第143話 優香の反省会、~美月のあのね帳~
~優香SIDE~
「私ってば、なんてことをしてしまったの……?」
私はお家に帰って自室に入って早々――デート用のお洒落お洋服から着替えもせずに――崩れ落ちるように床につっぷした。
四つん這いになって両手とおでこを床に付ける、いわゆるorzポーズだ。
しかしそれも仕方のないことではないだろうか?
なにせ最後に入ったタルト屋さんで、蒼太くんのタルトを無心してしまったのだから。
「食欲がコントロールできない、卑しい女の子だって蒼太くんに思われちゃったかも……」
しかもよりにもよってデートでだ。
「勇気を出してデートに誘って、OKを貰えて嬉しくて。コンサートもちょっとだけ寝ちゃったんだけど、それはそれでいい思い出になって。ここまでは本当に素敵な流れだったのに。なのになんで私、欲望に負けてタルトを食べちゃったの~~!」
悔やんでも悔やみきれない大ポカだった。
思い起こせば、学校帰りに牛丼屋さんに行った時もそうだ。
私はあの時も蒼太くんにお肉を頂戴してしまい、そして今日は今日でタルトを分けてもらってしまったのだ。
私はどんだけ食いしん坊さんなのか。
「蒼太くんがほんとのところどう思っているのか、こっそり聞けたりしないかなぁ……ううん、答えを聞くのが怖いよぉ……」
あの時の私は完全に理性を失っていた。
美味しいタルトに魅了されてしまっていた。
甘味少女タルティ優香だった。
「でもでも、普段の私は全然食いしん坊なんてことはないんだからね? ほんとなんだよ?」
もちろんここで言っても、テレパシー能力なんて持っていないので、蒼太くんには伝わらない。
「そりゃあ、美味しそうなお肉とかタルトがある時とかだけは、ちょっとだけ食いしん坊さんになることも、あるかもしれないけど――」
でも普段は違うんだから。
ほ、ほんとなんだからねっ!
「でも美味しかったなぁ。フルーツタルトもストロベリータルトも絶品だったもん。また今度、菜々花ちゃんと一緒に行ってみよう――って、違うから! 美味しくても超えちゃいけない一線があるって話だから! なんで私『またタルトを食べに行~こう♪』なんてことを、ナチュラルに考えちゃっているのかな!?」
それだけア・ル・カンパーニュのタルトが美味しかったってことなんだけど、今の私には逆にそれが恨めしかった。
なんともひどい八つ当たりである。
技術の粋を凝らして美味しく作ってくれたパティシエさんも、まさか美味しいことで非難されているとは思ってもみないだろう。
なんだかもう、考えれば考えるほどドツボにハマってしまう。
「はぁ……」
私は床に突っ伏したままの情けない姿で、それはもう大きな溜め息をついたのだった。
~あのね帳(姫宮美月)~
先生、あのね、今日は、そうたお兄ちゃんと、お姉ちゃんが、デートを、しました。
お兄ちゃんは、すごくがんばったけど、つかれて、ねて、しまいました。
それを見た、お姉ちゃんは、ねがおが、かわいい、って言って、いました。
美月も、見て、みたかった、です。
そして、そうたお兄ちゃんの、大きな、イチゴを、お姉ちゃんが、がまんできなくて、パクっと、食べちゃったん、だって。
お姉ちゃんは、くいしんぼうさんだな、って、思いました。
かたくて、おいしいと、言って、いました。
おみやげで、タルトっていう、ケーキを、もらいました。
おいしかった、です。




