第113話 ノーブラTシャツな優香
「どうしたの、蒼太くん? 変な声をあげちゃって」
不思議そうな顔で俺を見ながら、優香がわずかに小首をかしげた。
だがしかし、俺が声を上げてしまったのは、これはもう仕方のないことだった。
というのもだ。
俺はTシャツとハーフパンツを優香に貸していたんだけど――ハーフパンツは体育の時とそう変わらないからいいとして。
優香の胸がTシャツの中で、どうしようもないほどにイケナイ自己主張をしていたからだった。
男子には存在しない神秘的な膨らみが、優香のTシャツの胸元を内側から激しく押し上げていた。
胸の部分のサイズが明らかに足りていない。
もうパッツンパッツン。
くっ!
優香は俺より華奢だからと思って、俺が持っているTシャツの中でも、あんまりダブダブじゃないTシャツを貸したのが、完全に裏目に出てしまったぞ!?
むしろダブダブでゆるゆるなTシャツを貸した方が、良かったんじゃないか?
(主に俺の精神衛生的な意味で)
ご、ゴクリ……。
緊張で俺の喉が鳴った。
だがしかしである。
問題は胸のサイズだけにはとどまらなかった。
Tシャツが優香の身体にまとわりつくように――ピタッとではないが――絶妙にフィットしていたのだ。
外は大雨で湿気が多いし、お風呂上りで優香の身体自体も湿度を保っているからだろうか?
それとも運命に導かれるかのごとく、たまたま偶然に絶妙なサイズだったのだろうか?
残念ながら、女性の身体にはまったくもって素人の俺に、答えは分からない。
なんにせよ、今の優香の上半身は胸元がパッツンパッツンで、さらには妙に身体にフィットしたTシャツだけを身に着けた、実にセンシティブな状態だったのだ――!!
こ、これは思春期の男子高校生には目の毒すぎるぞ!?
しかもよく見ると、ほのかに先っぽ的なものが見えなくも――じゃないから!!!!
「ちょっと待っててくれ優香。すぐ戻る!」
「え、うん」
俺はそう言い残すと急いでジャージの上を取ってきて優香に渡した。
「とりあえずこれを着てくれないかな」
「まだお風呂上がりだから、長袖は暑いんだけど……」
言いながら、襟元を小さくパタパタとして、服の内側に空気を送り込む優香。
だよな!
気持ちは分かる!
もうそろそろ6月だっていうのに、お風呂上りに長袖ジャージは暑いよな!
せっかくお風呂に入ったのに、汗をかいちゃうかもだし。
あと、その動作のせいで、魅惑の膨らみがさらに強調されちゃっているからな!
だがしかし、俺はここで折れるわけにはいかなかった。
(主に俺の精神を保ち続ける意味で)
「だからその……」
「どうしたの?」
くっ、本当に気付いていないのか?
気付いたうえで敢えて誘ってたりしないか?
まったくイケナイ女の子だな!
――って、さすがにそれは優香に失礼か。
ごめんな優香、今のは完全に俺が悪かった。
俺は心の中で優香に謝罪すると、意を決して告げた。
ここで黙っておいて、内心こっそりえっちな鑑賞会をし続けるっていうのは、あまりにも男らしくないから。
「そのままだと、ちょっと目のやり場に困るからさ」
「目のやり場? ……はうっ!?」
俺の意図を察した優香が、両手で胸を隠すように抱きかかえる。
そして頬を赤らめながら、ちょっと抗議するように上目づかいで見つめてきた。
「ご、ごめん。つい」
「もぅ、蒼太くんのえっち……」
恥ずかしそうに言いながら、優香はジャージを着てくれた。
ジャージに手と頭を通す時に、胸が強調されてしまって、つい最後のお見送りをしてしまったのはここだけの話だ。
俺は優香が暑くないようにエアコンのスイッチを入れると、
「じゃあ次は俺が風呂に入ってくるから、その間はゆっくりしてて」
「ストレッチでもして待ってるね。それとドライヤーを借りていいかな?」
「もちろん。洗面所にあるから好きに使ってくれ」
「はーい」
優香と簡単な会話を交わしてから、二番風呂に入ったのだった。




