ドロップ
なんか今期のアニメは異世界モノが多いので、ちょっと異世界な話を書いて見たかった。
まあ出オチな話になりそうですけれど。
今回はドラゴンさんはまだ出て来ません。ドラゴン好きの方は次回までお待ちください!
1.ドロップ
「やべ!」
世の中そう思ったらもうダメなのだ、とにかく俺はもうどうやらダメらしい。重力と友達になった俺、畑中秀太は重力だけじゃなく、さらにコンクリートの地面と友達になるらしいのだ。フルハーネス安全帯のふたつのフックはしっかりと手摺の鉄棒に固定していたけど、その鉄棒が外れて強風にあおられて墜落中なのだ。
俺の仕事は航空自衛隊の整備員だ。いわゆる「家庭の事情」で普通高校からの大学進学を諦める状況になり、工業高校から航空自衛隊に入って整備員になった。仕事は通信アンテナの整備。
このアンテナだって俺が毎月点検していたんだ。高さ100mのこの手摺だってしっかり点検していたんだぞ。毎度打検までして。なんで外れた?そんなに悪いコトしてたか、俺?落ちたら死ぬ前にスッゲー痛いんだろうな、まあ、間違いなく死ぬからあんまり他人に迷惑はかけないかな?いや、迷惑をかける家族はいないからいいのか……
死の前に自分の人生が走馬灯のように見えるとか言われるけど、人間最後は自分の人生を振り返るものなのだと理解した。ガキの時の楽しかった日々、両親が交通事故で無くなった日、両親の代わりに育ててくれた年の離れた兄貴が南の海に消えた日。施設から工業高校に通ってオタク仲間でバカやっていた日々。モヤシのオタクには厳しい自衛隊でのキッツイ訓練……
夢ってたかだか数時間で何日、何年をセルフVRで体験したりするけど、そんな感じで思い出が走る。そして俺は地面と友達になった。痛くなかった、ゴツんとした気はしたけど、その瞬間は体に痛みは無かった。良かった……そこで俺の記憶は途切れた。
「なんだココは!」
目が覚めた俺はお約束の大声を出した後、まず手足や指を動かして体の異常を確認した。背筋のあたりが少し痛いけどほぼ問題ない。なぜかパンツ一丁でやたらゴワゴワなシーツと毛布の敷かれた木のベッドに寝かされていた。基地のドコにもこんなベッドはないし、自衛隊員でこんな雑なシーツの使い方する奴はいない。ログハウスのような木でつくられた部屋だけど、かなり作りが雑だ。残念なオッサンがDIYで作ったような木の椅子の上、そしてその周囲に俺の制服である迷彩のツナギとシャツに靴下、フルハーネス安全帯、ヘルメット、安全半長靴、無線機やLEDライトと工具箱など装備品が置かれていた。あと、外れた墜落の原因である鉄の棒……
「あ、起きてる!」
その言葉とともに開いたドアを振り向いた瞬間、俺はだいたいの状況を理解した。
少女が水と果物の乗った木のトレイを持って立っていた。いわゆる『猫目・猫耳』の赤毛の女の子だ。そして人のあるべき所に耳が無い。長くして細い尻尾もある。オタクの必修科目である『異世界』の獣人だ。言葉が通じるお約束の……本当にあったのか異世界。
で、まあまあカワイイな、この娘。
自衛隊にはオタクが多い。特にアンテナ整備の我々、工業高校の電子系あがりはモヤシなオタクが多い。いや、もう世の学生なんて70%はオタクじゃないのか?知らんけど。まあ、なので俺も異世界モノはそれなりに履修済みのオタクではある。なんとなく色々と理解したのだ。
「ええと、すみません貴方が助けてくれたのですか、そしてココは……」
「いえ、『ユーエス』って言う冒険者チームが貴方を見つけて来たの。この街、『セチト』には数十年に一人くらいはドロップの人が来るから」
「ドロップ?」
「異世界から落ちて来た人のコトです。あなたの身に着けていたものから間違いなくドロップの人だと『ユーエス』の人たちが判断して、この冒険者ギルドに連れて来たの。あ、私はこのギルドで働いている看護師見習いの『リン』って言います」
「あ、申し遅れました。自分は畑中秀太と申します。ええと、異世界のほうで機械の修理技師をしていたものです」
自衛隊とかアンテナとか言ってもこの世界じゃ通じないだろうから、こんな説明でいいだろう。
「『シュータ』さん、って呼んでいいですか?」
「あ、はい。で、自分はこれからどうすれば?」
「今、ギルド長か看護長呼んできますから、フルーツ食べて待っててください」
そう言ってリンと名乗った赤毛で猫耳の少女はベッドの下に水と果物を置いて部屋を出て行った。果物を取ろうとすると、床にいやな滲みがいくつも広く付いているのが目に入った。冒険者の治療の部屋なのだろう。そして、こんな血の滲みが付くほどの深手を負った冒険者が多数いるというコトは決して楽な世界ではないのだろう。命を落としている冒険者もきっと多数……
お約束だと俺も冒険者になるんだろうけど、ちょっと怖い。まあ、モヤシだった俺も自衛隊でそれなりの戦う訓練は受けて来たから、普通のサラリーマンよりはかなり使えるんじゃないか……とは思うのだが?
そんなコトを考えながら、色々ある中でリンゴと桃を合わせたような見た目の果物に齧りついた。味もリンゴと桃を合わせたような感じで美味しい。味覚はこの世界の人と変わらないのではないかな?
『コンコン』
ノックの音の後にリンがふたりの人を連れて来た。顔に大きな疵のある強面……というよりは渋い感じの身長165cmくらいの筋骨隆々なオッサンと、175cmの俺よりも身長が高そうな金髪紺碧の長髪美人だった。耳が尖っていて、これは多分エルフの人なのだと思う。
「俺がこの街、セチトのギルド長ゴメスだ。こちらは看護長のクオリア。この街の近くに落ちて来たのもなにかの縁だ。昔からドロップの人には親切にしろと言い伝えがあるから、それなりに面倒は見てやる。何かあれば頼ってくれ」
ベッドで上半身を起こした俺に、昔のハリウッド映画の人(の吹き替えの声優さん)のような渋い声で話すギルド長は、前の上官に似ている気がした。五十半ばで退官した後は奥さんと車中泊で日本を数周していて、今でもSNSで連絡を取っている俺に整備のイロハを教えてくれた人だ。なんとなくこのギルド長は信頼出来る気がした。
「クオリアです。大きな御怪我がなく良かったです。私が看護長をしてから二百年程になりますが、ドロップの方は落ちた衝撃で亡くなった方が大半でしたから。家の手配が出来るまでしばらくはこの病室で暮らしてください。元気ならば街に出てもらってもかまいません。ただし、出る時はこのリンが付き添いますので、よろしくお願いします」
挨拶もそこそこに、この世界とセチトの街についてギルド長とクオリアさんが説明してくれた。この世界は国という概念が無く、街が最大の自治の単位のようだ。ただし他の街とは概ね良い関係にあるらしい。魔物・魔獣という共通の敵がいるからだそうだ。で、二百年か。やっぱり長命種のエルフなんだな。
獣人やエルフ等の人間以外の人々についてははるか昔から同化が進んでおり差別はないそうだ。魔物や魔獣についても人語が話せるならば人間側の者として扱っているらしい。まあ、そんな中に敵対するものがいるらしいのはお約束か。文明の程度については街に出てから知るコトになりそうだけど、まあいわゆる「異世界」な文明レベルらしい。
冒険者のギルドは全ての街で共通したシステムで、街の自治全体も受け持っているそうだ。ギルド長は市長って感じなのかな?通貨は金貨銀貨のコインらしい。
俺が寝ているうちに俺の扱いを決めていたらしくて、数日で借家と数か月分の生活費を与えられるらしい。昔亡くなった冒険者の持ち物で、今はギルドの財産である街の外れの小さい家になるようで、家賃はしばらく免除されそうだ。補修と掃除に数日かかるらしい。
「シュータさん、ちょっと掌を私に向けて下さい」
クオリアさんがそう言うので掌を向けた。どうやら俺のスキルを鑑定しているようだ。掌の前に浮き出た半透明のもやもやした物を覗き込んで、クオリアさんが茶色い用紙になにかを書き込んでいく。
「残念ですが、あまり強いスキルはありませんね。風と火の魔法が少々使える……可能性と、少し目と耳、いや全ての感覚が良いくらいでしょうか。中級の冒険者になるには色々と多くの命の危機に襲われるでしょう」
なかなかに俺は残念スペックらしい。自衛官としてそれなりの……と思っていたのに。ギルド長も若干残念そうな顔をしたように思える。そりゃ異世界から来たのなら、ダンジョン巡って宝物とかを沢山街に持ち帰るようなスペックの冒険者を期待するよな。魔法もある世界なのに、魔法は可能性だけって……
「なんかすみません」
こういう時は先に謝るに限る。俺は三人に頭を下げた。
「いやいや、聞いた話では機械の修理をしていたそうじゃないか。この街には色々な仕事がある。君の世界とは色々と違うだろうが、君と一緒に落ちて来た物品は我々よりも進んだ文明を感じる。しばらく休息しながらリンと見合った仕事を探すのも良いだろう」
そう言うと、ギルド長とクオリアさんは部屋から出て行った。
「ちゃんとお世話するので、異世界のお話、聞かせてください!」
残ったリンが言った。数日、いや家の用意が出来た後もしばらくはリンに頼る日々になるだろう。見知らぬ土地で話し相手になってくれるだけありがたい。
「こちらこそよろしくお願いします。リン……ちゃん」
リンが去った後、俺は天上を見つめて色々と考えた。ここに来た『ドロップ』はいろんな世界で墜落した人なのだろうか。クオリアさんの話では、こっちでそのまま墜落して死んだ『ドロップ』が多数いるらしい。俺はついている人間なのだろう。
ベッドの横の椅子くらいなら俺でも作れそうだし、冒険者の装備を作る仕事もあるだろう。マンガやアニメやネットなんて遊びは出来なくなるだろうが、異世界の滞在ってだけでいい娯楽じゃないか。多分クオリアさんみたいな美人も沢山いるに違いない。
(とりあえず、明日はリンに頼んで街を散策してみるか)
そう思った瞬間、俺は眠りに落ちた。まさかこの世界で大昔からの夢が叶うとは知らないままに。
ええと、セーラー服と機怪獣《S.O.S-2》
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が進んでないのですが、小ネタが浮かんだので短めのコレを平行で進めます。
《S.O.S-2》もエンジンかけます、多分……
《S.O.S-3》のために巨大美少女ヒロインを研究してたらついつい時間が(笑)