43. 6日目 面倒なヤツ
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(交渉は成立だ。貴様が余を楽しませる間だけこの力を貸してやろう……忘れるな。期待を裏切ったその瞬間、その魂は余のモノとする)
あぁ…………魂なぞくれてやる。姉上の幸せを天秤にかければソレはあまりにも軽い代償だ。
(ほう?どうやら、モンスターにとって魂がどれほど価値のあるものかを知らんらしい)
知らないな。だが、そんな事―――どうでもいい。それよりもお前との交渉は成立したんだ。いい加減名前を教えろ。
(名前など無いぞ。我々は魔力で個体を識別する。人間と違って名など不要の類である)
では、お前がいうオーグは何と呼んでいたんだ?
(………それは教えてやらん。あやつと余の二人だけの秘密だ)
なら―――ヴェラデールはどうだ?
(それは貴様の国の言葉か?)
いいや。旅の者達が行っていた単語だ。それが何を指すのかは解らないが、姿形に加えて名前も教えない貴様にはお似合いだと思っただけだ。
(意味が無い名か…理由は気に食わんが響きは気に入った。これからはヴェラデールと名乗ってやろう)
なら、ヴェラデール…早く私を元居た場所に帰せ。もうナーガリヤ先生が他の先生方に私が消えた事を話しているはずだ。帰りが遅れれば遅れるほど事態の収束に時間が掛かってしまう。
(……余は貴様の下僕になったつもりはないぞ。言葉に気をつけよ、人間)
はぁ……指図されるのが嫌なら頭を使うんだな。この状況を客観視するのであれば、私を元の場所に帰すのは自然と選択肢に入る筈だ。
(貴様の尺度で余の言動の意図を測ろうとするな。そも、貴様の生殺与奪の権を誰が握っているのか、もう解らなくなったとみえる。今ここでもう一度骨の髄まで叩き込んでやるとしよう)
少し煽られたぐらいでここまで短絡的な考えができるのであれば、なおさら飼い主が必要なのではないか?ヴェラデール―――今の私には貴様と闘えるだけの魔力がないとは言え、売られた喧嘩は買うぞ。
(闘うだと……笑えぬな。先ほどまでの無様な自分を今一度思い返せ。貴様が叶ったのは余に暴言を吐いたことだけ。一筋の傷さえ与えることの出来なかった貴様が大口を叩くな。それとも余がこのまま舌戦に飽きて貴様を素直に送り返すとでも考えたか?それこそ思慮が足らぬな)
誰がそのような楽観的な思考に陥ると考える?ここで私が死ねば、貴様がオーグの死後に過ごしたつまらない日々を繰り返すことになると教えてやっているのが何時になったら伝わる。それとも人語はまだ完璧ではなかったか。
(貴様が余に見せる世界は余の力を前提としたもの、何故そこまで強気な態度でいられるのか理解するつもりは元よりないが……。貴様一人ごときの人生、いつでも余の思うままに操ることが出来る。さっさと戻るがよい)
毎度こういう事になるなら少し対策を練った方が良さそうだ………時間の無駄遣いが過ぎる。
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「あっ…ミズ・エルヴィスっ!!!戻られたのですね!?」
「えぇ、何とか。それよりも…誰かにこの事を伝えられたりは?」
「―――いいえ。貴女が王族であることを鑑みても早急に助けを呼ぶべきなのは理解していましたが、正直に申し上げますとおそらく大丈夫である、と私の中でそう結論に至りましたので」
「して、その理由は?」
なんとなく予想はつくが……
「これしきの事で死ぬのなら王にはなれないでしょう?」
これしきと言いながら貴女だって一歩間違えていたら死ぬところだったんですがね!?
「それよりも、あのモンスターの調教に成功したのでしょう!?どこにいるんです!!!は、はやく調べさせてください!!!」
『ヨノカラダニ、キョウミガアルトハ、シュショウナココロガケデアルゾ。ダガ、ニンゲンナゾニ、フレサセルナド、キョウキノサタデアロウ』
普段は影の中で過ごすとか言っておきながら、自分の言葉を撤回するのが随分と早いな。
まったく………私の影から出てきたかと思えば、勝手な事を…。まぁ私もモンスターの生態に多少の興味はあるが、そもそもまだヴェラデールの姿を未だに視認できていない。いつになったら見えるようになるのか。
「はぁっ!あぁ、なんと重く腹の底に響き渡る声ででしょう!!けれど…う~ん、触らせて頂けないのですね。仕方がありません。今回は諦めますが、また次回の授業でお伺いするとしましょう。では、ミズ・エルヴィス。また今度」
「はい」
あれほどの事が起きたというのに平然とした様子で教室を去るナーガリヤを見て、呆れと疲れを含んだ溜息を思わず吐いてしまう。
もう疲労困憊だ。残りの授業なぞ受けてられるか。
(ヴェラデール)
(ナンダ)
ほう…試しにやってみたが声に出さずとも意思疎通は可能なようだな。
(私は授業を早退するが、お前には学校に残って姉上の護衛を任せたい。もちろん、影の中からだ)
(ソノネガイヲ、キキイレタツモリハナイゾ。アホウガ。ヨノチカラハヨノタメダケニ、ツカウモノダ。キサマノサシズハキカン)
(今、押し問答を繰り広げるつもりはない。とにかく姉上の許に行く。お前はただ姉上の影に入っていればいいんだ)
(フザケルナ。ナンド、イワセルツモリダ。キサマゴトキガ、ヨニ、メイレイスルデナイ)
(姉上がどのような人間か見てもいないくせに、初めからやらないなどと…。私の尺度で物を言われたくなければお前が実際にその目で守護に値する人間か決めればいい。とにかく行くからな)
授業が終わり、今は休み時間のはずだ。それなら院内の庭園にいらっしゃるはず。この傲慢不遜なモンスターには口で言ったところで動きやしない。結局は自分の意志でやらせるしかないのだ。興味を駆り立てるような物言いで何とか重い腰を上げさせるしか手立てはない。
(見えるか?あれが私の姉上であるアリア・エルヴィスだ)
(…………)
今日もお綺麗だ。表情はいつものことながら寂しげな感じだが、お元気そうだな。取り敢えずは一安心だ。
(オイ、ニンゲン)
(なんだ気が変わったか?それなら早くあの方の許へ行っ―――)
(―――ナニカ、アレバコエヲカケヨ。ヨハアヤツノ、カゲニモグル)
(あ、あぁ、わかった)
急なやる気を見せたヴェラデールは私の影から壁伝いに姉上の影へと入っていった。
本当に自分勝手な奴だな。まぁ自分が選択した行動には責任を持つだろうし、これで悩みの種が一つ消えたな。―――油断する気はさらさらないがな。現時点で…だ。
さて、それであれば実験室に籠るのも手だな。今、屋敷はルーナとレイラの二人がいるし自分で家事を行う理由も必要もなくなったし。
「行くか……」
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「以前の実験で魔力回路の違いは記すことが出来ているから、少量の魔力でも発動できる新しい魔法の開発と複合魔法の研究でも進めるか」
複合魔法はあまりお目にかかれないモノだ。直近で言えばクラウスと彼の同僚で発動された風と氷の『雹風の守護壁』だが。そもそも複合魔法の発動条件はそう簡単なものではない。まず定められた基礎属性―――風、水、火、闇、光。それら五つの属性から派生した系統魔法は発見されているだけで三十以上。魔法の才を有する者であれば、系統魔法を編み出すのもそう難しくはないため今後ますますその数は増えていくとされている。
例えば、風の系統であれば音や探知魔法。闇であれば幻影魔法。水で言えば氷魔法が挙がるだろう。そして、それらの系統魔法の上位とされるのが複合魔法。これの発動条件は二つ以上の魔法に込められた魔力量が同一でなければならず属性の相性が相反してはならない。
「魔力量を同一にするのが難しすぎるんだよなぁ」
少しの違いでも魔力が弾け飛び、失敗は込められた魔力が多いほど危険を伴うようになる。それを戦闘中に成功させた彼らはそれだけ長い時間を共にしてきたのだろうな。
「だが…わざわざ複数人で発動させようとするから難易度が上がるのだ。私一人でやれば成功率十割とはいかないが、そこそこの数で成功させられるだろう。……それに王家の面々は一人で複合魔法を発動できる力量の持ち主が多かったし、私にとっては難題ではない」
問題は―――戦闘中に発動できるか、という一点だ。
「戦闘中にそこまでの集中力を保てるかが解らないな…。昔から細かい作業で長時間の集中力を強いられたモノで成功したのなんか数える程度にしかないのだが」
たぶん魔法陣の写しの課題ぐらいか?唯一、家庭教師役の貴族に褒められた記憶がある課題だった気がする。
まぁ、とにかく複合魔法の試し打ちをしてみるか…。その後に魔法の開発を始めよう。
投稿が遅くなり、申し訳ございません。
体調を崩して、ちょっと入院してました…。まだ体力が万全ではないですが、さすがに前回投稿から一か月が経ってしまったので頑張ります。読者の皆様には大変お待たせしてしまい、すみませんでした。




