8. 2日目 心配
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「ライリー様!わたくし共と校舎内を見学しに行かれませんか?」
自己紹介の時間が終わり、解散を告げられた生徒達は各々が早くにも派閥を形成しようと動いていた。そして、その派閥の代表にどうやら私は選ばれたらしい。
「すまないが、今日は一人でゆっくり見回りたいと考えていたんだ。私は遠慮させてもらうよ」
話しかけてきた女子生徒とその取り巻き達は全員、公爵家と侯爵家の出身だな。彼女らの後ろで様子を窺っている男子グループの構成メンバーも似たようなものか。
これでは、いじめが発生するのも時間の問題かもしれないな。だが、男爵家などの身分が低いもの同士で大きなグループが出来ているから、まだそうなるとは断定出来ないな。
だが、そんな事は私には関係ない。いじめが起ころうが起こらまいが、中立の立場でいさせてもらう。そのためにも、私はこれ以上他の者達に話しかけられないよう、さっさと教室から退避するとしよう。
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さて教室から出たはいいものの、何処に向かおうか。まずは図書室にでも行くとするか?
いや、その前に実験棟に向かうのが良いかもしれないな。この国の魔法に対する研究がどこまで進んでいるのかこの目で見る必要があるしな。うん、そうするか。
見学先も決まり、廊下に貼られている院内図とにらっめこをした後、一年の教室がある棟と実験棟とを繋げる渡り廊下を歩いていると窓の外にあの人がいるのが見えた。
(アリア姉上…)
「一人…なのか」
別に意外という訳ではない。姉上が王族内でも歴代最低の魔力量しか持たないことは王国内では周知の事実だ。そんな王位継承争いで勝ち目のない姉上にすり寄ろうとする物好きがいないのは不思議ではない。そんな貴族が居たら、怪しさ極まれりというやつだな。
―――だから、兄上達もアリア姉上を殺すことはしない。
王族を殺すのに暗殺以外の手段は好まれない。その理由としては、単純に外聞が悪いからだ。いくら国民全員が継承争いの苛烈さを知っていようと、穏便に処理したほうが後の政治に悪影響を及ぼす可能性が低いのは百も承知だ。だから、いくらアリア姉上に力が無いと言っても公衆の面前で陥れるような真似をあの計算高い兄上達がする筈もない。人、一人処分するのにどれだけの労力が掛かるのかをあの人達は知っているから。
(まぁ、それでも心配だから、昨日の時点で兄上達への脅威となる可能性が最もあるのは私だと挑発しておいたんだがな)
暗殺対策として防御魔法はかけているが、一日中気を張っている訳にもいかないし何か策を用意する必要があるなぁ。思わず溜息をつきながら、私は視線を窓から外して実験棟へと向かった。