ドラゴン
さて、2話目です。
やっとドラゴンさんが出てきます。
異世界ってどの程度の文明にするか難しいですね。
2.ドラゴン
ギルドの病室で目覚めた異世界二日目。いつもの迷彩ツナギに着替えて、まずはギルドの建物をメイド服のような黒にエプロンの看護服を着たリンに案内してもらった。木造三階建ての冒険者ギルドは一階が受付と食堂、二階が診療所と病室、三階がギルド長の執務室と公宅になっているようだ。離れとして大きな倉庫と二階建てのリンたちの宿舎があるという。
ギルド長以外は街のドコに住んでもいいようだが、リンたち看護の人間や受付の女の子たちは大半が宿舎に住んでいるらしい。看護長のクオリアさんは街中に自宅があるとのコトだ。
ギルド長とクオリアさんに挨拶して、一階に降りて受付の女の子にも挨拶する。人間も獣人もいるが皆、美人さんである。俺にもこうワンチャンあるのではないかと期待する。
食堂は冒険者たちのスカウト場所も兼ねていて、朝から今日の仕事がない冒険者たちが集まっていた。受付の女の子も冒険者たちも『ドロップ』が出たコトは知っているが、ギルド長からそれについて騒ぐなとお達しが出ているらしく、静かに手を振ったり、ビールらしきものが入っているジョッキを上げて笑ったりしていた。俺もオタクのモヤシではあるが人付き合いは良いほうなので軽く手を上げて挨拶する。強面も多いが美男のエルフも多い。さっそく俺のワンチャンの野望は断たれた。
俺を助けてくれた『ユーエス』という冒険者チームもいるとのコトで、リンに連れて行ってもらった。彼らは普通の冒険者としての行動もしているが、行方不明になった冒険者チームを探して救出するのを主体として活動しているらしい。だから看護師見習いのリンとも面識があるそうだ。
「自分は昨日助けていただいたシュータと申します。ありがとうございました」
俺は『ユーエス』の面々に深々と頭を下げた。名前が長いとリンだけでなくギルド長にも言われたので、この世界ではシュータと名乗るコトに決めている。
「いやいや俺たちの仕事だし、ドロップを助けるなんて百年この仕事やっていても初めてだから名誉なコトだよ」
そう言ったのはリーダーのメイワさん。金髪碧眼、美形のエルフで文武両立、弓の名手であり、風の魔法とヒーリング魔法が使えるそうだ。
「そうだな、おかげでギルドから結構な臨時収入が入って、こうやって朝から酒を飲めるのだしな」
次は強面のカワサさん。ドワーフと人間のハーフというが、身長は175cmの俺と変わらないぐらいで日焼けがプロレスラーっぽい太マッチョ。俺を背負って来てくれたらしい。
「そだね、いつもより豪勢なメシが食えるのはシュータさんのおかげだ」
そう言うのはミツさん。人間で俺より身長が低い茶髪の男だ。身軽でダンジョンなどの斥候が得意だそうだ。宝物を見つけるのも上手いらしい。
「私は異世界のお菓子の話が聞きたいな」
最後にニホさん。明るい茶髪のショートカットのダークエルフで眼鏡っ娘。ただ、眼鏡は強力な視力を逆に抑えるためのものらしい。冒険者救出の要の眼だそうだ。赤い木のフレームの中のレンズは特殊な魔石を削って作ったもので外すと見なくていいものも見えるそうだ。
『ユーエス』の面々は救助のエキスパートとして冒険者ギルドでも有名で、冒険者の信頼も厚いようだ。他の冒険者たちとは違い、青い作業服のようなお揃いの服で統一している。なんとなく海上自衛隊の救難飛行隊が使っている飛行艇『US-2』のイメージがするチームだな。
俺もギルド長から貰った生活費でビールらしきものと朝食を頼む。もちろんリンの朝食もだ。郷に入れば郷に従え、朝からだが酒を飲みながらの歓談のほうがいい。いや、単純にビール好きなだけだけど。
木のプレートで運ばれてきたのは目玉焼きとハンバーグみたいな肉が入ったご飯だ。リンはパンとサラダみたいなのを食べている。ビールらしきものは『冒険者エール』と『冒険者ブラック』。2種類あるというので2つ頼んでみた。
「鶏……いや、これはヘビの肉かな?エールもブラックも美味しい」
「お、シュータさんは肉も酒もいける口かい。ヘビ肉はこの街ぐらいでしか食えないけど、わかるってコトは異世界でも食べるのかい?」
飯にはうるさい感じのミツさんが言う。リンを見ると微妙な笑顔なので、自分がニガ手な地元料理を注文して俺を試したくさいかな?
「ええ、俺の世界も普通の人はあまり食べないですが、俺はたまに食べました」
「陸自のレンジャー訓練ではごちそうだ。お前たちも食え」って山中にあるアンテナ整備の時に上司に何度か食わされただけだけどね。ただ焼くだけで食ったアレよりはこっちのヘビハンバーグのほうがよほど美味い。エールもブラックも元々ドイツビールが好きな俺には合う味だった。いわゆるメシマズな異世界ではないらしい。
昼近くまで『ユーエス』の人たちと話した後に、リンと外に出た。ギルドの大きな玄関横には日時計があったので、工具箱に入れてあった安物のデジタル腕時計を部屋から取って来て、だいたいの時間に合わせて腕に着けた。太陽電池のものなのでこっちの世界でもしばらくは使えるだろう。
街中は思いのほか綺麗だった。木造の建物が多いから西洋の中世というより西部劇のアメリカって感じだ。ミツさんが見せてくれたのだが、魔石を砕いて火薬の代わりにしたリボルバーっぽい拳銃も出回っているらしい。俺がよく知っている異世界よりは少し進んでいる世界なのかもしれない。
でもカワサさんなんかは魔法で石を飛ばしたり出来るようで「修行が足りないから銃が必要なんだよ」と笑っていた。でも普通の人間はやっぱり魔力が少ないらしい。その中でも俺は残念と……普通の異世界モノでは行ったらなにかしらチート能力つくのになぁ。
うーん、俺、ガンスミスになって銃を作ったり整備したりする仕事でもいいかな。分解整備とか射撃とかも一応は訓練で経験したし。射撃は結構成績良かったんだぜ。
ギルドを中心に並ぶ中心街の商店には結構な物が並んでいた。街はずれには農園も酪農農家もあり、普通に農業は行われているという。ただし、肉については需要に生産が追いつかないらしく、冒険者が獲って来た肉は価値が高いらしい。
新生活に必要ものの下見に雑貨屋を見たり、それこそ銃の店を見たり、リンに言われてお菓子屋でチョコレートを買ったりして歩いた。チョコレートは冒険者の携帯食に最適とされていて、思いのほか美味かった。俺の基地の近くの空港の売店で売っている生チョコレートには負けると思うけど。
衣料品店に入る。ウチの基地にテスト納入されて着用していた最新型の白とグレーのデジタル迷彩ツナギでは色々と目立ちすぎるので『ユーエス』の制服のような作業服っぽい服が欲しかったのだ。
そんな服を上下二着、下着や靴下も合わせて購入しようと店内を回っていると、紺色のぶ厚い防寒服の上下が飾ってあった。温暖な気候に思えた街には似合わないなと思いつつ、立ち止まって見ていたのだが……
「その服を買いなさい!」
後ろから女性の声で怒鳴られた。年の頃は俺の世界なら十七か十八、緑の長髪で瞳も透明感ある緑。耳飾りなのか、耳のあたりに緑色のトゲトゲがついている。白いワンピースをベージュの皮のベルトのようなもので絞めている。靴は同じベージュの皮のサンダルか。手足のネイルも緑に塗られている。それにしてももの凄い美少女だ。俺の世界ならどのアイドルグループでも絶対センターだな。
「え、いや、店員さん、こんな暖かい時期にこの服はいらないでしょう」
「いや、吾輩は店員じゃないし、お前はこの服を着なければならないから」
美少女はややキレぎみに言う。しかし怒った顔も捨てがたい。
「神様、この方はドロップの人で、昨日こちらの世界に来たばかりで…」
リンが慌てて言う。え、神様?神様ってなに?
「わかっておるわ、リン。昨日、この男は吾輩の上に落ちて来たからな。面倒だから近くを歩いていた『ユーエス』の目の届く場所に転がしておいたが」
え、この娘の上?どういうコト??
「とにかくこの服を買え、この街の神である吾輩が言うのだ!」
「ええと、リン、この人はいったい……」
結構な値段の服なのでちょっと買うのには気が引ける……のでリンを頼る。
「シュータさん、それ買って下さい。このお方はこの街の守護神、神様なのです!」
はあ、守護神?この165cmくらいの一人称が吾輩ってヘンな女の子が神様?
「まだ吾輩を疑っているな、まあ良い、とりあえずその服と、その他の買い物を済ませよ。リン、沼まで行くが良いな!」
「はい、もちろんです神様!シュータさんはやく買い物を」
もうなにかが決まっているようだ。でも神様というなら従うしかないだろう。美少女は店員のおばさんに手を上げて、防寒服を包むように指示していた。神と人間という関係じゃなく、常連のお嬢さんと店員のように見えるので、神とか言われてもさっぱりだ。
おばちゃんが購入した衣服と防寒着を大きな麻袋に入れてくれたので、それを担いでリンと神様?と山のほうに向かって歩いた。結構な距離を歩いたら沼が見えて来た。
「リン、こいつと少し離れておれ」
リンに手を引かれて神様という美少女から100m程距離を取った。
「じゃあ行くよ、チェーンジ!ジェダイトドラゴン!!」
そう叫んだ神様の体が宙に浮いていく。浮きながら神様が色々なポーズを取っていく、それはパンツも見え……じゃなくて、いやコレ、魔法少女アニメの変身、変身バンクって奴じゃないか!!すっごく綺麗に描いて、ずっと使い続ける例の変身シーン!!!
なんか神様が見覚えのある変身ポーズを一通り決めると、透明感のある緑色の光に包まれた。そしてその周りから巨大な爆炎の竜巻が上がり、竜巻が天に消えて行くと……それは地に立っていた。
俺が墜落したアンテナと同じぐらいの高さの、俺の世界の有名怪獣映画の主役に大きな羽根をつけたような姿の、透明感のある緑色した巨大なドラゴンが。
「どうじゃ、これが吾輩の本当の姿じゃ、恐れおののけ異世界人よ!!そしてリンよ、今日の変身はどうじゃった?」
脳内にさっきの美少女の声が鳴り響く。耳からじゃない、直接脳内に語り掛けて来る。
「神様、今日は一段と完璧な変身でした。キレッキレです!爆炎もいつもより派手で素晴らしかったです!」
リンが大きい猫目をりんりんと光らせて、涙まで流して言う。もはや美少女ヒロインショーを観た子供のようだ。多分、リンはこの変身ショーを何度もここで観ているのだろう。
「あの、脳内に直接語り掛けられるのは初めてで違和感があるのですが……」
ちょっと頭がグワングワンして、つい言ってしまった。
「この姿だと人間には害のある音量と低音でしか話せないからテレパシー……じゃなくて、最初にこの姿に対しての畏怖の念についてとか、吾輩の華麗なる変身への感想とかはないのか!」
「いや、あの本当に驚いたんですが、なんか現実感がなくて。まあ、あの自分の世界では3DVRとかってゲームで……あ、いや、結構目の保養になる変身……」
「この吾輩をそんな疚しい目で見ておったのか、ど変態のドラゴンマニアか、お前は……まあ良い、良くないが。なにかあればいつでも瞬殺だからな」
「え、いや……あ、あまりの美しさだったので」
多分、俺を殺すなんて蟻を踏みつぶすくらいの感じなんだろうな。そう思うと少し首の廻りがヒヤっとするので一応ホメておいた。いや、絶世の美少女だったのは確かなのだが。
「それは否定できぬがな。吾輩は『ジェダイトドラゴン』である。吾輩の夢を叶えるために、しばらくお前と一緒に行動させてもらうぞ!」
どうやら俺は、この異世界で正体が100m級ドラゴンな美少女と暮らさなければならないらしい。
・ドラゴンの夢ってばなんだ?
・俺にそれが叶えられるのか?
・ダメだったら殺されるのか?
・オスですか?メスなのですか?
……謎は深まるばかりだが、とりあえず俺に拒否権はないらしい。
さてドラゴンさんはこのような方でした。
ドラゴンさんの年齢についてはまだ考えていませんがそのうち必要になるでしょう。
『ユーエス』の人たちってこの後出て来るのかなぁ……