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第160話 決意の一歩


 体育館に着くと、俺はすぐには待ち合わせ場所には行かずに、体育館の奥の角のところでいったん足を止めた。


 バレー部やバスケ部といった体育館を使う部活はまだ始まっておらず、周囲はまだ静けさを保っている。


 そこから体育館裏の小スペースをそっと覗き見ると、


「いた――」


 学校の敷地沿いのフェンスに沿って低木の植え込みが連なっている中に、1本だけ目立つように鎮座している大きなクスノキ。

 その大きな幹のすぐ横に優香は居た。


 もちろん俺がこの場所に呼び出したんだから、いるのは当然なんだけども。

 というか、呼んだのに来てくれなかったらかなり辛いものがある。

 それはつまり、優香は俺の告白すら受けたくないってことだから。


 まぁ、それはともかく。


 女神のような優香がいるだけで、静かなだけが取り柄の体育館裏が、まるで神々がおわす天界にでもなったかのように感じられてしまうから不思議だよな。


 そして優香の他には誰も見当たらなかった。

 どうやら俺にラブレターをくれた女の子は、まだ来ていないようだ。


「俺抜きで優香とラブレターの女の子が鉢合わせるプチ修羅場は、とりあえず回避できたかな?」


 一番最悪の事態だけは回避できたことに、俺はひとまずホッとした。

 まぁこの後、同じ場所・同じ時間に三角関係な2つの告白が行われる本当の修羅場が待ち受けているわけなんだけど。


 そしてホッとしたことで少し余裕もできたのか、俺は優香の様子がなんとも落ち着きがないことに気が付いた。


「優香、どうしたんだろう? 告白されるかもって思って、緊張しているのかな? それにしても、そわそわしすぎな気がするな?」


 そわそわというか――これは焦っているような?


 優香はしきりに周囲を見渡したり、手の平をすり合わせたり、肘を軽く抱いたり、その場で意味もなく足踏みをしてみたりと、落ち着きがないことこの上ない。


 さらにはポケットから緑色の封筒――俺が出したラブレターだ――を取り出して、思い詰めたようにジッと見つめたりもしている。


 その決意を固めたような表情に、俺は少しだけ嫌な予感を感じてしまった。

 だってそこには、嬉しいといった表情は見てとれなかったから。


 それでも、俺は頭を振って悪い想像を振り払う。


 さぁこれから勝負に出ようって時に、ネガティブな思考をしてしまうのは良くない。

 自分で自分の行動を縛りつけてどうする。


 だけど、だ。


(どうして優香が焦るんだ? 焦るのはまさかの直前ダブルブッキングを誘発してしまった俺の方だろ?)


 優香の態度に違和感を感じはするものの。


「いつまでも優香を待たせたまま、ここで様子見しているわけにはいかないよな」


 今から出て行って告白したら、おそらくラブレターの女の子に告白シーンを見られることになる。

 その場合、俺はその子をすごく傷つけてしまうことになるだろう。


 告白しようとしていた相手が別の女の子に告白していた、なんてトラウマものだ。


 下手したら愛情が憎しみに変わってしまい、隙あらば俺を貶めようとするクサレ新聞部に、あることないことタレこむかもしれない。


 でもこれは悪意とかじゃなくて、本当に運命のイタズラなんだ。

 そこに関しては誠心誠意、説明すればいいだけのこと。


 だから後のことなんてウダウダ考えるな、紺野蒼太。

 今は今やるべきことを考えろ。


 優香は――俺の好きな女の子は、すぐ目の前にいるんだから!


「すー……、はぁ……、すー……、はぁ……」

 俺は大きく二度、深呼吸をすると、決意の一歩を力強く踏み出した――!


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