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婚約破棄は構いませんが…、本当に私がそんなことをしたとお思いですか?私の本気は少々刺激が強いかと思いますけれど

作者: つちのこ

キーワードに挙げた言葉を繋ぎ合わせて書きました。もう一度念を押しますが、頭空っぽにして読むようにしてくださいね。お楽しみいただければ幸いです。

「セリエール・ディクスター!伯爵家令嬢でありながら、貴様のような非道を行う女が将来の王妃になるなど考えられない!よって、貴様との婚約を破棄し、新たにフェイザ・マサレ男爵令嬢と婚約を結び直すと第一王子の名のもとに宣言する!言い訳くらいは聞いてやろう!出てくるがいい!」


私の名前が呼ばれたことで、頭を抱えたくなりました。ここは我慢の一言です。しかし、こんなことを仕出かしてくれるとはという思いが溢れてきます。恥ずかしいとは思われないのでしょうか。思わないから仕出かしてくれるのでしょう。婚約破棄だって大人しく言ってくれれば諸手を挙げて賛成したというのに。


3年間通った王立学校の卒業式の後は、今後は身分に縛られてしまう私たちが無礼講で過ごすことのできる最後の歓談会です。領地で過ごしていたころから交流のある友人だけでなく、入学してから私のことを知っても仲良くしてくださる友人たちと過ごしているときのことでした。

卒業生は卒業式の前に成人の儀を済ませていることが必須です。我々は既に成人の扱いですから、ここには教員も最低限、当然保護者もおりません。安全上の問題については、今年は特に問題無いと判断されております。


婚約破棄についてはいずれされるだろうと感じておりました。しかし、せめてもう少し場を用意してからの方が良いと思いますが、いきなり宣言されてしまいました。これは私には理解しかねる事態が起こっているようです。婚約者のラカンスタ・ヘデッィク様が、いえ、どうやら念願の婚約破棄をして頂けるようですので、元婚約者の第一王子殿下で構いませんね。

偉そうに一段高いところに立っておられます。言ってやったと言わんばかりに鼻の穴を膨らませていらっしゃいますね。普段の発言は大人たちに厳しく制限されておられますから、自分で考えた発言が出来るのが嬉しいのでございましょう。制限されるのは発言全てに思いやりも労りも敬意も籠めないあなたの性根がさらされると困るからですよ。


それでも多少興奮しておられるのは大勢の前で発言ことに緊張されておられるからですね。その気持ちはよ~く分かりますわ。大勢が自分を見つめて、その発言に期待してくるというのは妙な高揚感を与えてくれますものね。


その発言でご自身の行く末がどうなるかまでお考えにならない点に関して、私は一切関知いたしませんが。


そして、殿下の傍にいる女性は……あぁ、やはりフェイザ・マサレ様ですね。私は一度も直接は話したことがありませんが。第一王子殿下の横にはふわふわのピンクブロンドの髪を持ち、普段は男性の庇護欲をそそる可愛らしい表情も、現在は不安そうな表情をしておられます。その薄い桃色の瞳も涙で濡れており、効果は倍増ですね。

しかし身に付けているドレスを見て驚きました。貴族令嬢としては、恥ずかしいほど肌を露出したドレスを着ていらっしゃいます。しかも何ですか、あれは…、男性にむ、胸を押し当てているではありませんか。ありえません!なんてふしだらな!


そんなことをするなんて貴族はおろか、平民の女性でもされる方はいらっしゃらないでしょう。伯爵領にいたときに話に聞いた娼婦という方がされるような行いですわ。私もやろうと思えば出来るだけのモノは持っておりますが、人前でなんてとても恥ずかしくて出来るようなことではありません。……私も少々混乱しているようです。

あんなドレスを着て来るとは知りませんでした。そこまでは興味が無かったですからね。しかし、隠すために苦しい思いをするのが貴族令嬢だというのに…。そんなドレスを着る女性もそうですが、そんな方を侍らせる殿下も何を考えておられるのでしょうか。もうどうでもよろしいですけれど。


あぁ、私の周りにいる友人たちがどうしたものかと様子を気にしてくださっていますね。いつまでたっても動こうとしない私を心配してくださっています。

問題ありませんよ。観察をしていただけですから。どういうことになろうと、婚約破棄さえして頂けるならどうにでもなりますもの。


「呼ばれたようですので行って参りますね」

「セリエール様…、決してお気になさらないでくださいね」

「落ち着いた行動をお取りくださいませ」

「感情に任せないとだけお約束ください!」


なぜそこまで言われてしまうのかしら。私のお友達はどうも心配性の方が多いので、歩き出したときに声をかけられてしまいました。いつものことですが、私が一人で行動しようとすると皆さん心配されます。

毎回のことですので、私も少々聞き疲れてしまいますわ。最近は心配されないように気を付けていますし、笑顔で見送りを受けます。


「お呼び頂きましたので参上致しました。第一王子殿下」

「遅い!呼ばれたらさっさと来ることくらいできないのか!…まあいい」


心配性のお友達がいる辺りから、少し悲鳴が聞こえたけれどこれくらいで怒ったりはしないのでそろそろ信用してほしいと思ってしまいますね。


「私の先程の言葉は聞いていただろうな?」

「はい。お言葉についてお伺いしても良いでしょうか」

「あぁ、構わない。非道を行うような輩を我が王国の貴族としておくことは許されない。詳らかにすることで、裁きへの理由を広く知らしめる!貴様の真の姿を皆にも知ってもらうこととしよう!」


元から大仰な言い方をされる方だったけれど、今日はより一段と激しい。婚約者となった3年前から全く変わっておられないわ。何が彼をあんな風に成長させてしまったというのでしょうか。教育係でしょうか。それとも元から悪かったでしょうか。


私と彼との出会いは入学直前です。貴族は15歳になったら王都にある王立学校に通うことになります。婚約は12歳までに結ぶことが多いのですけれど、私は諸事情によりまだ婚約相手が決まっていませんでした。

後から聞いた情報によると第一王子はあの態度を隠すことが無かったから王都在住の令嬢には断られ続けていたそうです。王家も隠そうとしたそうですが、こんな恥は隠しきれるものではございません。当然地方伯爵とはいえお父様も把握されていました。


しかし、第一王子の婚約が決まらないことに業を煮やした王家は非道な手段に出ました。断ることが出来ないようほぼ命令のような形で、わが家へ急な見合いの打診を出されました。余りにも急なため、断るのも難しい日程でした。入学に向けて準備していた私がすぐに出立しても王都への到着がギリギリの日程です。

お父様がお断りの返事を出しても、返事が地方へ届くころには日程は過ぎています。もし断固として欠席を認めないという返事だった場合、即王家への反抗の意志ありと見なされてしまいます。無理矢理に対面の約束を取り付けられてしまったのです。


しかも、お父様はあまりにいきなりのことだった故に一緒に行くことが出来ず、王立学校に通っていたお兄様が同席せざるを得ない事態となりました。王家はそれも想定済みだったのでしょう。提案してきたのは王家でしたから。


そうして開催された見合いは、学生のお兄様と入学前の小娘だけで王家の策略に踊らされることとなり、あっという間に婚約を結ばされることになってしまいました。

領地への見返りが大きくあったため、お父様も大きく反抗することが出来ませんでした。


「領民のために、許してくれ。ただ、お前がどうしても無理だと思った時は本気を出して良い。まだブレイズが同席できてよかった。理不尽な扱いをされたときに、魔力で身を守ることを約束させている。これでお前が身体的に傷つけられることは無いだろう。ただ、お前は不甲斐ない父を恨めば良い」


そう言われてしまいました。暗に精神的には傷つくことになると言われていることに、そこはかとなく恐怖を感じました。しかし蓋を開けてみると割と快適でした。顔を会わせることがほぼありませんでしたから。


入学してから学校では会うことはありませんでしたし、月に一度の交流も場にほぼ現れないのですから。偶に来たとしても、私を見て鼻で笑うくらいです。口を開いたとしても出てくるのは罵詈雑言です。


「なぜ第一王子である俺の婚約者がお前のような田舎娘なのだ。王太子になる私にふさわしくないだろう!」

「私が田舎者であることは真実ですので何を言われても構いません。しかし、お―――」

「うるさい!お前の言葉など聞きたくもないのだ!黙っていろ!気分が悪い、私は帰る!」


こんなやり取りを初めての茶会で交わしたあとは一度も来られませんでした。それ以降は、私が王家のメイドにお茶を頂いて読書をする時間となっています。殿下付きの者が余りにも外聞が悪い行動を陛下の耳に入らないように苦心されていたとは聞いております。

とはいえ、一度婚約を結ばされてしまった以上、格下の私からは何も言うことが出来ませんでした。先程の婚約破棄の申し出には本当に、心の底から感謝したいくらいです。


その後の殿下は、月に1度のお茶会の友人との交流と言っておられました。まだこのときの友人は取り巻きの男性であるだけマシだったのです。最後の1年は、お隣に侍らせているフェイザ様との逢瀬をお楽しみだったと噂になっておられました。私にとっては楽で良かったですけれど。


さて、過去を思い返すのはこれくらいにして、現実と向き合わせてもらうとしましょう。初めて会う女性に私が何をしたのか、どんな冤罪を吹っかけて来るのかを聞かせてもらおうじゃないか。

目に力を込めて壇上に立つ2人を睨みつけるようにして、事情を説明してもらえるように要求する。


「では、ご質問させていただきます。非道、とはどういった内容でしょうか」


私がそう発言すると、本来は美しい顔を殿下はぎゅうっとゆがめる。そこまでの発言だろうか。私には何も心当たりが無いのだからそこはハッキリ聞いておかねばならない。


「お前がこの私の愛するフェイザに対して行ったいじめに関してだ!神聖な学び舎で非道を行ったお前を許すことは断じてないぞ!」


いやいや。その神聖な学び舎でイチャイチャとくっついていた人たちおセリフとは思えない。頭に詰まっているのは何だ。綿か。いや、それは綿を作ってくれる農家の方に失礼だ。そうなると空っぽ以外にありえないな。


「なるほど。分かりました。では詳しくお教えいただけますでしょうか。私にはそちらの令嬢との面識すらございませんし、いじめ…ですか?そんなことを行う理由がございません」

「はっ!この期に及んで、まだそのようなことを!私をフェイザが運命の出会いをしてしまったことに嫉妬したからだろうが!」

「運命の出会い…、嫉妬…でございますか。しかし―――」

「そうだ私たちは、真実の愛で結ばれた仲なのだ!」

「ラカンスタ様…」


嫉妬するほど殿下のことなんか慕った覚えがないという言葉すら遮られてしまう。心底鬱陶しい…。

殿下の発言にマサレ男爵令嬢は感激し、キラキラとした目で見つめている。殿下はそれを受けて満開の笑顔で返している。そして、周囲には誰もいないかのように2人は見つめ合っている。絵画として鑑賞する分には耐えられるが、現実としては受け入れがたい。

何でしょうか、あれは…。形容しがたい何かを見させられています。しかし、ここは避けては通れない山です。仕方ありません、挑みましょう。まず訂正からです。


「嫉妬と殿下は仰られましたが、それは決してありえませんと宣言させていただきます。それと先程も申し上げましたように、面識のない方に対して何かをすることなど出来ません」

「ひどいです、セリエール様!私、本当に怖かったんです!謝ってください!そうしたら許しますから…」

「あぁ、フェイザ、なんと勇敢で思いやりに溢れているのだ。やはり君こそ国母にふさわしい!」


色々と訂正の必要はありますけれど、この2人を相手するには頭痛がしてきそうです。話が進まないし、聞く耳を持ってくれない。釘だけ刺しておこう。


「では、フェイザ様に先に二点だけお伝えいたしますね」

「謝ってくれるなら…私はそれで」

「いえ、その前に貴族としての立ち振る舞いを一点、名前を呼ぶのは本人の許可を得てからです。私のことはディクスター伯爵令嬢とお呼びください。姉も妹もおりませんので、正しく私のことを指しますので」

「それは、殿下が良いと言われたのです!」

「そうだ。第一王子たる私が許可を出したのだから良いのだ!」


だから本人の許可が必要だと伝えているでしょうに…。説明しても分かってくれないのかしら。


「ではもう一点。貴族であれば謝罪だけで済まないことも多くありますが、あなたは謝罪だけでよろしいのですか?」

「構いません。まず謝ってください!」

「謝るのだ!」


なぜ殿下は先程から同じことを繰り返しておられるのでしょうか。鸚鵡という鳥のようですね。ふふ。

それと殿下の陰に隠れているけれど、楽しくてたまらないって表情が見えていますよ。私くらいしか気づいていないでしょうけれど。そうですか、あなたもそちら側の人間ですが。では、手加減は不要ですね。


「行っていないことで謝ることは出来ません。私が行ったとされること全てを先にご説明頂けますでしょうか」

「やっぱりそんなことを言うなんて!ひどいです!」

「仕方ない。分からせるしかないようだ。すぐ終わるから、もう少しだけ待ってくれるか。私の可愛いフィー」

「はい。ラッカさまぁ」


やはり人前でおかしい距離感でくっついて見つめ合う二人。ノリでもお前らの間に貼ってあるのか?おっと、この口調はいけませんわ。領地にいたときから考えれば口にしなかっただけ成長してますわね。

既に会場全体からはどうしようもない程に冷たい視線を放っているが、熱い視線を交わす二人には届かないようだ。少し待っていると二人は説明しないといけないことを思い出したようです。


「では、説明してやろう。まずお前はフェイザが教室に置いていた筆箱を隠した。翌日に探しても見つからなかったのだぞ!」

「どうしてそれが行ったのが私だと判断されたのですか?」

「フェイザが見ていたと言ったからだ」

「見ていたなら止めれば良かったのでは?」

「そんな!私は怖くて…」

「貴様の行いだと認めないというのか!!」

「それよりも、なぜ教室に置いたままにされているのですか。ご自宅で復習はされないのですか?それと忘れ物として高価な筆箱や何冊もの教科書が届けられていると有名です。マサレ男爵令嬢のものと思われますが?」

「くっ…!本当に強情なやつだ!!」


いや、貴族だろうと自分の持ち物くらい自分で管理しろよ。それに清掃を担当している方々が回収して下さっているに決まっているだろうが。余りにも同じものが届けられるから、平民の特待生に無料で渡してしまおうかという話が出てくるくらいだぞ。そしてこの費用はどこから出ているのかといえば、殿下の婚約者のための予算からだ。…また頭痛がする。


「認めないというならば次だ!お前はフェイザだけを除け者にして茶会に招かなかっただろう!お前の取り巻きも散々と罵ってきたと聞いているぞ!」

「では殿下に申し上げさせていただきます。御存知とは思いますが、上級貴族と下級貴族では求められる交流が違っております」

「はぁ?」


そこから説明せねばならないというのはなぜなのか。仮にも今日は卒業式のはずだ。馬鹿という概念が受肉して歩いていると言われる殿下でも一通りは経験しているはずではないのか。こめかみを押しながら説明をする。


「マサレ男爵令嬢も念のためにご承知おきください。下級貴族の女性であれば、就職先や嫁ぎ先を探します。上級貴族も行いまずが、主な目的は領地のための情報交換を致します。領民のためでもあり、寄子にしている下級貴族の方々のためにも成人前から交友関係を広げておくのです。そして将来何かあったときに助力してもらえるように備えるのです。そんな場に下級貴族の方が一人だけ参加されても場違い過ぎてお互いに困りますでしょう?」

「ひどい!人を差別するんですね!横暴だわ!」

「はぁ…?今のどこに差別があるんですか?上級貴族の子どもは半分仕事でお茶会をしているとお伝えしています。殿下も…」


そう言いかけてハッとした。この人にとってもお茶会で行うような交流なんて人間が行う仕事なんて任せられない。だから遊びのお茶会しか参加したことが無いことに気がつく。これは理解してもらうことは無理だ。話を変えよう。この二人は話題の転換について来るだろうか。


「それと私の友人が言いそうなことについて申し上げておきます」

「いいだろう」


やった!ラッキーだ!ちゃんと話についてきた!奇跡じゃないかしら。頭の中でどう情報の処理をしているのか知らないが、気づかれないうちに次へと進もう。


「先程の私の発言と同じことをお伝えしたのだと思います。卒業後に私は辺境で過ごすことになりますので、あまり王都在住で家業も危ういマサレ男爵家と繋がるメリットがございません。ましてや学年も違いますし。そういう意味で交流の仕方をお伝えしていたのではないかと。そして意味が掴めないマサレ男爵令嬢が罵られたと感じたと推測致します」


目線だけで確認すると、正解とのジェスチャーが出ていた。さすが親友、通じ合ってる!私も親指を立てておく。


「お前は何をおかしなことを言っている?お前も王都に残るはずだろう。領地に戻るなど聞いていないぞ?」

「はい?」


思わず気の抜けた返事をしてしまった。そして食いつくところが若干おかしい気がすると思っていると、爆弾発言が飛び出した。


「私は王太子になるのだ!認めたくは無いが元婚約者の貴様も王都に残るに決まっているではないか。先に伝えておくが、婚約破棄後も愛妾として囲ってやるぞ。光栄に思え。そして、優秀と噂のお前の力を有効に使ってやるから私とフェイザの仕事を代わりに行え。10年も上手く成果を残せば一度くらいは情けはくれてやろう」


会場が一気に静まってしまった。色んな意味でこれは非常にまずい。既に婚約破棄宣言から会場から教師も卒業生も何人かいなくなっているのは気づいている。王家、我が家、騎士団など方々へ連絡をしているのだろう。だが今の発言で騎士団系列の家の方々が一気に雰囲気が変わった。これは別の意味でも大事になるな。あと、女性蔑視発言は残念ながらそこまで深く取り上げられない。

ここからの私の役目は、時間稼ぎと身柄の確保へと変更される。また、不当な拘束を行うと発言されたに等しい。準備だけしておこうと右手に付けていた指輪を外す。合図のようなものだ。領地からの友人たちが頭を抱えるが行動を開始してくれる。持つべきものは友人だ。


「そうでございましたか。それはまた後程お話させていただくとしまして、他に私が行ったことなどあるでしょうか」

「うむ。ようやく分かったようだな。心して聞け。お前はそれでも私たちの愛に嫉妬した故に、フェイザを階段から突き落とした。これは言い逃れできまい!殺人未遂だぞ!詳しく話してやるのだ」


本当に殺人未遂だったら、捕まって殿下たちの代わりに仕事なんかできないですよ。しかし、マサレ男爵令嬢の愉快だと言わんばかりの表情が凄い。その口が三日月みたいになってるのはどうやってるんだろう。噂に聞く魔女とやらの血筋だろうか。


しかし…、はぁ、そうか~。本日最大の頭痛がする。

殿下が偉そうに説明を続けているが、自分でも分かるくらいに拳に力が入る。よりによって私がヒトの命を奪うことをしたと言うのか…。


「はい。ラカンスタ様。セリエール様に屋上へと続く階段のところに呼び出されたんです。怖い表情のセリエール様が近づいて来たと思ったら、いきなり押されたんです。勢いを付けてドン!って。本当に怖かったです。階下に落ちた衝撃で気を失ってしまって、目が覚めた時にはラカンスタ様がいてくださって…。その…天使様かと思いました」

「天使は君のことを言うんだよ、私の私の可愛いフィー」

「あぁ、ラッカさまぁ」


また見つめ合い始めた。でもその時間が長い。一番の逆鱗を踏まれているし、ガマンなんかしなくていいか。もう面倒だ。異常事態だと外に伝わっているはずだし、あとは上の方々が徹底的に行うだろう。


その前に私が無実だと証明できることがあるからそれを証明しておくことにしようか。やっぱり私には無理だった。この婚約は何から間違っていたのだろうか。私を殿下との婚約者などという不名誉な生贄などに選ぶからだろう。つまり、王家が悪い。だったら私が一回くらいやらかしても良いよね?


友人たちよ、先に謝っておく。ごめんなさい。


「え~。すいません。あんたたちにわたしがやったんじゃないってことを証明しても良い?」

「なんだ。本当にお前は邪魔ばかりだな!」

「…えっ、なに?」


こういうときは女の方が敏感だ。面と向き合っているフェイザは気づいたし、私の友人たちも一斉に察知した。そして、会場中の人たちの避難誘導を大声で叫び、入り口の方へと追いやり始めた。


「殿下は我が家の領地に何があるかちゃんと知ってるか」

「知らんな!貴様が王都に来てからのことしか知らないし、わざわざ知ろうとも思わん」

「何よ、その口調…」


仮にも王子が特色を知らないって時点でダメだし、婚約者になった家のことを学ぶことすらしてないなんて。やっぱりアホ王子だ。

ちょっと落ち着いて話すようにしよう。逃げられても困るし、逃げられないようにだけしておこう。ただ自覚するほど怒りが漏れる私は、怒りと共に魔力も少しずつ解放する。


「そうか。我が家の領地にはダンジョンがある。ちなみに伯爵家って言ってるけど、国境付近ということもあってあんたと私の婚約で辺境伯の地位を頂きました。我が家は私が生まれる前から他国の侵攻対策、ダンジョン管理が主命となってた。だから我が家は通常に比べて、武力を非常に重視した傾向がある。私も5歳の誕生日から剣を握り、また魔法を身に付け、ダンジョンに潜ってた」

「な、なんだ?」

「あなた、何なの!?」


話しながら、ここ3年間は王都にいてまともに使っていなかった魔力を少しずつ体から放出していく。少しコントロールが甘くなっているかもしれない。まあ気にしないけど。肩で切りそろえている金色の髪が魔力が放出されるのに従って天へと向かって逆立つ。暴れる髪の邪魔になっていたティアラも外すと魔力が更に大きくなる。指輪と併せて共に魔力を抑えていた。咄嗟に抑えきれなくなって魔力を解放すると周りに迷惑がかかるからだ。


それを見て馬鹿2人は逃げ出そうとするが、そんなことをさせるわけがない。


「なっ!?なぜ見えない壁のようなものがあるのだ!?」

「ちょっと!どういうこと!?」

「逃げられないように魔力の障壁を張っています。後で解除しますからまだ大人しくしておいてください」


既に会の参加者たちは私の後方の入り口付近へと移動している。逃げ出した人もいるだろう。友人たちと逃げ出さずに最後まで見物することにした人たちは残っている。怖いもの見たさかな。誰が化け物だ。間違ってないけど。こんな魔力量を持っているなんてすごすぎる、という声が聞こえる。


「王都に出てくるまでの約10年間ほどは、貴族としての勉強よりも領地を守るために鍛えることを優先しすぎてしまいました。8年前に国中に回った噂をご存知でしょうか。ダンジョンが攻略されたというものです」


見学者たちから、そういえば、と言いながらざわつく声が聞こえる。友人たちが話を聞くように沈めてくれるのを待って、一言付け加える。


「それ、私です」


しーんとしたあとに、今日一番のどよめきが起こる。


「名だたる冒険者パーティが挑んで帰還しなったり、逃げ帰ってきた後に即座に解散させたと言われるダンジョンを!?」

「いや、でも制覇の噂だけで攻略者が現れなかったことで、嘘じゃないかと言われていたじゃないか!」

「そうです」


私の一言でピタッとざわめきが止まる。よく訓練された何かになっている。こんなことが出来る方たちならもっと交流しておけば良かった。なんか楽しい。


「当時10歳の私と現地の友人の二人でダンジョンを攻略しました。放っておけば魔物暴走を起こしかねませんでしたから。その後にお父様が王家に報告だけしたと聞いています。攻略した者については公表されなかったようですね。思えばその時から何か企まれていたのかもしれません」


ダンジョンを攻略した後は、落ち着いたダンジョンが良い遊び場になったし、拾って持って帰った物が高価なもので他国への防備に予算が回せるからとお父様も私のダンジョン遊びを長らく止めなかった。


「その結果、貴族の機微を学ぶのが遅れ、王家に騙されてしまったのは私の人生の汚点です」


こんなクソみたいな不良物件を押し付けようとしたのだ。あとから何を言って来ようが王家に騙されたと言いきってしまおう。お兄様が婚約時に交わしてくれた約束事もあるし、大丈夫だろう。魔力の解放と共に抑えていた感情が溢れてくる。


「私が不機嫌な理由も言っておこうか。領地での生活の中で命の大切さを学んだ。自分で狩った獲物だから自分で食えと言われ、自ら捌いて肉を頂きました。命を頂くということを身をもって感じました」


これくらいは魔物をいる世の中なのだ。貴族なら狩りの経験くらいはある。しかし――


「命を奪おうとしたという冤罪に関しては許しません。悲しいことに一緒に訓練を行った兵士が魔物に不意を打たれたことで亡くなってしまうことがありました。もう一人の兄のように慕った方でした。その日の朝も一緒に食事していたというのに。命が無くなる悲しみと辛さは言葉では表現できません。遠征から戻ってからご家族と一緒に涙を流しました」


およそ貴族の女性がすることではないけれど、どの家にも大事にしていることがある。その中でも我が家が特異なだけだ。また、兵士が亡くなったことに悲しみの表情を浮かべてくれる人がいたことに感謝したい。私も思い出して目頭が熱くなる。

目の前に立つ2人は私が放つ魔力に怯えているが。


「……その、私が!階段から人を殺そうとして、全力で突き落とそうとしたというのですか……!!」


まだ全解放してはいないが、一番得意な風属性の魔力が、既に嵐のように会場に吹き荒れている。嫌がらせを偽装されるだけでも腹が立つが、殺人を犯すと思われていることは私にとっては最大級の侮辱だ。最後通告を宣言する。


「これは私が全力で両手で突くとどうなるのかの実験です。また殺すだけなら階段などの場所に拘る必要が無いことも同時に証明できると思います。これであなたの証言が真実を告げていないことを示す私なりの物的証拠ですからお付き合いください。あぁ、建物の修繕費くらいは私個人で支払えますからお気になさらず」


説明をした後に会場の内装をボロボロにした魔力の暴走を両手に集中させる。魔力は才能が無い者の目には見えないが、私が極限まで圧縮すると誰にでも見えるようになる。前に一度試したときは丘が平地になった。

今は目の前の標的2人にも見えていることだろう。


「ご、ごめんなさい!ゆ、許して」

「出来ません。私が考える冤罪を晴らす方法ですから。嫉妬して殺そうとしたのでしょう?いつでも殺せるということを理解してもらわねばなりません。何よりあなた方は」


最後の準備で両手に一つずつ作っていた魔力塊を、一つにまとめる。


「私を怒らせました」


「ごめんなさいごめんなさい!全部私が自分でやったの!だから命だけは助けて!」

「なんだって!フェイザ!?」

「王妃になれば贅沢できると思っただけ!死ぬくらいなら諦めるから!」

「そ、そんな、嘘だろう?」


フェイザが自供したことで一応収束と判断できないことも無いか…?いや、裏付けが取れるまでは私もまだ容疑者だろう。ならば暴れるだけ暴れてしまおう。一つにまとめた魔力塊は抱えきれない大きさとなっており、ゴゴゴ…と音がしている。


「セ、セリエール様、心から謝罪いたします!本当に許してください!」

「済まなかった!私も許してほしい!」

「盛り上がっているところ申し訳ありませんが」


謝罪の姿勢を示しているが、お互いが逃げようとするのを邪魔しあっているだけの足の引っ張り合いだ。心が全くこもっていない。


「今更何を言おうと関係ありません。私に出来ることを行うだけです。………ぶっ飛べやぁぁぁぁああああ!!!」


気合の掛け声と共に魔力塊を押し出した。空気の動きを急激に起こしたので会場全ての窓が一斉に壊れ、ガラスや木材が頭上から降ってくる。私は自前の障壁で防ぎ、見物していた人たちも友人たちが障壁を張って安全確保されていた。


凄まじい風が吹きやんだ時には私の正面にあった壁は全て吹き飛んでいた。壁の向こうが大きめの校庭だったのは自分が通った学び舎だから分かっていた。ただ、遠くにあったはずの森まで木々が根から起こされているとは思わなかった。自然災害でも通り過ぎた後のようだ。


「久しぶり過ぎて加減を間違えた!」


一応見学者たちに聞こえるように言い訳だけしておく。これで大丈夫だろう。たぶん無駄だけど。さすがにやり過ぎたかな。


あぁ、ゴミ二人は一応情けで張った障壁で覆ったので無傷だ。ただ、森の奥の方まで飛ばされていた。球状に張った障壁だからよく飛んだみたいだ。

馬鹿2人が気を失っているのは、普段見ることが出来ない光景に感動したからだろう。そう思うことにする。はい、決定!


だが、この一言だけは言わせてほしい。


「あ~、スッキリした!!!!」


////////////////////////////////////


あのあと、建物は修繕でどうにかなる範囲を超えていたため一度取り壊して新たに建て直すことになった。解体と瓦礫の撤去は私が立候補して一日で終了させた。久々に全力で体を動かせて良い汗をかいた。


婚約内容について正しく示しておくと、第一王子殿下は本来なら辺境伯領にまずは婚約者として入るはずだった。あんな愚物が王太子になれるはずがない。既に第二王子殿下が内々に王太子に内定している。

心身ともに鍛え直して私が認めれば婚姻を結ぶはずだった。そして辺境伯家から別の家を興し、ダンジョン管理を主に行う家となるはずだった。何度となく説明されたはずのことを全く覚えていなかった。結婚どころか鍛えるために領地に連れて行くことすら嫌だったから婚約破棄をしてくれて良かった。


王太子発言により王位簒奪をもくろんだとして王族から除籍することが決まり、貴族として男爵位からやり直させるかで議論されている。平民になったところですぐに死んでしまうだろうし。

第一王子だから王太子云々を吹き込んでいたのは、王太子の内定を知らされていなかった母親の側妃と側妃の実家から派遣された教育係で、こちらは意図的に王家を乱そうとしたとして貴族籍の維持すら怪しいそうだ。


あと男爵令嬢は私の可愛さがあれば王妃になれたとか、ここは何のげえむからのべの世界なのか分からなかったから失敗した、とか理解出来ないことを叫んでいたらしい。

少なくとも伯爵家令嬢を意図的に貶めようとしたことは明白だ。王家からの命令は男爵家から確実に追放するように命令が下った。男爵自身の関与を調べるのはこれからになるそうだ。


二人纏めた方が監視が楽なんじゃないかと私が呟いたことがどこからか伝わったらしく、ダンジョン関係の下働きに出してしまう案が上がっているそうだ。

私の名前にすら怯えるようになった二人は私が領地に帰れば、大人しく慎ましやかな生活を送るだろう。ダンジョン関連だとどこかで会ってしまいそうで私は嫌だ。だけど私の人生には関わりがなさそうなので、興味が無いと言えば興味がわかない。


そして現在の私はと言えば、しばし領地に帰れず王都にて事情を聴かれることとなった。それは全く構わなかったのだが、一番の危機はそれではない。

卒業式にやはり忙しいお父様は来れなかった。そのお父様の代理で来ていたお兄様が領地へ帰る途中で、この事態を知ることとなってしまった。お兄様はお父様へと伝令を回して王都へと引き返してきたことが一番のピンチだった。

私と同じく領地で育ったお兄様の拳骨は非常に痛いのだ。バレないように魔力で防御しても関係なく頭の芯に響いてくるくらいに痛い。幼いころからどう避けようとしても当てて来るし、何をどうしても痛いのだ。


「お前ね。俺が去年顔を見に来た時に約束してただろうが」

「そんなこと言っても向こうから喧嘩吹っ掛けてきたんだぞ。やられっぱなしでいられるかよ」

「口調も昔に戻ってるぞ」

「それはにいち……、お兄様がその口調だからです」

「領地に帰れば、ヤツが待っていることだしな。婚約が無くなって良かったな」

「う、うるさいです」


一緒に学び始めた剣は一度も勝てず、彼の苦手な魔法は3年前は私が勝っていたが、王都で使う機会が無かった今はどうだろうか。ずっと戦っていた彼の方が上回っているような気がする。


「心配しなくても領地ごと、お前のことを守ってやるから安心しろ!」


彼は平民で、私は伯爵家の長女、あのときはすごく心打たれたけど無理だということは分かっていた。形だけとはいえ婚約破棄され傷モノになった私なら彼との未来を夢見ても良いだろうか。それにしても――――


「頭の悪い王子に近づこうとする男爵令嬢の存在なんて、最初から把握していたわ。出会いの演出をしたのは誰だと思っているのかしら」


隣でお兄様が溜息を吐いている。この貴族の顔は彼の前で出ないように気を付けよう。

お読みいただきありがとうございました。

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[一言] ぶっ飛べやぁああああ!!!! まぁ転生者ですよねw 久々に婚約破棄ものでぶっとんだ令嬢をみました 叫んだところ高まりました(笑
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