1. 1日目 側室出身王女
お楽しみください!
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王宮内を駆けまわる王女と侍女の姿がそこにはあった。
「私は嫌だと言っているんだ!いい加減にしてくれ、ルーナ!」
「そんな事を仰られても困ります。こちらも仕事なんですから!早くドレスにお着替えになって下さい、ライリー様!」
本当にルーナはしつこい。私は…言うなれば妾の娘なんだ。いくら王族だからって、こんな側室出身の王女にまであんな見るからに高そうなドレスを着させなくても良いだろうに。
毎日、毎日。まったく、このやり取りも覚えている限りで四千三百八十回目だぞ。ただでさえ、明日からは、威厳だの、権威だのを平民に見せつけるためと云う下らない理由のために余計な刺繍や装飾が施された貴族院の制服を着なければならなくなるというんだ。
今日ぐらい…いや、まぁ毎日反発しているのだが、服装くらいは自由にさせて欲しいものだ。あぁ、そうだ私なんかではなく―――ほら、やっぱり居た。
ルーナをまきつつ、私は王宮が誇る庭園が覗ける窓に近づいた。
「彼女こそがまさしく王女というものだよ」
私とはまさに正反対と言えるであろう上品な王女が庭園の中心に佇んでいた。その姿を眺めるのが、数年前から私の日課になっていた。彼女は庭園がお気に入りらしく、その姿を見かけてからというもの、私はルーナやその他の侍女たちの監視を搔い潜っては、この窓に来るようにしていた。
まぁ、この窓以外からでも庭園は見えるんだが、ここの窓が一番彼女からは見えにくい位置にあるんだ。
「ハァハァ…見つけましたよ、ライリー様!お願いですから、今日こそはドレスにお着替え下さいませ!午後は王との謁見があるのですよ!」
そんな事を考えていると、どうやらルーナに見つかったようだ。
「父上との謁見をそもそも中止にすればいいだろう。なぜ、側室出身の私に会いたがる!?」
「……それは王自身にお聞き下さい!さぁ、もう逃げられませんよ。今日はすでに近衛騎士団にも周辺は包囲していただいてもらっています。観念して下さいませ!」
(まったく。理由など聞かずとも周囲の態度で大体は解るというのに…それでも言わないのは彼女の優しさなのか、父上からの命令なのか。はぁ、判断し難いものだな)
「わかった。従うよ、ルーナ。着替えは、私の部屋でいいな?」
珍しく抵抗しない私に、怪訝な表情を見せるルーナだが。それよりもやっと言う事を聞いてくれたのがそんなにも嬉しかったのか涙目になっている。
(そこまで我が儘を言っているつもりは無いんだがな)
包囲させていた近衛騎士団の警戒を解除させ、私はルーナと自室に向かう。
その道中にもう一度だけ、王女―――アリア王女。この国の正室の娘である彼女をルーナに気付かれないよう横目で捉えてから足を進めていく。