第48話 姫騎士――降臨。
「ひ、姫……」
「どうして姫がこのような場所に……」
優香が現れた途端。
先輩たちはさっきまでの威勢が鳴りを潜め、借りてきた猫のように大人しくなった。
4人ともバツが悪そうな顔で視線をあらぬ方向へ向けると、俺からするすると距離を取って離れていく。
「教室でご飯を食べていたら、蒼太くんが無理やり連れていかれたのがたまたま偶然見えたから、こうして追ってきたんです。それより全員見覚えがある顔ですが、これは一体どういうつもりなんですか!」
俺が初めて聞いた、鋭いナイフの先端のように刺々しい優香の声。
それだけでかなり怒っているのが分かる。
「無理やりって、俺たち別にそんなつもりは……」
「な、なぁ」
「お、おう」
「で、ですぞ」
「あれが無理やりじゃなかったらなんだって言うんですか?」
「そ、それは……」
「私に振られた腹いせですか?」
「まさかそんな。これはだから、その、あくまで姫を守るための行動であって――」
エラソウ先輩がしどろもどろで言い訳をするものの、
「私はそんなことをあなた方に頼んだ覚えはありません。自分の都合を私のせいにするのはやめてください。はっきり言って不愉快です」
当の本人である優香にピシャリと断罪されてしまい、
「「「うぐ……っ」」」
先輩たちはぐうの音も出ないほどに完全に黙り込んでしまった。
そして優香が俺に味方したことで勝敗は完全に決した。
俺の勝ちだ――!!
(俺としてはいきなり理不尽な因縁を吹っ掛けられただけで、別に勝敗を競っていたわけではないのだが)
「ですが唯一幸いだったことに未遂でした。もし蒼太くんに手を出していたら私は絶対にあなた方を許さなかったでしょうから」
「「「「…………」」」」
「もう2度とこんなことはしないと約束して、そして蒼太くんに心から謝罪をしてください。そうすれば私もこの場だけのこととして、大事にするつもりはありません」
最後に優香に追い打ちをかけるように言われてしまい、
「……紺野蒼太、……くん。俺たちが悪かった。怖い目に合わせてしまって申し訳ない。もう2度とこんなことはしないと約束する。この通りだ、許して欲しい」
先輩がたは悔しそうな顔をしながらも俺に深々と頭を下げると、絞り出すようにして謝罪の言葉を述べたのだった。
「蒼太くんもそれでいいわよね?」
「俺は全然構わないぞ。別に先輩たちの人生をメチャクチャにしたいわけでもないし。というかこの人らのこと、そもそも俺は良く知らないしさ」
大事になればこの先輩たちは、イジメの加害者ということになり、最悪、退学とかいう話にもなるのかもしれない。
でもすんでのところで殴られることはなかったわけだし、落としどころとしてはこんなところだろう。
というか、現状だと話をしただけだしな。
日本の法律に暴行未遂罪はないらしいし、既遂と未遂では話が大きく違うのだ。
そういう意味でも、この先輩たちは絶妙なタイミングで俺を助けに来てくれた優香に、感謝すべきだな。
そして俺のその言葉を聞いて、先輩たちは顔を上げると逃げるように体育館裏から逃げ去っていった。
こうして姫宮親衛騎団との戦いは、俺・優香連合軍の完全勝利に終わったのだった。




