第7話 ゴシゴシマイスター
「ははっ、まさか。ほい、綺麗に拭けたぞー」
俺が安心させるように笑って言うと、
「ありがと、蒼太おにーちゃん!」
美月ちゃんは不安げな顔から一転、向日葵のような笑顔になった。
「でもまだ水気は残ってるから最後にドライヤーで乾かすんだぞ」
「はーい」
「んもぅ……美月はほんと甘えんぼでしょうがないんだから」
「えへへー」
嬉しそうに俺に抱き着く美月ちゃんを見て、姫宮さんが両手を腰に当てながら小さく肩をすくめた。
「なんか新鮮だな」
そんな姫宮さんの姿を見て、俺の口からついそんな言葉がこぼれ出る。
「えっ?」
「あ、いや。学校での姫宮さんとはちょっと雰囲気が違うっていうか」
「そう?」
「ほら、学校ではお姫さまって雰囲気で特別な感じなのに、今は美月ちゃんの面倒を見るお母さんって感じがするからさ」
「学校ではお姫さまって、私そんな風に振る舞った覚えはないんだけど……。そもそも私の家はいたって普通の一般庶民よ?」
「まあ、雰囲気がね。すごくキラキラしていて、気品があって、お淑やかなところとか」
同じキラキラな女の子でもガサツだったり言葉遣いが荒かったりしたら、姫なんて呼ばれることはなかったはずだ。
「ええっ、私キラキラとかしてる? メイクとかもそんなにしてないんだけど……」
姫宮さんは驚いたように言うけれど。
「キラキラはしてるよ、もう超しまくり。カートン1枚のウルトラレアカードって感じ」
もちろん俺は賑やかしのコモンカード。
良くてアンコモン。
「そうだったんだ……」
「ちなみにこれは俺だけじゃなくてみんな言ってるからな。だけど今はなんとなく身近で親近感を覚えるっていうか」
「うーん……。でもそうね。うちは共働きだから、両親がいない時は基本的に私が美月の面倒を見てきたの。だから美月といるとそういうのがもろに出ちゃうのかも」
「なるほど、本当に姫宮さんは美月ちゃんのお母さん代わりだったってことか。すごいな」
「そうなの、お姉ちゃんはすごいんだから!」
ここまで俺と姫宮さんの話をふんふんと興味深そうに聞いていた美月ちゃんが嬉しそうに言う。
「うん、俺もよーく分かったよ」
嬉しそうな美月ちゃんを見ているだけで、俺も幸せな気分になってくるなぁ。
俺も美月ちゃんみたいな可愛い妹が欲しかったなぁ……。
その後。
「紺野君の服は洗濯して明日、学校で渡すわね」
「悪いな」
「全然。せめてこれくらいはさせてもらわないとだし」
「俺も借りた服、早めに返すな」
「別に急がなくてもいいわよ?」
「借りた物を返すのは早い方がいいってのが、うちの家訓なんだ」
「ふふっ、なにそれ。今の適当に言ったでしょ?」
「バレたか」
「そんなの余裕でバレバレよ」
姫宮さんが右手を口元に持ってきて、お姫様っぽくクスクスと上品に笑う。
その姿は学校でも家でも大きく変わってはいない。
なんだかんだ言って、やっぱり姫宮さんはキラキラしてるよなぁ……。
さてと。
シャワーを浴びさせてもらって身体も温もった。
着替えもし終わったことだし。
「じゃあ姫宮さん、身体も温もったし俺はそろそろ帰るよ。また学校でね」
話が一段落したタイミングを見計らって、俺は別れの挨拶をしたんだけど――、
「蒼太おにーちゃん。それ、分かりにくいです」
唐突に美月ちゃんが言った。
「え?」
「なにが?」
その意図が掴み切れずに、俺と姫宮さんは思わず顔を見合わせてしまう。
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