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エフドラ

さて、主人公のシュータが引っ越します。

小さい家と言っても2LDKで、自衛隊員としては広いスペースを使える予定だったのですが。

まあ、そうなりますよね。

3.エフドラ



 新しい俺の住処、引っ越しが終わったばかりのダイニングキッチン。木製の四人用テーブルの俺の目の向かいには美少女がふたり座っていた。看護師見習いのリンとジェダイトドラゴンが変身している人間な神様。人間な神様って、なんかヘンだけど。



 神様の変身を見た後に細かい話は後日と言われ、神様と別れてギルドの建物に戻ったのだが、帰ると同時にリンが神様と俺が生活を共にすると言い回り、その話はギルド長やクオリアさんどころか冒険者、果ては街中に伝搬していた。


 一時は神様のためにギルドの来客用豪邸を用意されそうになったのだが、それは断ってなんとか最初から予定していた、いわゆる2LDKの小さな家に住むコトにした。小さな家なら神様と住むなんて面倒なコトにはならずに済むと思っていたのだが……



「で、ギルド長に話は通したのでお前は吾輩の元で働くコトになった。少なくともこの一年はギルドから給金が出るから安心しろ」


 テーブルの向こう側で腕を組んで話す見た目は美少女の神様は見た目よりもヤリ手で既に色々と手を回しているらしい。


「そんな勝手に決められても、自分にもやりたい仕事が……」


「吾輩と行動するという名誉ある仕事以上のものなどあるものか。なぁリン」


「はい、それはもう。神様が決めたコトを破るのであれば、シュータさんは瞬殺されてもしょぅがないですし、命があっても私たちの街、いや、ギルドの目が届く所にはいられないでしょう」


 少なくとも街の人々にジェダイトドラゴンが神様と崇められているのは間違いない。ガンスミスになってガンマンのおねーさんとヒャッハーな俺の希望は消えたのだ。


「で、自分になんの仕事をしろと?」


 神様に仕えるというコトは神官とか宮司とかなにか宗教的な仕事なのだろうか?異世界から来たという部分でそういうコトに選ばれたのか?まあ、国民を護るというコトについてはいつも考えていたが、信仰心とかには距離を置いた生活をしていたので少し……とても不安である。


「毎年行う祭のために、吾輩の手伝いをして欲しいのじゃ」


 やっぱり宗教儀式か。もしかしたらヤバイ宗教で、なにか変な踊りとか口上を覚えて街の皆の前で儀式という名の辱めを受けるのか。いや、本当は人身御供としてこの神様の餌にされるのかも。そう考えると掌にじんわり汗が浮き出て来た。そういえば何食べるんだろ、この神様?



「エフドラですね、今年はこの街が主役ですから」


 リンが言う。なんだ『エフドラ』って?この街が主役って、他の街にも関係があるのか?


「そうじゃ。年一度の吾輩たち神々の祭であるエフドラへ向けて、この街の活性化のために働いてもらうのじゃ」


 神様は目を爛々とさせて見つめて来る。


「なに?そのエフドラって?」


 ちょっと美少女過ぎる神様を直視するのがツラくなったので、リンに話を振る。


「エフドラは通称で正式名称は『フォーミュラドラゴン』です。ギルドに参加している十八の街それぞれの神様が、十八の街を結んだコースを飛んで速さを競う。それがエフドラです。今年度はこのセチトの街をスタートとゴールとして二十日間のレースが開催されます。この世界最大のお祭りです!」


 『フォーミュラドラゴン』ってレースなの?俺の世界の自動車のF1(フォーミュラーワン)みたいなイベントか?でもなんで俺なの?航空自衛隊にはいたけど、パイロットでもないぞ?


「勝ちたいのじゃ……いや、せめて表彰台に乗りたいのじゃ。最近の吾輩は表彰台すら遠ざかっておる。十八年ぶりのこの街主役のレース。せめて表彰台に乗ってセチトの街の皆に元気を与えたいのじゃ」


 神様が視線を下げて、モジモジしながら言う。案外、いい神様なのかもしれないな。


「……昔、吾輩が幼少の時に会った異世界からドロップして来た者に聞いたのじゃ。『異世界には音よりも速く飛ぶモノがある』と。それで異世界から来たお前ならば、その音よりも速く飛ぶモノを知っているであろうと……ならばその形とか仕組みを教えて欲しいのじゃ、そして吾輩を速くして欲しいのじゃ」


 神様の幼少期ってどれだけ昔の話なんだ?神扱いされるドラゴンってすごい長寿だと思うけど、そんな昔には俺の世界には飛行機すら……でも音速より早い乗り物ならば。


「俺の世界にも音より速く飛べる戦闘機というモノがありました。一応、それを扱う場所にはいたのですが……」


「セントーキ、ホントか?それの形や飛ぶ仕組みについても知っているのか?」


 ひときわ神様の緑色の目が輝く。さっきまで下を向いていたのに、また俺をガン見する。


「直接触ってはいませんでしたが、形とある程度の仕組みは……」



 元々、俺は飛行機を作るのが夢だった。兄も飛行機が好きだったからその影響で、兄弟して飛行機バカだった。兄は夢を実現して航空自衛隊のパイロットとなった。だけど観光に行った南の島で、ツアーパックの観光用小型機と共に海に消えてしまった。兄らしい最期ではあったかも知れないが、先に両親を失っていた俺にはとてもつらい記憶となった。


 その後に色々あって俺は進学を諦めたが、飛行機関係の仕事はしたかったから兄のいた航空自衛隊に入ったのだ、アンテナ整備員だけど。もちろん今でも飛行機は好きだし、正直、機体整備の奴らよりも知識はある(と思っている)。まあ、整備仕事は知識だけじゃなく経験が備わってないとダメだけど。


 でも、昔から飛行機のラクガキをしていたから、空自や世界の有名な飛行機の絵なら何も見なくても描けるし、雑誌のコンテストで賞を取ったコトもある。兄が好きだったF-1戦闘機ならジェットエンジンのカットモデルの絵だって……あ。



「神様、あの変身の時の爆炎の竜巻ってどうやって出すんですか?」


「音の速さを超える方法の話をしておったと思うんじゃが……まあ良い。こう風の魔法と火の魔法を微妙にコントロールしてな」


 そういうと神様は両手を上げて、ふたつの人差し指からまるで水芸をするように小さい炎の竜巻を出して大きさや長さを変えたり、軽くポンと爆発させたりして見せた。


「器用じゃろ、こんな小さいのを精密にコントロールできるのは十八のドラゴンの中でも吾輩だけじゃ。こういうのは得意なんじゃが……レースではのう」


 指から小さい炎の竜巻を出したまま神様が項垂れる。


「魔法ってそのフォーミュラドラゴンのレースでは使っていいのですか?」


「使うも何も、吾輩たちは羽根で羽ばたくだけじゃなくて風の魔法も上手く使って飛ぶのじゃ。吾輩の持つどんな能力も使うのに制限はない。まあ、風の魔法以外は飛ぶのに意味はないからあまり使えないが」


 あれ?もしかしたら俺、この神様をフォーミュラドラゴンとやらで勝たせられるかもしれないかもしれない……



「それでは神様には明日から自分を師匠と呼んでもらいますか」


「はぁ、なんでこの吾輩がお前ごときを師匠と呼ばねばならぬのだ?」


「そのエフドラとやらで勝つ方法を知りたいならば自分を師匠と呼んで欲しい。こちらはジェダイトと呼びます」


「それは知りたいが……神の師匠とは納得いかぬ。それではシュータと名を呼んでやろう、これで納得しないなら瞬殺じゃ。あと、今後は他の神にも会うからジェダイトと呼ぶのは良い……いや、せめて「さん」をつけろ。」


「あ、瞬殺だけは勘弁して下さい。シュータでいいです、ジェダイトさん」


 まあ、師匠は言い過ぎたかもしれないが。しかし、これから毎日命の心配をしないとダメじゃないのか、俺?なんにしろ、細かい話は明日からじっくりしよう。こうなったらフォーミュラドラゴンの勝利のために、俺は名トレーナーとなるのだ。



 気づくといつのまにかリンが台所に立って野菜を切っていた。


「晩飯はギルドの食堂に行くつもりだったんだけど」


「いや、これからエフドラまでは私も住み込みでおふたりのお世話をするようにギルド長に任命されましたから。食事、洗濯などの家事は私が住み込みでお世話させていただきます」


 は、この狭い家で住み込み?それはちょっと色々とヤバいのでは?


「シュータは変態ドラゴンマニアの疑いがあるとクオリアに言ったら、見張りとしてリンをよこしたのじゃ。何かあれば瞬殺なのだがのう。」


 いやいや、じゃあクオリアさんには俺は変態ドラゴンマニアってコトにされているのか?あんな美女のエルフに。というか、既にこの街中の人がそう思っているんじゃ……そして神様……ジェダイトさんも、やっぱりこの家に住むのか?



「なのであちらの寝室は神様がお使いになります。シュータさんは隣の寝室で、私はそのソファーで寝ます」


 いや、流石に俺も女の子をソファーに寝かせる人間じゃない、仕方ない。


「リンが寝室を使ってくれ。俺がソファーに寝るよ」


「でも……」


「リン、シュータの言うとおりにしておけ。一応この家の(あるじ)だからな」


 主がソファーってどうかと思うんだけど、そしてそんな時だけ主とは。でもやっぱり俺がソファーだよなぁ。ヒマをみてソファーベッドでも自作するか。



 リンの作ったポトフみたいなスープと焼いた牛肉を食べた。塩も胡椒らしきものも豊富なようで、きっちりと味のついた牛肉は美味しかった。飯屋でもひらけるんじゃないか、リンさんや。


で、神様……ジェダイトさんも同じ料理を食べていた。


「ジェダイトさん、そんな量で大丈夫なんですか?」


「まるで吾輩が大喰らいみたいなコトをいうな。吾輩の力の源は街の人々の魔力じゃ。魔力を持つ民から自然と発生している魔力を少しずつ集めて吸収しておる。遥か昔からの契約じゃ。街を守る代わりに力をもらう。そして、もし足りない場合は住んでいた沼、魔力が湧き出ているあの沼で体中からゆっくり補充するのじゃ。なので、吾輩の先輩たちが棲んでいた沼の近くに安全を求めて人々が住むようになり、街が出来て大きくなっていったわけじゃ」


「じゃあ晩飯とかいらないんじゃないですか」


「吾輩たちも食事の欲望というものがあったようでな。ドラゴンが人の姿になり、街を歩くようになってからは全てのドラゴンが街で食事をしているのじゃ。吾輩たちドラゴンの食事等の支払いは、今はギルドが後から払ってくれるからな。他の街へ行ってもギルドが作っているこのカードを見せてサインをすれば問題ない」


 そう言いながらジェダイトさんが胸元から取り出した黒いカードを見せてくれた。こんな異世界でもブラックカードはあるんだ。でもあんなのドラゴンになったらドコに仕舞っておくのだろう?いや、服もドコに……ってそれを考えるとまた変態ドラゴンマニアとか言われそうだな。



 そうしてジェダイトさんとリンは寝室で眠り、俺はソファーの上で毛布を被って丸くなった。横になってから出来るだけ早くソファーベッドを作ろうと思ったのは言うまでもない。


ドラゴンさんがブラックカード持ちならシュータに給金もいらない気がしますが。

なんとなくリンが万能すぎる話になりそうですがどうなるか。

そして、もはや出オチなネタ……そんな話です。

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