぶぞ」


「滅茶苦茶怖いんですけど」


「そんな紐が無くともリンなんか喜んで乗っておるぞ」


 どうやらリンはこのドラゴンの背に乗って飛んだコトがあるらしい。ジェダイトさんの首元から見ると、リンは料理に取り掛かっており、沼の水を鍋で汲んでいた。


「沼の水って魔力入りですよね、あれって飲んで大丈夫なんですか?」


「たわけ、吾輩の沼の水は竜神の水と言ってギルドで売るほどの水じゃ。水ながら魔力をもつものには回復の力もある。シュータやリンじゃなければタダでは飲ませないわ」


「でも、ジェダイトさんの汗とか垢とか排……」


「こ、このど変態ドラゴンマニアめ!神の水が汚れるか!!」


 そういうとジェダイトさんは一気に羽ばたいて飛んだ。どうやらとても怒っているようだ。五回か六回羽ばたくと羽を止めても高速で上昇した。止めた羽は心持ち後退翼のように可変した感じもある。その羽に風の魔法を当てて高速で上昇……



「……さ、寒い……ん?」


「起きたか、貧弱変態ドラゴンマニアめ。あの程度の上昇で気を無くすとは情けない。まあ、手抜きはしなかったからしょうがないが。ちょいと結界も弱めにしたしな、変態への御仕置じゃが。吾輩の修行と共にシュータの修行もハードにせんといかんな」


 変態への御仕置って……ジェダイトさんの首越しに下を見ると、沼というか街がミニチュアのようになっていた。高度は三千?いや五千メートル以上あるのではないか?結界のおかげで息も苦しくないし、高山病のような頭痛もしていないが、ジェタイトさんに触れている背や足からは冷気が伝わってくる。


 ジェダイトさんはグライダーのように滑空していた。飛行機のような揚力を発生する形の羽じゃないから風の魔法で羽にあたる空気の量と方向を調整しているのだろう。この方法で速度を上げて行くようだ。


「まだ飛べる高さの半分程度だが、エフドラではこれより高く飛ぶコトは少ないからな。寒さはどうじゃ」


「うーん、まあこれくらいなら体験したコトはあるから、少々なら大丈夫だと思います」


 俺のいた基地の冬の一番寒い日のレーダー点検と同じぐらいだから-10~15℃くらいだろうか。飛行服のおかげで耐えられているが、接触面はもっと防寒して、魔石カイロとかいうのも欲しいな。あと厚手の靴下と下着……


「本番では一日三時間ほど飛ぶからな。寒さに強いのなら大丈夫だろう」


 いやいや三時間って、途中で一時間くらいの休憩がないと凍えるんじゃないか?


「では降りるぞ」


 そういうとジェダイトさんは翼を器用に畳んで自由落下する。速度はあるけどジェットコースターで大事なトコに違和感が出る、いわゆる「たまヒュン」はあまり感じない。結界の中では重力制御のようなものも働いているのだろう。でも視覚と移動のバランスが違っていて、それはそれで気持ち悪い。そりゃ朝飯はほどほどが一番だ。



 高度1000mくらいでジェダイトさんに沼から街まで全力で飛んでもらう。なかなか怖いが、体は寒いだけで風の抵抗もGもほぼない。余計に感覚と速度の差で気持ち悪さが倍増したけど。街の入り口に看板があるのだけど、沼からそこまでの時間は28秒。工具箱の中の関数電卓を持ってくれば良かったと思いつつ、一生懸命暗算すると俺の世界換算では時速で640km/hくらいの速さか。思っていたよりは速いが、音速には程遠い感じもする。自衛隊の哨戒機P-3Cくらいかなぁ。


 そういや音速は自転は関係ないけど、気圧と温度では変わるのか。とりあえず1,225km/hと思っておいて、あとは出たトコ勝負か。 そういや普通に息していたな、俺。



「どうかのう?」


「今で音の速さの半分ちょいぐらいですね。俺としては十分速いですが、これでも勝てないんですか?」


「レースの時までしっかり調整すれば2割くらいは速く飛べると思うのじゃが、これで半分とは厳しいのう……」


 いったい他の竜たちはどんな方法で飛ぶのだろう……と思ったが、ジェットエンジンの魔法による具現化が出来れば勝ち目はあるハズだ。それにしても俺も色々と頑張らないとならない。高度を落としても冷えたジェダイトさんの鱗は簡単には暖まらないのだ。



 とりあえずジェタイトさんに着陸してもらう。沼近くまで滑空し、羽を広げてエアブレーキのように速度を落とし、そのまま体長100mとは思えないほどふわりと着陸した。俺はフルハーネス安全帯のフックを外して、トゲをゆっくりと降りてジェダイトさんの掌に乗った。

ジェダイトさんは俺を手から降ろすと一瞬でフッと人型の神様の、美少女の姿に戻った。戻る時の変身バンクはないわけね。どの番組もそうだったかも。



「暖まるものって話だったので牛汁を作りました」


 リンが寸胴鍋からよそったのは豚汁の牛肉バージョンのものだった。この街は昔、オークという豚の魔物の出現が多かったために豚が不人気で、牛のほうが需要あり、酪農はほぼ牛なのだそうだ。豚も美味しいけどなぁ……ヘビ系肉のほうが豚や猪よりも売れるらしい。豚好きの街もあるらしいのだが、豚食いはここではモテないとリンが言っていた。


 味噌は作っているらしく、どこか懐かしい味がしてとても美味しかった。生姜もたっぷり入っていて、みそラーメンが食べたくなった。ラーメンはあるのだろうか?でもチャーシューは豚肉がいいな。


「ちゃんと飯は食べられるのだな。案外、シュータはドラゴンドライバーの資質はあるのかもしれぬ。感覚が良い人間程、体調を崩す者が多いハズなのだが」


「なんにしろ、これでシュータさんもドラゴンドライバー登録が出来そうですね」


「なにドラゴンドライバーって?」


「フォーミュラドラゴン規定で決まっている神様に乗る資格です」


「資格なんているの?」


「ギルドの設定したコースを飛んで、規定タイムで気絶せずにちゃんと帰ってくればギルドから資格が与えられます。三か月後に試験がありますから頑張って下さい」


「頑張るって言っても自分は乗るだけでしょう?」


「吾輩は目隠しして全開で飛ぶからな。シュータの技量も必要じゃ」



 思っているよりも大変な話になってきた。とりあえず魔石カイロを沢山買ってこないと……F-15のパイロット、イーグルドライバーには憧れたが、ドラゴンドライバーとはな。


とりあえず初飛行終了。

最初は310km/hくらいで考えていたんですけど、それだと音速いらない感じなので速度上げました。F1マシンよりも速くなってしまった、どうしよう。

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