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側室出身王女と正室出身王女の世界転覆  作者: 空色 蒼
第一章 貴族院編
41/43

41. 6日目 卑怯とは

これで5500文字ぐらいです。

一話につき毎回5000字オーバーは大変ですが、長い方が好みという読者様の声が多ければその方向で執筆活動を続けていくかもしれません。

正直、途中で力尽きる未来が……どうぞお楽しみ下さい。

□■□ 



 「よぉーし、次はお前等の番だ。……へぇ、お前が噂のお転婆王女様か」


 「そのような呼ばれ方をする謂れはないと思うのですが、期待していただけるならこちらのやる気も出るというものです。まぁ、相手がカイル殿の時点で手を抜くなんて考えは捨てていますがね」


 魔法省局長である父親の名を汚すような無様な試合を彼がやるとは考えられない。それに元々彼の家の教育が貴族の中でも厳しいモノだと伝え聞く。


 「なるほど。お相手は局長のお坊ちゃんか。これは楽しい対戦カードだなぁ!!!」


 「私を過小評価しないことは感謝しますが、過大評価は嫌ですね。それに家柄が高位であっても才能が伴うかは別の問題です。ライリー様なら()()()()()()()()でしょうが」


 ―――その薄ら笑いを今すぐ苦痛の表情に歪ませてやりたいな。

 ふぅ…彼には感謝してほしいな。王族は感情を徹底的に嚙み殺す教育が施されるから激情に近い心の揺れほど表に出なくなってしまうんだ。


 今の感情が表に出せたら、私は一体どんな顔をしているかな。


 「貴殿からのお誘いだ。最初から最後まで楽しませてくれるんだろう?」


 「えぇ、もちろん。()()は万端ですよ」


 準備ね……何をしてくるのか知らないが警戒はしておくに越したことはないか。そもそも、予め今日の授業については知っていた事に疑念を持つべきだろうが、今更な話だしごちゃごちゃ物を考えすぎても後の動きに精彩を欠く。

 今日の試合が彼にとってどのような意味を成すのか興味も湧かないが、私の目の前で姉上を馬鹿にしたこと後悔させてやる。


 「おうおう。どうやらイイ感じにボルテージがあがってるみたいだな。そのまま試合に臨んでもらおうかぁ!!これよりライリー・エルヴィスとカイル・ヴィルドの両名における魔法戦闘組手を執り行う。それでは第六組目、試合開始だぁ!」


 イムラン先生の掛け声と共に距離をとったカイル殿がまずは先手を打ってくる。ヴィルド家に名を連ねる者は複数属性の適合者が多い。さぁ…どれで来る?


 「煙魔法―――紫苑の迷い人!!!」


 煙魔法?系統魔法を使うとは予想外。

 ヒトの形をなした煙人形の数十体が私を取り囲み、攻撃を仕掛けてくる。重量の無い煙の攻撃で甚大なダメージを受けるとも思えないが、彼の事だ…何か罠があっても不思議ではない。


 「風魔法―――暴風!」


 煙なら風には弱いだろう?

 ―――吹き飛んでしまえ。


 「やはり風を選びましたか。いくつもの属性を操れるのは既に聞かされていましたからね。対策は立てやすかったですよ」


 それはどういう意味だ?


 「フッ。そんなに眉を顰めなくても私の意図はすぐに解りますよ!魔法解除!」


 指を鳴らしたと同時に人形達が霧散する。


 (煙が…)


 一斉に解除された人形の煙が私の魔法に乗って、試合会場全体を覆う。辛うじてカイル殿とイムラン先生は視認できるが、他の生徒達の様子はわからないほどに視界が悪い。戦闘において、相手の五感を潰すのは定石だが本当にソレだけが目的か?


 「なに…この煙、なんか……甘い香り?」

 「っん…あ、れ…頭が、ボーっとして……」


 香り…何か薬品が混ざっているのか。だとすればマズイ!


 「吹き荒れろ!」


 周囲の煙をさらなる風で吹き飛ばすが…


 「悪手ですよ」


 だろうな。

 狙いは私ではなく、周囲の生徒達だったという訳だ。最後の私が飛ばした煙が決め手となってしまったようで他の生徒達の避難が間に合わず、全員が煙を吸い込んでしまった。


 「……流石に院で教職が務まるレベルの方には、初手から作戦がお見通しという訳ですか」


 私達二人を遥か上空から見下ろすイムランに彼がそう言葉をかける。いつから上に避難していたのか…まるで判らなかった。


 「ったくよぉーーー!せっかくアガル試合になると思ったのにテメェ―――つまんねぇ真似しやがって。…だが、ルールに反していない以上お前の勝手だ。ここまでヤルんならそこの王女様ぐらい倒してもらわねぇと俺の気が収まらないぜ?」


 「貴方に言われなくとも、最初からそのつもりです」


 やれやれ、当事者を差し置いて随分と舐めた事を言ってくれる。


 「面白い。是非ともやってみてくれ」


 彼が私の挑発に乗るかのように、更なる煙魔法を生徒達目掛けて展開し出した。


 「準備は整ったかい?」


 「そうですね。」あともう一つ…という段階までは」


 「そうか。だが、わざわざソレを待ってやる優しさを残念ながら持ち合わせていなくてね!」


 「風魔法―――風雲。鎌鼬の息吹。双刀流」


 風雲で体を浮かし、息吹で身体に風を纏わせ、さらに両腕を中心に乱回転の風の刀を創り出す。さぁ、煙でどこまで耐えられるかテストをしてあげよう。


 「ハァっっ!」


 両刀を彼の頭目掛けて振り下ろすが、さすがに動きが単調で避けられる。続けざまに纏わした風を流して小さな竜巻を腹にぶち当てようとしたがこれも避けるか。魔法だけでなく、身体能力の向上にも余念がない教育がされているな。


 ―――だが、まだまだ。


 「これはどう避ける?―――乱れ切り!!」


 跳弾のイメージで空を駆け回りながら、四方八方に風の刃を飛ばしていく。不可視の刃は空を切る音が目立つために避けられる可能性は低くはないが、これで煙魔法の防御力が測れる。


 「誰が攻撃の選択をしないと言いました?」


 「それぐらいの予測はしてあるに決まっているだろう?」


 刃の隙間を搔い潜りながら、真っ向勝負を仕掛けてくるカイルに向かって両腕の刀の回転数をさらに上げていく。


 「煙魔法―――浮縄」


 私の刀に煙の縄が絡まり、一瞬風の動きが弱まるのを彼が見逃す筈もない。そのまま縄を引っ張り私の体勢を崩して腹に強烈な蹴りを入れてくれた。


 「っ、グハぁっっ……!」


 何とか地面に突っ込むのは免れたが、痛みに無防備となった私を彼は縄を豪快にも回しはじめ私の身体は好いように回される。遠心力と自身が纏う風の影響で腕を動かすという動作でさえ叶わないほどの負荷が全身を襲う。


 「私を見下すな!ライリー・エルヴィス!!!煙魔法―――死人の籠!」


 「うぐっ…!っかは!!」


 宙に出現した檻に叩き潰されるようにして私は地面へと撃墜し、檻の中へと閉じ込められた。…回転のせいで眩暈と吐き気が。だがそんな事は彼にとってはどうでもいいことで、無様にも地に堕ちた私を今までは隠していたのであろう嫌悪の籠った眼差しで睨む。


 「たかだか王族に生まれたぐらいで、私を蔑みやがって!そんなに下の者共と仲良しごっこをやりたいのであれば、やらせてあげますよ!!煙魔法―――混然の枷!さぁ……身の程知らずの貴女様に対する刑罰のお知らせでございます。心ゆくまでお楽しみ下さい」


 彼の言葉に惹きつけられたかの如く、今まで試合を静観していた生徒達が虚ろな目でこちらを見ながら、まるで獣のように体当たりをしたり、意味を持たない呻き声を上げながら閉ざされた檻の中へと入ってこようとする。


 「……彼らにナニを使った?」


 「いつまで自分が優位な立場でいる気ですか。貴女の妄言はここでお終いです。守るべき国民に惨めに…ヤラれていろ」


 「ここまで嫌われているのが解ると、それはそれで清々しさがあるのは不思議だ」


 私以外の全ての人間が敵である状況で呑気にそのような事を呟いたのが、彼の勘に触ったのだろうな。舌打ちを隠す気すら起きなかったようで、檻から十分な距離を取ると再び指を鳴らし檻の魔法を解除した。


 「うぅぅああああ!」

 「おぅぐおおおぉぉ!」


 …まだ眩暈が治まらないがそんな事を考える隙も与えてくれないそうだ。幸いにも先ほどの衝撃で縄は外された。


 「暴風!」


 「ぐがぁぁっ……」

 「っっだぁぁ…!!」


 吹き飛ばされた生徒達の言動に理性の欠片も見受けられない。まるで獣ではないか。

 爪を立てて攻撃してくる者、こちらの頸に嚙みつこうとしてくる者、それ以外にも這いつくばって足に絡みついてくる者。


 「っく……離れろ!」


 自分を起点に風を巻き上げてどうにか生徒達を吹き飛ばそうとするが……厄介な事に痛みを知覚できないのか躊躇いなく私への攻撃を続けてくる。


 意識障害に感覚の麻痺…さらには幻覚症状か?


 「ふざけた物を使ってくれる」


 「まさか卑怯とは言いますまい。勝負に万全を期すのは当たり前のことであり、それがこの試合のルールでもあると教師自身の口から告げられたではないですか。そういえば…この娘と仲良くしていましたね。どれ…」


 ……ステラ嬢。

 友人関係になったのはつい数日前の話。この…どこまでも相手を追い詰めるやり口。


 「答えろ、カイル殿。―――これは()()()()()か?」


 「……はて、何のお話で?私は入学当時から貴女様が気に食わなかっただけですよ。それよりも良いのですか?私にかまけていては……隙だらけだぞ?」


 「ぐるぅぅっ!!!」


 横からの攻撃が見えていない訳がないだろう。


 「眩暈もなくなったことだし問題ない。風魔法―――不可視の障壁」


 周囲の生徒達を障壁を動かして、会場の壁へと激突させる。手加減をしたいのは山々だが、もう起き上がられると面倒でね。遠慮なくヤラせてもらったよ。大丈夫。この院の治療魔法師は優秀だ。折れた骨が神経や臓器を深刻なレベルで傷つけていなければ、リハビリ次第で元の生活を送れるようになる。


 「随分と乱暴になさるのですね。()()()であったのでは?」


 「彼女も魔法使いだ。これぐらいの怪我で喚く器量ではないだろう。それよりも…だ。今回の件、失敗すれば首を切られるのを解っての行動か?」


 上空にいるイムランの事もお構いなしに竜巻を四つ、五つと創り上げてカイルへと飛ばす。しかし慌てることなく彼も魔法で応戦する。


 「先程から訳の分からない事を言うのはやめていただけますか?」


 煙の弾丸か…。見るからに通常の煙とは異なるな。

 なるほど、避けたら避けたで煙の特質を活かして形状変化か。あの網に捕まっては同じ轍を踏むことになる。さて……


 「煙と言ってもその本質は水蒸気の塊。ならばその水蒸気を個体へと状態変化させ、煙の硬質化を図れば金属に近い強度は出せるのですよ。系統魔法だからと侮る魔法使いは三流にも劣る。要は頭の使いようなのです」


 その意見には賛成だが人を貶める言葉を吐かないと君は満足できない性質なのかい?


 「小細工は結構だが、時としてゴリ押しも大切だと思うがな。風魔法―――ダウンバースト」


 風の暴力をその身に受けろ。


 「ーーーっちぃ!」


 硬質化させた煙を繭にして籠るとは、よく考えるものだな。イムランの言葉が過大評価だと彼は言ったが、実力と頭の回転の速さはここにいる生徒の中では上位だと断言できる。

 それにしても頑なに兄上の関与を認めようとしないが、まさか本当に独断で今回の事を仕掛けたのか?だとすれば、兄上の耳に入った瞬間彼の貴族人生が終わりを告げるかもしれないな。


 ……まぁ?姉上を馬鹿にしたコイツが、私に負けた後でどうなろうが知ったことではないが。


 「いい加減この試合も終えようか。最初は良かったが魔法を連発しすぎたな。もう魔力があまり残っていないのだろう?疲れが見える」


 「………」


 「風魔法―――暴風竜の爪撃」


 ―――ハハッ。


 (なぜ笑って…?)


 「やれぇぇ!!」


 後ろ!?ハリソン……!


 「しまっ―――」


 「―――そこまでです」


 ナイフで私の脇腹目掛けて迫ってきたハリソン殿が糸が切れたかのようにバタリと地面に伏した。突然の事態に呆けていた私に代わって、カイル殿が血走った眼で試合の邪魔をした女性に向かって怒鳴り散らかす。


 「なっ、なぜ邪魔をした!貴様のせいで私の作戦が失敗だ!」


 てっきり医務室に運び込まれたと思われたハリソン殿にまであの煙を嗅がせていたのか。あの女性が入り込まなければかなりの大怪我を負っていた事だろう。そうなれば兄上や姉上達からの刺客が迫り、この継承戦から最初の脱落者として皆の記憶に残る未来を辿る羽目になっていた。


 「おいおい、クソババァ。何やってくれてんだ?」


 上空から私達の試合を静観していたイムランが老婆と断言するには背筋がピンとした女性に文句を吐く。


 「それはこちらの台詞よ、考えなし。あれのどこが組手ですか。由緒正しき伝統を間違った知識として伝え、あまつさえソレを容認するとは……。それに一対一の試合でなぜ第三者が乱入しているのですか。卑怯を通り越して滑稽ですね」


 「うるせぇ―――俺のやり方に口を出すな。手を出すな。闘いはいつだって卑怯の連続だ。どれだけ相手より卑劣になれるかが勝利を呼び寄せる鍵だ。正々堂々の勝負がしたいなら、能力もないどこぞの聖騎士団に入ればいい。あそこは清廉潔白変人の巣窟だろう?アンタみたいな偏屈ババァにはお似合いだぜ」


 なるほど水と油。犬猿の仲という訳か。カイル殿の言葉を無視して二人で舌戦を繰り広げ始めたぞ。


 「私を無視するな!」


 「「うる(さい)(せぇ)!!!」」


 貴方達二人の方がよっぽど騒がしいですが……ここは放っておいて試合に巻き込んだ生徒達をとっとと医務室に運んだ方が時間を有効活用できそうだ。


 「くっそ!この私をコケにして、ただで済むと思うな……」


 その言葉…そっくりそのままお返しされるだろう。


 兄上………マクシミリアン兄上の耳に今日の出来事が入れば貴殿の兄も余程のメリットが無ければ、良くて切り捨てられ。……最悪腕の一本は使い物にならなくされるかもな。


 (そうなったら腕の良い義肢装具士を紹介してやろう)


 さて、彼の処遇はいいとしてこれだけは済ませておかないと。


 「カイル殿。この勝負、私の勝ちということでよろしいな?」


 「……このような勝ち方でも嬉しいのであれば、喜んでお譲りします」


 そうか、どうもありがとう。


 「それでは、お礼をしないとな。―――受け取れぇ!」


 バゴンッ!

 

 「ヒュ~~。良い右ストレートだぜ」


 姉上を侮辱した罪は重いぞ、この三下。



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