9. マクシミリアンSide① 従者
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「王も人が悪い。ライリーが十三になるのを待っている間に私を含めた全員が…いやあの無能だけはそこまで頭が回っているとは思えないが。その他の兄弟達がすでに継承争いに向けた準備を始めていたのをご存じだろうに。それとも―――それだけあの末妹に期待しておられるというのか」
ツーブロックに刈り上げられた金髪に碧眼の相貌は、若き頃の現王に似ているためライリー同様の側室出身ではあるが、王の血が濃くその身に流れているのが窺い知れる。
「まぁ、この国を私が頂くのはすでに決定事項だ。誰にも邪魔はさせないさ―――」
コンコンコンコン。
「っ誰だ!」
今日の予定はすでに終わっているため、来訪者は居ないはず。早速兄弟のうちの誰かが仕掛けてきたのかと考え、腰にさしてある剣の握り部分に手を触れつつ、椅子から立ち上がる。
「マクシミリアン様、ガルシアでございます」
自身の専属騎士の声を聞き、多少の警戒を緩めるものの扉を開けることはしない。
「用件は?」
「頼まれていた授業の準備が整いました。いつお渡しすればよろしいでしょうか?」
その言葉で扉越しの人物が本物のガルシアであることを確信し、中に入るよう命令する。
するとガルシアは入室するや否や、マクシミリアンの前に跪き、武器を所持していないことを示すために掌を天井に向けて頭を垂れる。
「音魔法―――静寂の揺り籠」
詠唱がされた途端、先程まで聞こえていた風の音や練兵場にいる兵士たちの鍛錬の声が聞こえなくなる。その異変にガルシアは驚いた様子をみせることなく、ただ黙って主の次の言葉を待つ。
マクシミリアンは、目の前で跪くガルシアを眺めつつ椅子に座るとつま先を彼の掌にのせる。
「……ガルシア」
「はっ!」
「何故事前に来訪を告げておかない?私に手間を取らせるなとあれほど言ったはずだ」
「はっ!申し訳ご―――」
無防備な掌にマクシミリアンは無言でかかと落としを食らわせる。その不意打ちにガルシアは顔を歪めるものの、手を引っ込めることはせず口を閉じる。
「理由を聞いているのだ。言い訳で私の貴重な時間を使うな」
話す許可を与えるのを示すためか、先程の攻撃で赤くなっているガルシアの右手に再びつま先をのせる。
「私の不手際でございます」
「そうか。次はない、そう心得ろ」
「はっ!」
「日時は追って連絡する。準備は怠るな、私を失望させるなよ」
つま先が退いたのを確認して、ガルシアはマクシミリアンに向かって一礼すると部屋を後にする。そんな臣下の背中を見届けると魔法の解除を行い、窓の外を眺める。
「あぁ、今宵は新月か」