27. 5日目 レイラSide③ 捕獲
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「ハァハァ……」
あのオンナ達が居た場所とは違って、すごく開けた場所に来た。周りのニンゲン達が息を切らせたボクを一瞥するとそのまま立ち去っていく。ボクもそんなヤツらの背中を目で追うだけでとにかく息を整えるために建物の壁に背中を預けて空を見上げた。雲一つない晴天が恨めしく感じる。
「ニンゲンは狂ってる。どいつもこいつも……こんな場所にいたらボクまでおかしくなっちゃいそうだ。でも、この国を出ようにもアイツが掛けた魔力制限をカイジョさせないと明日にはボクは……」
「―――見つけました!ライル様!!!」
なんだ!?急にオンナが路地から飛び出して来て、ボクの方へと一直線に向かってくる。くそ、アイツの仲間だな。
「ッチ。ボクは帰らないぞ!」
ボクだって獣人族の一人だ。そう簡単に捕まってたまるか。
「身体強化魔法―――大地の恵み」
「まずい!」
遅いよ。ボクは脚の強化を施して屋根裏へと飛び移る。ここらへんの建物は高いものばかりだから、あのオンナがここまで登ってくるのに時間は掛かる筈。その間に逃げ切ってやる。
「ふん!ニンゲンがボクに追いつける訳ないだろ。このまま振り切るだけだ」
屋根裏を次々に飛び越えながらボクは追手が来てないか後ろを確認する。ほらな、やっぱりニンゲンじゃボクの速度に追いつくなんてフカノウなんだ。
けど、さっきのオンナ…なんでニンゲンのくせして獣人族みたいな耳をつけてるんだ?匂いからしてニンゲン族なのは間違いないし、アイツの匂いも微かに感じたから獣人族な訳が…って考えるのは後だ。絶対にアイツも近くまで来ているはずだし、油断は出来ない。
「もうこのまま城壁を飛び越えちゃおうか…。アイツの魔法のカイジョは逃げ切った後に考えればいいんだし、そもそもアイツの言葉が真実だっていうカクショウはどこにもないんだ。そう、そうだよ!アイツが嘘をついているに決まってる。人の魔力にジョーケン付けなんて出来るはずないんだ!よし!ボクって天才だ!なら、あんなオンナにかまけてないでさっさとこの国から脱出してやる!!!」
アイツの姿が見えないから少し速度を緩めていたけど、もう城壁はすぐそこまで近づいてる。このままコレを飛び越えてしまえば、アイツらはきっとボクを諦める。なら!
「全速で走り切ってやる!―――これでボクは自由だ!」
「―――逃がさない」
―――えっ。
「うぐっ!!!い、イッたい!離せ、このニンゲン!」
「はぁ、手間を掛けさせないで下さい。―――ライル様、捕まえました。南東方向の城壁付近です」
いつの間にかボクはさっきのオンナに誰かの家の屋上で組み伏せられてて、らいる?とかいう知らないヤツと会話しているのをじっと聞かされた。腕を振りほどこうにもこのオンナに関節を極められてて、下手に動くとボクのホネが折れちゃいそうで諦めるしかなかった。それでもボクはこのオンナに負けを認めた訳じゃないと、射殺すような眼で睨み続けた。
それにオンナはどうでもいいとばかりにボクと目を合わせなくなったけど、コウソクを解く気配はないし万事休すだ。このまま、らいるってヤツが来るまで地べたに這いつくばるしか出来ないなんて……。
―――トンっと目の前で音が鳴った。
オンナのコウソクのせいで顔が上げられないボクはただ、らいるってヤツが来たんだと解った。そのままコツン、コツンと革靴の踵で音を立てながらソイツが近づいてくる。そしてその足がボクの目と鼻の先まで来たところで、歩みが止まった。
「ふぅ…良かったよ、見つかってくれて。ありがとう、ルーナ。君のおかげだ」
「いいえ、私はライル様のお望み通りに行動したまでです。ですが―――もしルーナの功績を認めて下さるのであれば、ライル様?もう今後この様な事は控えて下さいね」
「あ~、うん。すまなかった」
「ご理解いただけたのなら、私としては満足です。それでは拘束を外しますよ?」
「頼む」
じっと会話を聞いていたら、ボクの上に乗っていたオンナがどいた。それにボクはチャンスだとばかりに立ち上がるけど―――
「―――動くな」
「クっ……」
逃げ出そうとする前に立ち上がった体勢で魔力によって動きを止められた。
「そういう事か…オマエ、それ変装だな?」
この目の前にいる男の言葉に反応して、ボクの首輪が浮かび上がった。ならコイツの正体は決まってる。
「そうだよ、レイラ。私だ」
「よくボクの前に顔を見せようと思ったな?このニンゲン!」
魔法でも使っていたのか、コイツが腕を横に振り払うと一瞬にして服や体格、顔がボクの知っているオンナのモノになった。
「はぁ…レイラ。誤解だよ、私は君を守りたくてだな」
「守りたい!?テキトーな事を言うのもタイガイにしろ。お前が守りたいのは自分以外のニンゲン族だろ?ソイツらの生活の脅威となるボクをどうにかしたいだけなんだろ!」
「貴女ねぇ!」
オウジョの横で黙っていたオンナが何故か生えている尻尾をビンっと真っすぐに伸ばしながら、怒った声でボクの言葉を制止しようとする。けど、コイツが何か続きを言う前にオウジョがその肩に手をのせて憂いを帯びた表情でオンナを見つめる。
それには逆らえないとばかりにオンナはしゅんと項垂れたかと思うと、一歩下がってボクらの対話を静観する態度を示した。
「幻影魔法―――陽炎の帳。これで私達の声も姿も外からは見えない。思う存分話を続けよう」
「ボクがオマエと話す事なんて何もない」
「そうか…。じゃあ私が話そう。まずはすまなかった。君を今の立場に追い込んだのは私なのに、それをさも君が望んだ事かのように言ってしまって。謝るよ、すまない」
コイツはボクの目の前に立って、頭を下げる。その行為は一国のオウゾクがするべきものではないと知っていてなおやってるんだと思う。それだけボクに誠意を見せたいんだろうけど…。
「―――オマエは謝る気はあっても、ボクのこの首輪の魔法をカイジョする気はないんだろ?」
「あぁ、それは出来ない。レイラが人間族に危害を加えないと確信できない限り、私がその魔法を解くことはないな。だが、以前も伝えたが君を傷つけるつもりは毛頭ない。……今回は私の不用意な発言で君の心に要らぬ傷を与えてしまったが、それも今回で最後だと約束させて欲しい」
「……」
「レイラ、戻ってきてくれないか?…いや、意地悪な聞き方だったな。今の君には私が魔力の条件付けを施している状態だ。だから…このまま私の許を離れるというのなら、君がこれから生きてこの国の領土を出ることは叶わない。レイラが私を殺したいなら、ここで誤った選択をするべきではないと思うが?」
ズルいヤツだ…。ボクに選択肢なんて初めから一つだけだと言いたいんだろう?
いいよ、その挑発にのるよ。ボクだって、こんな所で死にたくなんかない。
「さっさと連れ戻せばいいだろ」
「わかった…ありがとう、レイラ。ルーナ、帰るぞ」
「はい、ライリー様」




