39. 番外編 作戦終了
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「お忙しい中、時間をつくっていただきありがとうございます。秋とはいえ、まだ蒸し暑い季節ですので、早速会場の方へとご案内いたします。どうぞ、こちらへ」
姉上の御者の対応はルーナに任せて、私たち二人は会場へと足を向ける。その短い道中には様々な花が咲き誇り、花がお好きな姉上の緊張が少しでもほぐれていたらと良いなと心の内で考えてしまう。男装を好む傾向にある私だが、女性をエスコートする機会に恵まれた事は残念ながらなかったため正直な所このような感じで合っているのか―――全く解らない。
よく物語で登場するような見目麗しい男装令嬢の振舞いが出来たらば…などと今更どうにもできない事を頭の中で押し問答かのように繰り返し考えてしまうのは何故だろうか。やはり先ほどの彼女の発言が頭の片隅で反芻されているからか。
(後ろに振り向いて、今姉上がどのような表情をされているのか窺いたい…が、もし今日の茶会を楽しみではなかったなどと解ってしまったら)
「少し段差がありますので、お気を付けください」
「はい…」
―――それが怖くて目も合わせられない。
ここで手でも引いて差し上げたら喜ぶのではないかと、考えることは出来ても実行に移さないのが意気地の無さをよく体現していると、自虐としては些かつまらない言葉も今日はよく頭の中を駆け回る。
「どうぞ、中へお入りください。小さな会場ですが今日の茶会は私と姉上だけですので、十分お楽しみいただけるかと」
今度は目を合わせてみるが、姉上はこちらに視線をくれることなくただ頷いた。
「姉上、こちらへ」
茶会の主として招待客をもてなす為にも一通り礼儀作法はルーナから教えてもらった。まずは、客人の椅子を引いて座らせ、相手の緊張をほぐす話題を振ること。
―――よし、その椅子を引くというエスコートは問題ない。だが話題が……
「あの……ライリー様」
「何でしょう?」
今きちんと微笑み返せているか―――私よ!
まさか姉上から話しかけてもらえるとは!!!
「その、このような事をお訊ねするのは貴族として、ましてや淑女としてどうかとは解っているのですがあえて言葉にさせて下さい」
「はっ…はい」
「なぜ私を今日の茶会に呼んだのでしょうか?」
………えっと、これは貴族的な言い回しを用いた言葉なのか?それとも本当に言葉通りの意味なのか?もし言葉通りとするなら、それはもちろん姉上とお話する機会が欲しかったからと伝えるしなかい。だが、今の言葉に私にも解らないような言い回しが使われていたとしたら……姉上の前で恥をかくのだけは勘弁願いたい。
「と云う訳なので、お答えする前に一つよろしいですか?」
「何がそういう訳なのか解りませんでしたが、はい」
……ルーナの『姉上の事に関してはポンコツ』という言葉を今、身をもって実感してしまったよ。不本意にも。
「失礼しました。忘れてください。えっとですね…先ほどの言葉はそのままの意味でしょうか」
「えぇ、額面通りに受け取っていただいて構いません」
「なるほど。でしたら答えは簡単です。アリア姉上とお話する時間が欲しかったのですよ。城内では、私達の関係性は正室出身の王女と側室出身の王女であり誰も姉妹としては扱ってくれない。そのせいで、姉上も含めた他の兄弟達と日常会話をする機会がなく、私はソレが嫌だったというだけです」
半分と言えど、せっかく血のつながった兄弟姉妹であるのなら仲良くしたい。それが本心だ。
「そうでしたか、ライリー様のお考えは解りました」
「っなら!」
姉上の手が私の顔の前へと突き出され、思わず口を閉ざした
「ですが、今の関係性を崩すことは出来ません。先ほど、ライリー様はこう仰いましたね。『私達の関係性は正室出身の王女と側室出身の王女』と。しかし―――違いますよね?」
「違う…とはどういう事でしょうか」
姉上のお顔は悲痛にも似た何かの感情に押しつぶされそうな、その苦しみに無理やり蓋をしたような……それでいてどことなく笑っているようにも見え、彼女がその時に抱いていた感情が一体何なのか私には解らなかった。
「貴女様の実質的な立場はマクシミリアン様を凌ぐ王位継承権第一位、そして私は誰からの期待もない王位継承権第六位の身。貴族達がこうした噂をしているのは、すでにお耳に入られているかと存じます。表向きの立場など……この国では、何の力も権力も持たないのですよ」
失礼致しますという言葉と共に彼女は離席し、彼女が好きだろうと…喜ぶだろうと飾り付けられた花の良い香りが漂う会場に私は一人取り残された。




